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六日目の投票

景清にはそれから、部屋へと帰ってからの皆で必死に諭したが、意見は変わることはなかった。

伊緒が真狩人なら、困った事態だ。

とはいえ、とにかくは今夜の投票だと、あゆみ達は景清を連れて、リビングへと降りて行った。


『投票してください。』

もう慣れた声が指示する。

あゆみは、とりあえず確白の間で拓郎を吊っておこうと決めていた。

というのも、安治にとってはどちらも狼、尚斗にとっては、昨日黒を見ている杏奈の投票先から、公一が白に見えているようなので、拓郎が黒となるからだ。

『投票が終了しました。』

あゆみは、無感情にモニターを見上げた。


1明生→20

4景清→20

9あゆみ→20

10伊緒→19

11永嗣→19

14重久→20

15尚斗→20

17安治→19

19公一→20

20拓郎→19


『No.20が追放されます。』

拓郎は、ため息をついた。

「昌平や和人みたいに言い残すことはない。公一まで吊り切って明日から、必ず勝ってくれ。」

落ち着いて言う拓郎は、狼には見えなかった。

言い終えて目を閉じた拓郎は、そのまま後ろへ脱力してソファへと沈み、声が無情に告げた。

『No.20は、追放されました。夜時間に備えてください。』

今日も終わった。

あゆみは、虚しい気持ちがした。

拓郎は、狼だったのだろうか。

それとも、安治が偽で村人だったのだろうか。

わからないが、明生が立ち上がって、言った。

「…運ぼう。景清は、狩人に護衛先を指定しておけ。」

伊緒が、むっつりと言った。

「…私は今夜は指定に絶対従うわ。でも、景清さんが私を偽だと思ってるならどうでも良いと思ってるんでしょう。他の人から伝えに来て欲しい。どうせ守れないんだろうって思われてる相手に指定されたくない。」

気持ちは分かるが、確定白の進行役に、それは良くない。

あゆみは思ったので、割り込んだ。

「じゃあ、私が景清さんから指定先を聞いて伝えに行くわ。ここで言い争いになるようなことは言わないで。」

伊緒は、それで黙る。

明生はそれを見ながらため息をついて、そして他の残り少ない男性達と共に、動かなくなった拓郎を運び出して行った。


護衛先は、もう皆で決めてあった。

永嗣には景清が知らせに行ったが、重久守りを指示しているはずだった。

伊緒には、明生を守らせることにしていた。

元気が噛まれてしまった以上、狼が噛めるのは景清、明生、重久の3人だけになっているのだ。

なので、狩人に居る狼は、自分が指定された先以外の二人から、対抗狩人が指定されていない場所を選んで噛むしかない。

まさに、読み合いだった。

景清は、元より自分に護衛を入れる気などないので、ここからは明生と重久を交互に守らせることになるのだろう。

…狼が、間違ってくれたら。

あゆみは、願いながら伊緒の部屋のチャイムを押した。


扉が開いて、伊緒は言った。

「あゆみちゃん。どうぞ、入って。」

あゆみは、首を振った。

「いえここで。護衛先は…、」

「シッ!」伊緒は、慌ててそれを止めた。「ダメよ、誰が聞いてるのかわからないのに。とにかく入って。」

あゆみは、仕方なく中へと入った。伊緒の言うのはその通りだからだ。

扉を閉じた伊緒だったが、あゆみはそのままそこに立って、伊緒を振り返った。

「…今夜は、明生さんを守って。」

伊緒は、扉から振り返って頷いた。

「分かった。永嗣さんの護衛先を聞いても教えてくれないわね?」

あゆみは、顔をしかめた。

「そしたら、こうして別々に話してる意味がなくなるでしょう。まあ…確定白は少なくなったものね。私は猫又だし、私には護衛は入ってないとは言っておくわ。」

危ない橋を渡る発言かもしれない。

だが、ここで景清守りがあった事実は利いて来ているはずだった。

あゆみには、一度も護衛が入っていない。

つまり、狼目線でも疑ってはいないはずだ。

あゆみはまだ、伊緒が真狩人であることも追っていた。

なので、あまりにも突き放すのもと思ってしまったのだ。

少しは信じても、いい気がしていた。

「…そうね、狼にとっては正念場よね。縄が増えるから、簡単には噛めないのよ。明生さんは必ず守るわ。安心して。」

あゆみは頷きながら、ふと、思った。

伊緒が真狩人ならば、永嗣が重久を指定されていると知られても問題ない。

だが、狼だったらどうだろうか。

こちらは、景清を噛ませたいのだ。

つまり、狼であっても知られて良い盤面だった。

ここで私が、さりげなく伊緒ちゃんに漏らしたら…?

あゆみは、ドキドキしてくる胸を押さえた。

狼なら、迷わず景清を襲撃するだろう。

真狩人なら、何もできることはなかった。

そんなあゆみの様子に気付かず、伊緒は言った。

「…まだ時間あるよね?ちょっと話そうよ。もう、女子は二人しか残ってないし、私も心細かったんだ。あゆみちゃんは?」

あゆみは、伊緒を見た。

「…そうね。私も、なんだか男性ばかりと話してて、気を張ってて疲れてたの。じゃあ、ちょっとだけ。」

伊緒は、嬉しそうな顔をした。

「良かった!じゃあジュース飲む?美味しそうなのを見つけて持って来てあるんだ!座ってて。」

言われるままにあゆみは、奥の窓際へと歩いた。

伊緒は、部屋の小さな冷蔵庫を開けて、中からペットボトルを2本持ってやって来る。

あゆみが最大限友好的に見えるように努力して椅子に座って伊緒を見ると、伊緒はペットボトルをあゆみに渡した。

「オレンジみたい。飲もうよ。」

特に他と比べて目立って美味しそうな感じでもなかったが、あゆみは微笑んだ。

「ありがとう。なんかホッとするね。こんな風に話せてたのに、佳純ちゃんが居なくなって、気を張ってたなあ。」

伊緒は、頷いた。

「分かるよ。私も真狩人なのにって、永嗣さんが対抗に出てて恨んだものよ。杏奈ちゃんは…白だったのに。最後突き放して、悪かったなって思ってる。」

村人目線では、杏奈の色は確定していない。

だが、尚斗が偽だと決めている伊緒からしたら、安治の出す結果が真なのだろう。

「…私は、まだわからないと思ってるわ。伊緒ちゃんだって、景清さんが頭から偽だって言って来るのは困るでしょう?尚斗さんだって同じだと思う。私も明生さんも重久さんも、もっと考えてからって言ってるんだけど…景清さんは、決めてるみたい。まあ…でも、だから護衛先もね…みんなで考えようって話して。だって、景清さんは伊緒ちゃんには誰を守らせても無駄だとか言うんだもの。」

伊緒は、慎重に頷いた。

「…そうなんだ。でも、確白達がきちんと考えて説得してくれて助かるよ。安心した。」

あゆみは、わざと大袈裟にため息をついた。

「そうなのよ…思考ロックしてると印象が悪くなるわ。伊緒ちゃんも、それで皆になんとなく怪しいと思われちゃってるんでしょうね。でも、景清さんだって。思考ロックしちゃうと私達も不安になるし、いくら確白でもついて行けなくなるのよね。だから護衛も…」と、あゆみは、ハッと口を押さえた。「あ、まあ、確白みんなの意見で決めてるから。狼との読み合いよね。」

…不自然じゃなかったかな。

あゆみは、わざとこんなことを言ったのが、バレてないかと伊緒を恐る恐る見た。

伊緒は、一瞬、何かを察した顔をしたが、すぐになんでもないように言った。

「…まあ、思考ロックはいけないってことよね。私も、もう一度尚斗さんのこと、考えてみる。でも…永嗣さんとの繋がりが見えるから。私からは完全に白には、見えないかもしれないけど。」

伊緒が、気を遣って気付かなかったふりをしてくれている、とあゆみは感じた。

それとも、狼だから気取ったと知られないようにそうしたのだろうか。

どちらにしろ、自分できることはやった。

これで、明日護衛成功が出たら伊緒は真だ。

景清が噛まれたら、どこまでも伊緒は怪しくなるが、しかし確定はしない。

あゆみは、飲みかけのペットボトルを手に立ち上がった。

「話し過ぎたかも。もう帰るね。ジュース、ありがとう。」

伊緒は、頷いた。

「うん。また明日ね。」

あゆみは、そそくさと伊緒の部屋を出た。

これで明日どうなるのか、あゆみは険しい顔で考えながら、部屋へと帰ったのだった。

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