六日目の朝
あゆみは、今日も目を覚ました。
狼は、自分を猫又だと信じているらしい。
それとも、他を噛むのに忙しくて、それどころではないのだろうか。
そんなことを思いながら、あゆみはじっと鍵が開くのを待った。
そして、6時になってすぐに外へと飛び出すと、目の前の扉は二つ共に、もう開かなかった。
杏奈と昌平だったからだ。
気配に振り返ると、伊緒はしっかり生き残っていて、そこに立っていた。
「…伊緒ちゃん。」
伊緒は、頷く。
「…景清さんと明生さんも出て来てるね。」
廊下の向こうを振り返ると、二人がポツンポツンと立っている。
もう、この階にはこの4人しか居ないのだ。
「…三階だ。行こう。」
景清が言う。
あゆみは頷いて、護衛はどうなったのだろうと思いながら、三階へと上がって行った。
上がってすぐに、そこに立っていた永嗣が振り返った。
「…元気が出てこない。今公一と安治さんが見に行ってる。」
やっぱり元気さん…!
あゆみは、黙って伊緒を振り返った。
伊緒は、驚いた顔をした。
「…え?どうしてなの?だって、尚斗さんは元気さんと仲が良かったじゃない!どうして噛むのよ!」
景清が、言った。
「言ったよな。元気守りだって。それなのにどうしても安治さん守りだと聞かないから、それなら吊られるのを覚悟でそこを護衛したらどうだって。今夜は、君を吊っても良いんだな?」
伊緒は、明らかに困惑した顔をした。
「そんな!私は真狩人よ!だからこそ、安治さんを襲撃から守ろうとしただけよ!あなたが私に元気さんを守れって言って来た時、昨日の永嗣さんの指定は元気さんだったんだとすぐに思ったわ。だから、狼は元気さんには私の護衛が入ると考えるだろうし、尚斗さんと仲が良いから噛むなら安治さんの方だと思った!だから、絶対安治さん守りだと思っていたの!私は悪くない、護衛成功を目指して共有者と交渉して護衛先を変えたんだもの!永嗣さんみたいに、明らかに人外の、尚斗さんと結託して勝手に護衛先を変えたわけじゃないわ!」
伊緒には伊緒の考えがあったのだ。
狼との読み合いに、負けただけなのだろう。
もちろん、伊緒が真だったらの話なのだが。
公一と安治が、元気の部屋から出て来た。
「…襲撃されてる。昨日は元気だった。何を揉めてるんだ?」
安治が言うのに、景清が答えた。
「昨日、散々伊緒さんに元気を守れと言ったのに、聞かなくて安治さんを守ってたんだ。そのせいで、噛まれた。だから伊緒さん吊りだなと言っていたんだ。」
安治は、驚いた顔をした。
「え、オレ守り?オレは尚斗と争っていたから、残される位置だろ。なんだってオレなんだ?」
伊緒は、答えた。
「だから!元気さんを永嗣さんが前日守ってたのを知ったから、狼はきっとそこは守られてるって安治さんを噛むと思ったの!尚斗さんが偽だと確信してるから…元気さんは尚斗さんと仲が良かったし、噛むなら安治さんだろうと思った!ちゃんと共有にも話して、安治さんを守ると言ってあるわ!勝手に変えたんじゃない!誰かさんみたいに!」
永嗣は、むっつりと言った。
「オレは騙されたんだ。君は指定先を勝手に変えたわけではないが、指定された先を拒否して今朝こんなことになってるんだろう。責任を取るべきだ。狼だから、噛みたかったんだろうからな。」
しかし、明生が言った。
「…まあ、もうこうなったからには仕方ない。万が一にも元気が偽だったならヤバいと話し合ってたところだったから、良かったと言えば良かったんだ。これで、霊媒は二択になった。とりあえず結果を聞こう。尚斗さん?」
尚斗は、言い合っているのを怯えた顔で見ていたが、ハッとして言った。
「黒。杏奈さんは狼だ。」
安治は、ため息をついた。
「…違う。杏奈さんは白だった。オレからしたら、残った公一と拓郎は両方共狼だ。吊りきるしかない。」
尚斗は、安治を見た。
「違う!片方は絶対村人だ!おかしいよ、そもそもが杏奈さんは怪しかったじゃないか!だからみんな昨日投票してるのに。杏奈さんは黒だ!」
やっぱり元気が真だったのだ。
全員目線、結果が違えたことからそう見えていた。
安治は、言った。
「オレからしたら、グレーの狼を一匹残すためにそんなことを言ってるようにしか見えない。吊りきられたらまずいんだろう。」
尚斗は、負けじと言い返した。
「オレからしたら、村人諸とも吊りきってもらって縄を消費させようとしてるようにしか見えない!役職精査を間違わせて役職の中の狼が生き残ることを目指してるんだろう!だって、もうそれしか狼勝ちの道はないんだ!」
「待て。」景清が、ため息をついてそれを止めた。「お互いの言い分は分かった。このままリビングへ行こう。トイレとかある人はリビングのトイレで済ませてくれ。すぐに会議だ。」
このまま降りるのか。
あゆみは、ジャージのままなので少し気になったが、景清は今、すぐに話がしたいのだろう。
全員が反論することなく、そのままリビングへと降りて行ったのだった。
残ったのは、明生、景清、あゆみ、伊緒、永嗣、重久、尚斗、安治、公一、拓郎の10人だ。
偶数進行で、縄はあと4つだった。
これまで、必ず追放された人外は狼の愛里と呪殺された和美。一輝かもしれないが、昌平の言葉を信じたらそうで、いずれにしろ狐はそこで処理されていた。
村では昌平狐と置くことを決めたので、狐はもう残っていない。
つまり、8人外の内、確実に処理されたのは3人で、最悪狼4人が残されていることになるので、狂人が狩人に居たらパワープレイでゲーム終了になる盤面となっていた。
安治から、杏奈白が出た時点で、なので景清はそれを危惧して皆をすぐに召集したのだと、説明を受けた。
その上で、景清は言った。
「なので、今言ったように仮に安治さん真で杏奈さんが白だったなら、初日に吊った恵令奈さんが真狩人だったなら半パワープレイだ。狼陣営は、もしそうなら無駄な時間になるので言って欲しい。」
景清は、険しい顔でそう言った。
だが、伊緒が言った。
「それはないわ。私は真狩人だから。狂人は居ないわよ。永嗣さんが狼で、尚斗さんが狼なのよ。カイ君噛みで分かったはずじゃない。」
永嗣が、伊緒を睨んだ。
「オレが真狩人だ。君は強い意見を出して、最初は真っぽく映ったかもしれないが、段々に独り善がりな行動から黒くなってる自分に気付かないのか?オレからしたら、勝手に黒くなってくれてラッキーだけどな。」
伊緒は、赤い顔をした。
「しっかり言わないと共有者が間違っていたらどうするのよ?!あなたこそ、言いなりになって白く見せて生き残ろうとしている狼のクセに!」
明生が、うんざりして言った。
「ああ、もうそういうのはいい。」と、景清を見た。「ここに狂人は居なさそうだ。やっぱり初日の恵令奈さんが狂人で間違いなさそうだな。ってことは、4人外が落ちてて安治さんが真でも、とりあえず最終日まで縄は足りる。決め打ち間違ったら終わりだがな。」
景清は、言った。
「…とにかく、尚斗さんが真だろうとグレーは吊り切る。安治さん真の時でも最終日は来るからだ。なので、もし二人の内一人が村人だったら、すまないが吊られて待っててくれ。必ず勝つから。」
公一が、頷いて言った。
「もう諦めてたからそれはいい。今日オレが吊られようが、とにかくなんとかしてくれ。」
だが、尚斗が言った。
「オレから見たら、きっと公一の方が村人で、拓郎さんが狼なんだよ!なぜなら、昨日杏奈さんは公一に入れてるんだ!同じ意見の二人なのに、わざわざ公一を選んでるのがおかしい!オレは今夜拓郎さんを吊りたい!」
拓郎が、ため息をついた。
「どっちでもいい。どうせ吊り切るのに。一応反論しておくが、昨日は杏奈さんは吊られるだろうって本人ですら思っているような状態だった。狼だったとしても、絶対切って来てると思うぞ。オレも公一も、杏奈さん吊りを推してたし投票してる。今さら投票先で精査は難しい。」
景清が、またため息をついて頷いた。
「まあ、そうだな。とりあえずどっちでも良いから今夜から明日吊り切って、狩人精査だ。まさか両方村人で狩人が両方狼ってことはないと思うが…そしたらどうなるんだ。」
永嗣が、言った。
「オレが真だからそれはないが、もしそうなら明日、襲撃が通ったら残り8人、3縄でもう一人吊って、次の日また襲撃で6人、2縄。狩人の2狼と、霊媒の1狼、村人3人でゲームは終わる。オレがどこかで護衛成功したら1縄増えるから、村目線での懸念はなくなるがな。」
ということは、狩人に2狼だったらグレー吊り切りはまずい選択だ。
だが、この伊緒と永嗣の本気のやり合いは、とても狼同士には見えなかった。
あゆみは、ここはどちらかが真狩人だと思わなければ、進めて行けないと口を開くことにした。




