どのルートか
尚斗が、言った。
「…オレから見たら、杏奈さんと拓郎さんが黒だったから、今日道連れになった伊緒さんと愛里さんで4人処理できてる。グレーに3狼居たとは思えないから、公一は白だ。でも、永嗣さんはまだ分からない。オレは安治さんは狼だと思っているが、永嗣さんは狂人でもおかしくないと思ってるんだ。恵令奈さんが偽だったって、誰にも証明できないじゃないか…狼は、ある程度計画を立ててると思うんだよな。こんなにあっさり、グレーに居るのに吊り切らせるのもおかしいなと思ってるんだ。だから、別に安治さんが永嗣さんだって言うなら、そこを吊って置いてもいいと思ってる。なぜなら、安治さん目線じゃまだ、2狼なんだろ?オレからしたらもう安治さんを吊ってもらったら終わると思ってるけど、村目線じゃそれは飲めないんだろうから。」
何やら尚斗が、白い事を言っている。
あゆみは、それを聞いて思った。
尚斗と永嗣が繋がっているのなら、こんなにあっさり吊って良いとは言わない気がする。
何しろ、まだ3縄あるのだ。
狼同士なら、生き残りたいと思うだろうし、狂人と狼でも、ここまで詰まって来ると狼は狂人に生きていて欲しいと思うだろう。
安治は、顔をしかめた。
「マジか。だったら永嗣はあって狂人かな。尚斗はオレ目線でも黒だと思ってるから、昨日公一を庇った発言をしていたし、だったらやっぱり公一と尚斗で良いのかな。」
重久は、しかし眉を寄せて言った。
「別に公一を庇ったって言っても、拓郎を責めてたわけだろう。その拓郎は確黒だ。安治さん目線でも、それでは判断付かないはずじゃないか?とはいえ…狩人は三人居たわけだし、伊緒さんが狼確定したからって永嗣が真って事にはならない。護衛成功を待つにはもう切羽詰まってるしなあ。狂人だったら最終日、めんどくさいことになるし、縄が浮いたならそれを永嗣に回す方が後々安心かな。どう思う?明生。」
明生は、ため息をついてホワイトボードを見上げた。
「…仮に永嗣さんが狂人だった場合、ここまで不自由をしながらもお互いの指定先を噛まずに来たのは、最終日に有利にするためだとしたら分かる。だが、結構リスクだっただろう。だから真だと思いたいが…途中無理な護衛変更をして、カイを失った事実は重い。それに関わった尚斗も黒く見えるし、それを促したように見える安治さんの行動も怪しい。ここの三人は、占い結果もなしには精査は難しいんだ。その上、確黒の拓郎さんとずっと意見が同じだった公一…。この中の、たった一人の村人さえ決め打てたら、後を吊り切って勝てるのに。後一日、カイの占い結果が落ちていたらな。そう思うと、やっぱり永嗣さんか尚斗は吊っておかなきゃならないのか。」
公一が、言った。
「もう、今夜はオレでもいい。そしたら今夜、もしかしたら永嗣さんが護衛成功を出すかもしれないだろ?それで真が確定したら残して霊媒ローラー、永嗣さんが護衛成功できなかったら永嗣さんを吊って、最終日尚斗か安治さんの決め打ちにするしか、方法はないと思う。オレは村人だけど、村目線じゃ分からないだろうし、時間稼ぎをするよ。永嗣さんには、死ぬ気で護衛成功出してくれって言っておく。」
あゆみは、それを聞いて思わず、言った。
「…白い。」え、と皆があゆみを見る。あゆみは続けた。「公一さん。白く見える。狼だったら、永嗣さん吊りを推しても誰も怪しまなかったわ。安治さんですら、永嗣さん狼があるかもって言い出してるんだもの。それを、自分を吊って今夜真証明の機会を与えようとするなんて、狼だったらしないわよ。たった一人の村人をって言うなら、私は公一さんを残したいと思ったわ。だって…永嗣さん、尚斗さん、安治さんは、全く精査ができないんだもの。吊り切る以外、安心できないじゃない。」
安治が、顔をしかめた。
「オレは真霊媒だ。それなのに、人外諸共吊れってか?それに、オレはまだ公一が白いという印象だとしか言ってない。もしかしたら、永嗣が狼なのかって言っただけだ。尚斗と永嗣がどうしても繋がって見えてたからだ。だが、尚斗が永嗣を吊ると言い出した以上、オレは公一を残すのは危険だと思う。オレ目線じゃ、杏奈さんは黒じゃなかったんだからな。まだ2狼居るんだ。簡単に騙されるんじゃない。」
あゆみは、強い調子で言われて、怖くなって黙り込んだ。
重久が、割り込んだ。
「まあまあ。あゆみちゃんは確白だ。印象を言ってるだけなんだから、責めるな。とはいえ、確かに安治さん目線では公一を残すのは危険だわな。」と、明生を見た。「どうする?明生。最悪後2狼だ。公一が言う通り、グレー吊りを完遂してから考えるか?」
明生は、じっと考えていたが、渋々頷いた。
「…残念だが、オレにも白そうに見えてるんだが、まだ安治さんの真もあるし、グレーを残すのは怖い。だから、今夜は公一を吊る。その上で、今夜永嗣さんは死ぬ気で護衛を成功させてくれ。守り先は任せる。それで、護衛成功が出なかったら永嗣さんを吊って最終日霊媒精査。護衛が成功したら、尚斗と安治さんのローラーだ。そうしよう。それしか、安全な道がない。」
公一は、納得したように頷いた。
「それが良い。オレも、寝て待ってる。みんな痛みとか感じてないみたいだし、ちょっと怖いがオレは大丈夫だ。責任を取らないとな…初日から、白いとミスリードしてた拓郎さんが確黒だった時から、思ってたんだ。後は、任せる。」
重い。
あゆみは、思った。
永嗣が護衛成功を出せずに、吊られてしまったら狼は噛み放題だ。
狼からしたら、あゆみなど噛もうと思わないだろう。
明生や復活して来た重久の方が、村の進行をきっちり進めて行けるので、先に処理したいはずだった。
きっと、最後に決めろと言われるのは、あゆみなのだ。
あゆみは、自分が残される未来が見えて来て、まさか襲撃されたいと思う時が来るなんて、と、叫び出したい気持ちになっていたのだった。
今のところ、確定狼は愛里、伊緒、拓郎の3人だ。
加えて、尚斗目線では杏奈も狼だったので、後1狼だった。
そして、狐は和美と昌平か、一輝と和人だが、昌平の様子では和美と昌平の二人だと村では見ていた。
最悪後2狼、尚斗目線では1狼で、ゲームは終わる。
あゆみは、この1週間を思った。
ここへ来てから、かなり長い時間を過ごして来たような気がする。
初日に去った恵令奈とはあまり話せなかったが、仲良くなった和美、愛里、杏奈、佳純、伊緒と立て続け手に去って行った。
気が付けば、初日20人居た人達が、もうたったの7人になってしまっていた。
それでも7人の内明生、重久、あゆみの3人は確定村人だ。
あゆみは、まだ相談できる人が残っていて本当に良かった、と思っていた。
全員が居なくなってグレーに囲まれていたなら、不安でたまらなかっただろう。
そう考えると、狩人に騙って出てくれていた、伊緒には感謝だった。
だからこそ、護衛先が2つになり、破綻したくない狼に襲撃されずに多くの確白がここまで残ってくれた。
しかし、明日からは永嗣次第だ。
明生が居なくなって、重久も居なくなったら、あゆみだけで最終日を戦える自信はなかった。
尚斗と安治の精査が、あゆみにはできないのだ。
どうか、今夜永嗣には護衛成功させて欲しいと、切に願っていた。
朝の会議はあれほど急いで開いたのに、午後から夜まで、一切誰も呼びには来なかった。
つまりは、もう公一吊りに決定してしまっていて、これ以上話し合う意見も情報もない、という事だった。
あゆみは、いくら何でも今夜はまともな物を食べておこう、と、投票時間前にキッチンへと降りて行ったのだった。




