宴会
炊飯器が米を炊くのを待っていると、次々に昌平、元気、公一、杏奈、愛里、伊緒と降りて来て、そこに一輝やカイ、和人も来て、大騒ぎになった。
元気が昌平に言われるままに野菜を大量に切り、それを昌平が片っ端から炒めてドンドンと料理を完成させて行く。
それを、側の大きなダイニングテーブルに運ぶのは、その他手の空いている人たちだ。
公一は米が炊き上がるのを待ってそれを酢飯にして、巻き寿司用の海苔まで完備されてあったのでそれを使い、ひたすら寿司を巻いていた。
和美は言われるままに冷蔵庫にあった刺身の短冊を寿司ネタ用に切り、公一に提供していた。
「うわー美味しそう!」カイが、椅子に座ったまま言った。「めっちゃたくさんできて来るねぇ。」
和美が、振り返った。
「こら。座ってないで居るなら手伝わないと。」
カイは、全く気にせず言った。
「どうしてー?僕の専門じゃないもんねー。それに、来てない人も居るじゃないか。見守ってるだけでも誠意を見せてると思うけどな。」
物は言いようだ。
そこへ、明生や景清、永嗣など、他の人たちが入って来た。
「うわ、めっちゃいい匂いだ!凄いな、これ、オレ達も食べていいのか?」
それにも、和美が答えた。
「だったらあなた達は飲み物を準備して。そっちの冷蔵庫が飲料専用よ。ビールもあったわ。」
「マジで?!」
重久が、嬉しそうにそちらへ足を向ける。
あゆみは、もう終わりそうな元気と昌平チームに言った。
「あ、私が洗い物するから、二人はもう休んでて。いっぱい作ってくれてありがとう。」
二人は、振り返って微笑んだ。
「ありがとう。じゃあ任せようかな。」
「私も手伝う!」
愛里が急いでやって来る。
そうして、伊緒、愛里、杏奈と共に、あゆみは後片付けに取り掛かった。
プシュとプルタブを開く音が聴こえて、和美の声が咎めるように背後で言った。
「あ、こら!まだよ、みんな今片付けてるのに!何一人で何もしないでビール飲もうとしてるのよ!」
重久は、顔をしかめた。
「ええー?良いじゃないか、もうできてるんだし。」と、グビグビと音が聴こえた。「あー!旨い!」
カイが、言った。
「じゃあ重久さんは食べた後の片付け決定ー!みんな待ってるんだからね。ダメだよ、僕でもわきまえてるのに。」
というか、まだ18歳のカイはアルコールは飲めない。
重久は、むっつり言った。
「なんだよ、お子様にはわからないんだって。」
背後で繰り広げられているそんな様子にあゆみ達は苦笑して顔を見合わせて、そうして片付けは粛々と進んで行ったのだった。
ダイニングテーブルには、きちんと20脚の椅子があった。
皆がそこに適当に並んで座って、テーブルの上に並べられた多くの中華料理と、様々な具材の中巻きの巻き寿司を堪能し、飲みたい人はビールやチューハイを手に、楽しく夕食を共にした。
活発な元気は一所に座っている事はなく、あちこちに歩いて行ってはそこで笑って話をし、それに釣られて何人もが席を移動したりと和気あいあいと過ごした。
あゆみは、同い年組の愛里、伊緒、杏奈、そして佳純と一か所に集まって話していた。
佳純は18番で、あゆみの共有者の相方でもあるし、仲良くしておきたかったので、こちらから話しかけたのだ。
そうしたら、佳純はこちらへやって来て、一緒に座って話すことができた。
「…でも、ここへ来る時にはとっても不安だったの。」佳純が、言った。「たった一人で応募したでしょう?怪しげな所だったらどうしようかなあって。でも、みんなとってもいい人ばかりだし、同い年の人も居るし、部屋は豪華だし、食べ物も豊富だし。来て良かった。」
それには、あゆみも頷いた。
「私もそう思う!あんな豪華な部屋に泊まるなんて、無理だもの。天蓋付きのベッドなんて初めて。」
愛里が、笑った。
「私も。小さい頃から夢だったんだーあんなベッドに寝るの。でも、横になってみたら大き過ぎて逆に落ち着かなかったわ。三人ぐらい余裕で眠れる大きさよね。」
伊緒も、頷く。
「ほんと。寝心地は良かったけど、いくら転がっても落ちそうにないほど大きかったから、なんか端っこで寝てしまいそう。一人にはもったいないよね。」
杏奈が、言った。
「でも、ルールブック読んだら、自分の部屋で寝ないとルール違反になるみたいよ?」
あゆみは、え、と杏奈を見た。
「ほんと?そうよね、時間までに部屋に入らないと駄目なんだもんね。私、急いで下に降りて来たから、まだルールブックを開いてもいないの。他に何か書いてあった?」
杏奈は、頷いた。
「ええ。たくさん書いてあったわ。説明を受けたこともだけど、他にも。追放された人は、勝利陣営なら帰って来られるって書いてあったわ…負けたらどうなるんだろうって思ったけど…深い意味はないんでしょうね。」
勝利陣営は帰って来られる…。
あゆみは、少し不安になったが、元気の大きな笑い声で、ハッと振り返った。
重久と和美、尚斗、安治、恵令奈、永嗣が固まっているところで、元気は立って大笑いしていた。
恵令奈が、顔を赤くして言った。
「もう!笑わないでよ、みんなだって酔って失敗ぐらいしたことあるでしょう?!私だけじゃないはずよ!」
和美が、庇うように言った。
「確かに私もやっちゃった事あるわ。誰でも失敗談はあるものよ。」
だが、元気がそれをぶち壊すように言った。
「でも!酔ったまま車運転して、用水路にすっぽり落ちてて気が付いたら朝で、みんなが回りを囲んで大騒ぎなんて、滅多にないよ!女の人でもそんな酔い方するんだあ!」
それは凄いな。
あゆみは、内容を聞いて驚いた。
永嗣が、苦笑して言った。
「用水路にすっぽりって、って事は軽自動車だったんだな?飲酒運転はやめた方がいいぞ。よく仕事クビにならなかったな。」
恵令奈は、ため息をついた。
「警察官に謝り倒して職場には言わないでいてもらった。田舎の道だったし、噂もその辺りしか広まらなかったし。でも、たんまりお金が出て行って…用水路から引き揚げたりレッカーしたりだからもう、大変で。あれから、浴びるほど飲むのも、飲酒運転もやめたの。飲酒だったって事はバレなかったわ。発見されたのは明け方で、すっかりアルコールは抜けてたから。」
私も、飲酒運転だけはしないでおこう。
あゆみは、それを聞いて思っていた。
和美が、話題を変えようと言った。
「それより、重久さん、飲み過ぎよ。もうそれ8本目でしょう。そろそろ部屋に帰っておいた方がいいんじゃないかな。三階まで登れなくなるわよ?」
重久は、顔をしかめた。
「オレは家飲みがルーティンなの。毎日500ミリリットル缶五本は空けるんだ。独身で気兼ねなくやってるんだから、ほっといてくれよ。」
だが、和美は首を振った。
「駄目よ。敵陣営だったらいいけど、あなた村人なんでしょ?だったらしっかりやってもらわなきゃ。勝って賞金もらうのよ!頑張らないと。」
重久は、それを聞いてまた開けようとしていた缶から、指を離した。
「…仕方ねぇなあ。息子さんのために金が要るんだもんな。分かったよ、これぐらいにしとく。」
和美は、頷いた。
「良かった。健康にも良くないしね。一本ぐらいにできるようにしたら?誰も止める人が居ないなら、自分で健康管理しないと。」
重久は、ため息をついた。
「はいはい。分かったって。」
料理も、かなり減っている。
キッチンにある壁掛け時計は、もう9時を回っていた。
「…そろそろ、片付けを始める?」あゆみは言った。「10時には部屋に入っていないといけないのに。これだけの数のお皿を洗うの、時間かかりそうだわ。」
愛里は、頷いた。
「そうね。じゃあ手分けして始めようか。」
全員が、それを聞いてバラバラと立ち上がり、そうして全員で、片付けを始めたのだった。