確定白
扉を閉じて、明生は言った。
「その辺に適当に座ってくれ。椅子が足りないな。オレはベッドに座るからみんな椅子を使ってくれ。」
言われて、あゆみと景清、重久は椅子へと腰かけた。
明生が、ベッドに座って言った。
「…で?やっと和美さんが狐だろうって考えも頭に入って来たか。」
重久は、頷く。
「昨日の昌平の遺言を聞いたらな。和人が狐だって信じていたが、景清はグレーを吊りきるというし、だったら昨日は昌平でも仕方ないと村に合わせることにして、投票したらあの遺言だ。しばらく信じられなかったが、そもそも和人と昌平が仲良くしてたんだから、狐の昌平が和人にあんな風に言わせる何かを吹き来んでいたとしたら辻褄が合う。和美の怖がりようはハンパなかったから、あれは真が襲撃されると怯えてたんだと信じていたが、よく考えたら真占い師に占われるかもしれないという恐怖からだったんだなって。相互占いを喜ぶような発言も、そうしておけば狐だと疑われないと演技していたんだろう。昨日追放が終わってから、散々考えてそんな結論になった。あいつの事情は知ってるから、狼だったらもしかしたら協力してしまってたかもしれない。だが、昌平がああ言うんだし呪殺された狐だったんだろう。両方消えた今、もう狐の勝利はない。だったらとにかく、オレが勝つしかないなって、今朝思ったんだ。」
明生が、真顔で言った。
「…和美さんと何かあったのか?狼だったら協力したって、自分は死ぬかもなのに。」
重久は、苦笑した。
「少しの間だけだったが、なんかな、家族みたいに思えて。オレには家族なんか居ないし、よくわからないんだが暖かい気持ちになってた。まあ…今思うと、あれは遺言だったのかな。カイが真だったら死ぬわけだし、和美からしたら誰が偽物なのか分からなくて、三分の二で当たるわけだから何か言い残そうと思ったんだろう。その中でも、真筆頭だったカイに占われることになって、しかも恵令奈さんが目の前で亡くなったのを見てしまってるし。オレに、きちんと見極めて、親しくなっても盲信するなって言ってたんだ。部屋に帰る直前にな。」
あゆみは、それを言った和美の気持ちを思うと、涙が出て来た。
自分を支えようとしてくれる、重久に一言でも残しておこうと思ったのだろう。
何しろ、自分は人外なのだ。
それを信じて支えようとしている重久に、罪悪感もあったのではないだろうか。
景清は、言った。
「…もう、ここで言っておこう。オレは今夜、自分に護衛は入れない。これからも生き残っていても、入れるつもりはない。明生と重久さんは知らないが、あゆみさんと佳純さんは知ってた。何故なら、あゆみさんと佳純さんが共有者だったからだ。猫又は、オレ。だから噛まれようと昨日までは自分を守らせなかった。」
重久と明生は、目を見開いた。
明生が、言った。
「え、じゃあそこも騙ってたのか?景清が猫又で、あゆみさんが共有?じゃあ昨日はどうして護衛を?」
景清は、両手で顔を覆って下を向いた。
「昨日だってほんとは守らせようとは思っていなかった。なのに佳純さんが、護衛成功が出るかもしれないから、オレに護衛を入れろと。オレは反対したんだ。だが、護衛成功しても、次の日護衛を外したら必ず噛まれるだろうからって。いくらなんでもずっとオレから護衛を外したままだったら、狼も猫又を疑って来るからと。だから、本来明生に入れてた伊緒さんの護衛を、オレに変えた。何故なら永嗣さんの護衛は元気に入れてたから。でも、永嗣さんに佳純さんを守らせて、伊緒さんに元気を守らせたら良かったって後悔してる。やっぱりオレは、噛まれた方が良かったんだ。」
景清は、泣いているようだった。
声は立てないが、静かに涙を流しているのを知られないように、顔を手で覆ったままでいる。
明生は、言った。
「…仕方ない。後からそんなことを言っても始まらないぞ。景清、お前がやる気を失くしたら、狼の思うツボだ。置いておいても問題ないからと、襲撃からも遠ざかる。ホントに襲撃されたいなら、もうお前に護衛は入れなくていいからもっと狼が嫌がる進行を考えて推し進めろ。腑抜けたお前なんか、噛もうと思わないぞ。」
重久も、頷いた。
「もう猫又も露出して道連れは無理かと思っていたのに、そんなチャンスがあるなら頑張るしかない。景清、オレ達なんかな、襲撃されてもされ損で、黙って死ぬしかないのに、お前は一矢報いる事ができるんだ。ここまで頑張ったなら、ここが踏ん張り時だぞ。佳純さんの気持ちを考えても、お前は頑張らなきゃならないんだ。」
景清は、顔を上げて、袖でグシャグシャと顔を拭った。
そして、頷いた。
「わかった。後悔はなくならないが、佳純さんが戻って来るためだ。頑張るよ。重久さんだって、和美さんを失って頑張ってるんだしな。しかも、別陣営で。」
重久は、寂しげに頷いた。
「みんな、帰って来たら良いのに。あいつに騙されていたのはショックだったが、まあ最初の一日だけだったしな。これはゲームなんだ。あいつを責めようなんて思ってないさ。」
みんなが帰って来る未来。
あゆみは、それがあれば良いなと、本当に思っていたのだった。
皆にやる気が出た所で、今夜の吊り先だった。
見たところ、確実に2人はグレーに狼が居るだろうに、グレー3人中、2人は杏奈を吊り推している。
その杏奈は、他の2人と比べたら、黒い行動をしているように見えた。
どちらを信じていいのか、なので分からなくなっているのだ。
ここで杏奈が白ければ、迷いなく公一か拓郎のどちらかから吊ったのだろうが、この2人はまた、白く見えた。
普通に考えると杏奈が狼ならば、必ずどちらかが身内切りしているのだろうが、どっちか全く分からなかった。
「…とりあえず、杏奈さんから吊るか?」重久が言う。「その色を見て、残りの2人を吊れば良いじゃないか。どうせ吊りきると明生も言ってたし、景清が居なくなってもなんとかなるだろう。何しろ、景清は一人狼を連れてってくれる。その位置で、他の黒も分かろうってもんだ。」
明生が、言った。
「確かにな。普通に考えて、杏奈さんが黒なら残りの狼は身内切りしてる。二手に分かれたら、どっちを吊られても片方は残るって考えなんだろう。白だったら、見えてる通り拓郎と公一だから迷いなく吊れる。今夜は杏奈さんが安牌じゃないか。」
あゆみも、それには同意した。
「…そうね。愛里ちゃんとの指定だった時に、私は杏奈ちゃんに入れてるの。伊緒ちゃんもそうだった。あの後、私は生き残った杏奈ちゃんに合わせる顔がないって思ってたけど、杏奈ちゃんから歩み寄ってくれた。今思うと、これ以上票を入れられないためだったのかなって思う。伊緒ちゃんも…両方狼なら、どちらに入れてても、白い黒いわからないわよね。まだ、伊緒ちゃんも信じられないわ。性格なんだろうけど…とても強引だなって佳純ちゃんとも話してたの。今回、佳純ちゃんが噛まれてショックを受けてる私を慰めようとしてくれるけど、それすらもなんだか、受け入れられなくなってる私が居て。」
明生が、言った。
「狩人はまだわからないからな。気を許さない方が正解だとオレは思う。昨日も、あゆみさんは佳純さんと確白同士一緒に居て、伊緒さんや杏奈さんとはあまり話さなくなってただろう。こうなって、あゆみさんに頼る先がなくなって、必然的に自分達に話すようになるんじゃないかって思った可能性もあるぞ。そこから情報が入るかもしれないから、人外だったら佳純さんは噛みたい位置だったんじゃないか?警戒しておいた方がいい。少なくとも永嗣は、男なのもあるからか誰かと群れようって事はないし、オレ達に何か個人的に話し掛けて来るってこともないんだ。もし伊緒さんの方が人外だったらって、オレ達も心配してたんだよな。」
あゆみは、確かに、とハッとした。
佳純を噛んで、誰が特をするかというと、伊緒なのかもしれない、と思ったのだ。
考え過ぎかもしれないが、警戒はしておいて損はないだろう。
確定白の意見は、そうやって杏奈吊りに固まって行った。
景清は、見違えるようにしっかりした顔で言った。
「じゃあ、護衛位置だ。今夜の事はみんなで考えよう。もう、誰が噛まれても後悔がないように。」
皆は頷いて、今集まっている確白達の中で、誰を守るのか考え始めた。




