護衛先
景清が、言った。
「まず、昨日の護衛先だ。永嗣さんは元気、伊緒さんはオレを守っていた。もちろんどっちかは狼、最悪狂人と狼、両方狼かもしれないが、今は真狩人が残っていると考えて、護衛先を決める。ちなみに佳純さんと話してたんだが、護衛成功が出た日があったろう。永嗣さんにカイ、伊緒さんに佳純さんを守らせた日だ。」
皆が頷く。
重久が、言った。
「誰で護衛成功したのかって話してたけど、結論は出なかったな。狐噛みかもしれないって言って。」
景清は、頷いた。
「そうなんだ。あの日、狼は恐らく佳純さんか、カイを噛んでる。狼目線、残っているのが真狩人なのか知りたいから、確認のためにも噛んだんじゃないかと思うんだ。それで噛めて狂人でも狐でも、狼からは別にいい。そこを吊らせて自分が残れば良いわけだからな。そう話し合って、まだ真狩人は残ってて、恵令奈さんは狂人か狐だろうってオレ達は話してた。まあ、こうなったら昌平が狐なんだから、恵令奈さんは狂人でしかないがな。とはいえ、狩人に2狼ってのもないわけじゃない。一応頭には置いておくが、今は真が残っているとして護衛先を決めて行くつもりだ。」
そういえば、佳純が狩人に狐がいたら、と言っていたこともあった。
あゆみはそれに、狐なら狼は忖度なしに護衛先を噛んで来るからそれはないだろう、っと答えたものだった。
明生は、言った。
「オレからしたら、狩人に2狼はリスクが大きいと思うから、ないと思うけどな。それで、やっぱり尚斗さんと安治さんのどちらかに狼が居ると思ってるのか?元気守りさせてたんだものな。」
景清は、頷いた。
「そう、それ。オレと佳純さん、あゆみさんは知ってたことだが、実は佳純さんは、初日にキッチンで皆の役職を聞いた時に、元気にはあゆみさんが共有者だと言ってしまってるんだ。」
重久が、え、と驚いた顔をした。
「そんな危ないことをしてたのか?」
明生が、言った。
「いや、今考えるとあの日、霊媒師は共有者目線で確定していたんだ。元気、安治さん、あゆみさんだからな。よく考えてみろ、尚斗さんは後からCOしてる。つまり、元気は12番だし、尚斗さんは15番だ。佳純さん目線で、確定している霊媒だった元気に、話しておこうとしたんだろう。そしたら尚斗が出て来て、ということは安治さんには言ってないんだな?」
それにはあゆみが、答えた。
「そうなの。私達は、前の日の夜に話し合って霊媒を確定させるために、私が霊媒に出る話になっていて、上手く行ったって喜んでたの。そしたら、尚斗さんが出て来たから。思惑が外れてしまったわけなのよ。だから元気さんは、最初から私が共有者だって知ってるわ。なのに、ここまで私は噛まれなかったし、真なんだろうなって。」
重久は、顔をしかめた。
「まあ、信じたいよな。景清が噛まれていたら、尚良かったけど。とりあえず元気が怪しまれないためにあゆみさんを噛んでないかもしれないからな。」
景清は、頷いた。
「確かにその可能性もある。オレが無事なのがおかしいのはその通りだ。だが、狼には他に噛みたい位置があったからと思ったらそこまで怪しむ事でもない。そこは明日以降だろう。とにかく、霊媒精査は最終日だと決めたし、ここは元気守りで良いかと思ってるんだ。つまり、伊緒さんの護衛先は今夜は元気にしたいと思ってるがどうだろう。」
明生が、頷く。
「良いんじゃないか?杏奈さんを吊ったとしても、色は見たいからな。霊媒が一人でも噛まれたら、結果が確定しなくなるだろう。じゃあ、次は永嗣さんだ。どこを守らせる?」
景清は、うーんと考え込んだ。
「あゆみさんはない。猫又だと思われてるのに、護衛を入れたら永嗣さんが狼だった時に怪しまれることになるしな。明生か重久さんだが…今夜は、会議の時にオレの代わりをしようとしていたのを皆が見てるから、明生にしようかと思ってるんだがどうだろう。」
重久は、すぐに頷く。
「その方がいい。オレはまだショックで呆けてるふりをしておくよ。腑抜けた奴なんか噛んでる暇はないだろ?明生の方が噛まれる率が高い。」
皆は、うんうんと頷いた。
景清は、それを見て言った。
「じゃあ、今夜は伊緒さんには元気、永嗣さんには明生を守らせるよ。護衛先を知られなければ上手いこと護衛成功か、破綻が見られるかもだしな。破綻はないか、狼だもんな。自分が偽だと知られる位置は噛まないだろうな。」
あゆみは、そういえば、と言った。
「…護衛先を分からなくしてたけど、朝知ったんじゃない?景清さん、佳純ちゃんが襲撃されてるのを見て思わず自分を守らせたって言っちゃったじゃない。だから、明生さんも景清さん守りを知ってたわけだし。永嗣さんが狼だったら、知っちゃったよね。」
景清は、苦笑した。
「別に、オレ守りは知られていいんだよ。オレがホントに共有者で、噛み懸念があるってことを知らせたかったからな。伊緒さんが狼なら知ってただろうけど、永嗣さんが狼だったら伊緒さんにどこを守らせたかは知らなかっただろ?佳純さんがオレを守らせようとしたのは、進行云々だけでなくて、ほんとは猫又なんじゃないかって疑われることを避けるためだった。確実に、あゆみさんが猫又だから、噛めないと狼に思わせる意図があったんだ。佳純ちゃんは、君を守りたかったんだよ。オレだけじゃないんだ。」
あゆみは、それを聞いて佳純との会話を思い出した。
あなたが猫又なのよ、と佳純は言っていた。
佳純は、あゆみを守ろうとしてくれていたのだ。
あゆみは、涙ぐんだ。
「…佳純ちゃん…私、勝つわ。勝ってお礼を言わなきゃ。また会いたいの。必ず。」
皆は頷いて、涙を流すあゆみを黙って見守ってくれた。
あゆみは、なんとしてもゲームを勝ちで終わらせて、佳純に会いたいと決意を新たにしていた。
それから、あゆみはたった一人でキッチンへ行って、ペットボトルの飲み物を探して、夕ご飯も部屋へ持って行っておこうと冷蔵庫の中を物色していた。
昨日までは、一人きりだと心細かったので佳純と一緒に居てもらっていたのだが、今はもうそんなことはない。
昨日までの自分が、甘えていたと腹が立つぐらいだった。
…冷えてもおいしいものがいいかな。
あゆみは、冷蔵庫の中を見ながら考えた。
パスタや麺類は、冷えたらおいしくなくなる。
だったら、おにぎりを持って行っておいた方が良いかと、鮭や昆布などを手にしていると、キッチンの扉が開いて、そこへ伊緒が入って来た。
どうやら、杏奈は一緒ではないようだった。
「あら?あゆみちゃん、もうご飯なの?」
あゆみは、首を振った。
「ううん。部屋へ持って行っておこうと思って。」
今は夕方の4時を過ぎたところだ。
こんな時間に、伊緒こそどうしてキッチンへ来たのだろう。
伊緒は、寄って来ながら言った。
「あゆみちゃん、大丈夫?和美さんが居なくなった時もショックを受けていたし、心配してたの。話聞くよ?」
こちらを気遣って言ってくれてるのは分かるのだが、あいにくあゆみはそんな心境ではなかった。
今は、佳純のためにもしっかり戦って行こうと戦闘モードの脳になっているのだ。
佳純が居なくなったと、悲しんでいるようなひ弱な気持ちではなかった。
なので、言った。
「大丈夫。佳純ちゃんのためにも、絶対勝つって決めたから。景清さんが居るし、確白の明生さんも重久さんも居る。だから、話し合ってしっかりしようと思ってるの。だから平気よ。きっと戻って来るから。」
伊緒は、真顔で言った。
「でも、分からないじゃない。本当に勝ったら戻って来られるの?私…今夜は、杏奈ちゃんに入れようと思ってて。」
いきなりそんな話になったので、あゆみは驚いた顔をした。
「え、杏奈ちゃん?でも、吊り切るからどこに入れても結局同じだけど。」
あゆみが少し、突き放すような事を言ったのに、伊緒は気にしていないように言った。
「グレーを全部吊るのは分かってる。私もグレーは誰が黒なのかなんか分からないし。でも、杏奈ちゃんは怪しいかもって思って来てて。だって、こうなって自分が吊られる位置に来ていても、まだ私と一緒に居ようとするのよ。杏奈ちゃんから見たら、私が黒なのか白なのか分からないわけでしょう?なのに、ずっと一緒。今の状況が分かってないのかなって、つい、私は私で考える事にするから、別々に行動しようって言っちゃった。だって、自分に票が来ないようにしてるように見えて来たのよ。護衛位置だって…景清さんは黙ってろって言ったけど、朝一に自分から私に自分を守らせたって言っちゃってたじゃない。あれで狼には知られちゃったわ。今夜はどうなるのか分からない。私から見ると、狼かもしれない杏奈ちゃんは纏わりついて来るし、自分の護衛先はバラされるし、散々なの。誰も信じられなくなって来てて。」
確かに、伊緒が真なら隠しておけと言っているのに、何をバラしてるんだとなるだろう。
杏奈にしても、黒かもしれないのに自分について回るのが、今夜の護衛先を探ろうとしているのではと怪しく見て来るのも分かる。
何しろ、あゆみ自身が、伊緒がこうして自分の話しかけて来ようとするのは、情報を得ようとしているからではないかと思って警戒してしまうからだ。
あゆみは、ため息をついた。
「…それは間違ってないと思う。私も、確定白の猫又だから、私だけしか知らない事も多いと思うの。だから、明生さんにも景清さんにも、確定白以外は例え真だと思ってもこれからはあまり話さない方が良いって言われてる。だから、こうして誰も居ない時間にキッチンに来て、ご飯を部屋へ持って行っておこうとしてるわけで。だからごめん、伊緒ちゃんとも突っ込んだ話はできないわ。私、一人でも頑張らなきゃならない。景清さんも明生さんも重久さん…はちょっとショックを受けててあまり話せないけど、居るから。こっちはこっちで考えるよ。お互いに、孤独だけど頑張ろう。」と、さつっきから早く閉じろとピーピー音を立てている冷蔵庫を閉じた。「じゃあ、行くね。」
あゆみは、言うだけ言うと、さっさと逃げるようにキッチンの扉へと足早に向かった。
後ろで、伊緒が黙ってこちらを見ているのは背中に感じたが、振り返ることはしなかった。
…同じ考えだし、真ならきっと分かってくれる。狼なら…イライラしてるだろうけど。
あゆみは、そう思っていた。




