七日目の朝に
夜は佳純とも会話もなく、ひたすら淡々とネル準備を整えて、あゆみは眠りについた。
次の日の朝は、思った通りあゆみは目を覚まして、問題なく狼に共有だとバレていないとホッと胸を撫で下ろす。
そして、6時の解錠を待った。
…誰が襲撃されたんだろう。
あゆみは、ドアノブを見つめてじっと考えた。
狩人と霊媒師はもう、襲撃されることはないはずだ。
狼には、縄を消費するための相手が必要になるからだ。
しかし、護衛は確定白に入っていて、狼もかなり危ない橋を渡ることになっているはず。
こうなるのが嫌なら、さっさと狩人の狼を諦めて真狩人を噛むべきだったが、狼はそれをしなかった。
ここまで来ると、もう噛めない。
明生と重久には護衛が入り、破綻しないためには狼に指定された先は噛めない。
二択で景清を噛めば、そこは猫又トラップだ。
あゆみは、ドキドキしながら解錠を待っていた。
ガツンといつものように解錠され、あゆみは勢いよく扉を開いて外へと飛び出した。
廊下は、シンとしている。
向こう側を見ると、そこには明生が一人、ポツンと立ってこちらを見ていた。
「…明生さん?」
あゆみの声が響く。
明生は、言った。
「…景清か。」と、急いで自分の隣りの部屋の扉を開いた。「あゆみさんは、伊緒さんの部屋を見てくれ。」
え、と背後を振り返ると、いつもそこに立っていた、伊緒が居なかった。
…え、伊緒ちゃん?!
あゆみは、混乱した頭で必死に考えた。
…狩人…狩人を噛んだの?
あゆみの頭は上手く回ってくれない。
だが、明生に言われるままに、隣りの伊緒の部屋の扉を開いた。
「…伊緒ちゃん?寝てる?もう6時だよ。」
信じられなくて、あゆみはそう声をかけながら部屋へ足を踏み入れた。
足を進めると、テーブルの上には昨日二人で飲んだ、ペットボトルが飲み掛けのまま放置されていた。
ベッドを見ると、伊緒がベッドに突っ伏した状態で、倒れているのが見えた。
「え…」あゆみは、床に膝をついて、ベッドに顔から倒れ込んでいる伊緒に駆け寄った。「伊緒ちゃん!」
思わず掴んだ肩は、冷たく感じて慌ててあゆみは手を放した。
「…死んでる。」
あゆみは、呟いた。
伊緒が死んでいる…これは、どういうことなのだろう。
あゆみが呆然としていると、明生と重久が背後から飛び込んで来て、言った。
「…伊緒さんか。」
あゆみは、混乱したまま二人を見た。
「そうなの!どういうこと?!どうして狩人が噛まれるの?それだけはないと思ってたのに!」
「落ち着け。」明生が言った。「景清だ。景清も死んでいた。つまり、そういうことだ。」
あゆみは、やっと分かった。
猫又噛みが発生したのだ。
「え…。」
ということは、伊緒が狼。
永嗣が真狩人なのだ。
三階から来ていた、他の人達が困惑した顔をしている。
公一が、言った。
「…どうして二死体出たんだ?狐…でも、占い師はもう居ないよな?景清さんが、やっぱり占い師だったとか?」
皆、混乱している。
明生が、言った。
「…猫又噛みだ。」え、と全員があゆみを見る。明生は続けた。「ずっと騙ってた。本当の共有者は、あゆみさんと佳純さん。猫又は、景清だったんだよ。つまり、伊緒さんが狼で道連れになった。狼は、長い間かけて共有と猫又が張った罠に掛かったんだ。」
皆が、息を飲んだ。
明生は、伊緒をベッドへと上げながら、言った。
「…じゃあ、会議だ。このまますぐ下に降りてくれ。」
あゆみは、景清が噛まれてくれたらとあれだけ思っていたのに、いざそうなったらうろたえる自分が不甲斐なかった。
が、まだベッドの上に無造作に上げられて、手足を放り出して横になっている伊緒の青い顔を見ると、ショックで頭が全く働いてくれなかった。
皆が、明生にせっつかれてリビングへと追い立てられて、もはや空きばかりになったソファに座らされ、向き合った。
明生は、皆を見回して、言った。
「オレ達確定白の間で共有していた情報を、もう一度開示するぞ。あゆみさんと佳純さんが共有者で、景清が猫又だった。景清は、初日は占い師に出て騙りを減らし、その後佳純さんとあゆみさんと話し合って共有者としてCOして、襲撃を待っていた。佳純さんが襲撃された時、景清を守らせていたのは佳純さんからのアドバイスだった。あまりにも景清に護衛を入れずにいたら、狼から怪しまれてしまうので一度は護衛をさせておこうということだったんだ。そうやって、じわじわと狼を騙し続けてやっと、昨夜景清は襲撃された。伊緒さんという狼を一人道連れにして。これで、狩人を決め打つ必要がなくなった。これで、村目線で狼は確実に二人処理されたことになる。愛里さんと、伊緒さんだ。尚斗さん目線では、杏奈さんも狼だったので三人処理、安治さん目線でも、昨日の拓郎さんは必ず狼だという事になるので、三人になるんじゃないか?二人の昨日の霊能結果を聞こう。尚斗は?」
尚斗は、答えた。
「…拓郎さんは、黒。狼だった。」
安治は、言った。
「同じだ。拓郎は、黒だった。つまり、確黒だな。」
拓郎は、狼だった。
あゆみが、あの白さで狼なのかと目を丸くしていると、明生が頷いた。
「ということは、尚斗目線じゃもう、狼は一人。愛里さん、杏奈さん、伊緒さん、拓郎さんで4人吊れているからだ。安治さん目線じゃ、まだ公一と尚斗の二人って事になるか?」
安治は、息をついた。
「こうなってから、考えたんだ。拓郎は黒だったが、その拓郎とずっと意見を合わせている公一が、本当に黒なのかって。狼だったら、あからさま過ぎておかしくないか。伊緒さんが狼だったのは分かった。だが、永嗣さんは?…まさかと思うが、公一が村人で、狩人に二狼で、初日の恵令奈さんが真だったんじゃないかって、急に怖くなったんだ。確かに、二人はあからさまに対立していたが、そう思って考え直してみると、わざとらしいように思えて来てな。絶対に二狼を見られないように、徹底的に対立してるんじゃないかって。」
狼が狩人に二人出ていたのなら、そうするのが正解だろう。
だが、伊緒は本気で永嗣とやり合っていたように見えるし、そもそも昨日の会話にしても、両方が狼なら、わざわざ永嗣の護衛指定先を知ろうとしなかったはずだ。
それが、ああしてあゆみから情報を得ようとしていた…伊緒が狼だったと分かったから、今日思うとそう分かる。
あゆみは、言った。
「…それはないと思うわ。」皆が、あゆみを見る。あゆみは続けた。「昨夜、私が伊緒ちゃんに指定先を言いに行ったの。その時、今思うと私から永嗣さんの護衛先を探るように会話していたわ。伊緒ちゃんが真なら、別に景清さんを守っていないと知られても問題ないし、仮に狼なら、知られた方が景清さんを噛むんじゃないかってわざと景清さんを守っていないと匂わせるような事を言ってみたの。それで、景清さんが噛まれたら伊緒ちゃんが怪しい材料が増えるし、護衛成功が出たら伊緒ちゃんは白に見えるわ。結果、狼は景清さんを噛んで、伊緒ちゃんが狼だった。とにかく私が言いたいのは、永嗣さんも狼だったら、夜話せるんだから私に探りを入れる必要なんかなかったじゃない?だから、永嗣さんは真か、あって狂人だと思うわ。」
重久が、言った。
「マジか。思い切ったことしたな。とはいえ、伊緒さんが狼だったのは確かで、現に景清は噛まれてる。永嗣は限りなく真だと思うが、でもなあ…狼と繋がっていない狂人で、恵令奈さんが真だったらと思うと怖いのは確かだ。ここは、伊緒さんを吊る縄が浮いたんだから、それを永嗣に使って安心したいと思うところかな。」
明生が、息をついた。
「…今、オレ、あゆみさん、永嗣さん、重久さん、尚斗、安治さん、公一の7人、奇数進行になった。縄は減らない。偶数進行だったからだ。後3本あるが、それを公一、永嗣さん、霊能のどちらか一人に使うか、それとも公一を残して永嗣さん、霊媒を吊り切るか、永嗣さんを真置きして公一、霊媒を吊り切るか。どうしたらいいんだろうな。」
究極の三択だ。
あゆみは、誰が一番怪しんのだろう、と、ホワイトボードを見つめながら考えていた。




