自分が
「オレから見たら、狩人に2狼なんて事がない限り、杏奈さんと拓郎さんは黒なんだよ。それが信じられない。」と、隣りの拓郎を見た。「拓郎さんは初日からオレと意見が合うし、白く見てた。だから、いくらレアケースだと言っても、そんな可能性まで考えてしまってるんだ。もちろん、杏奈さんは黒なんだろう。それは納得してる。愛里さんと二人指定された時に、二人で必死に霊媒吊りを推してただろ?愛里さんは結果的に黒だったと確定してる。二人は、お互いに狼だったから、お互いを吊り推すんじゃなくて霊媒吊りにこだわっていたんじゃないかって今、思ったんだ。村の票は真っ二つだった。両方狼だったから、そうなったんだ。カイが言ってたじゃないか。票が偏ったら少ない方が狼、真っ二つだったら両方村人か、両方狼だって。杏奈さんは次の日、愛里さんに入れてるからって指定から外れたけど、きちんとそこを精査するべきだった。だから、こうなって戸惑ってるけど、今夜はまず杏奈さんを吊りたいと思ってるよ。」
公一が言うことは、確かにその通りだ。
あの日、杏奈は愛里と共に、その時進行していた佳純に考え直して欲しいと訴えていた。
結局、カイや景清の意見でその日は指定が覆る事がなかったので、仕方なく愛里に入れたとしてもおかしくはない。
あれだけ抗ったのは、仲が良かったからだと皆が思ってはいたが、そんなバイヤスを取っ払うと、公一が言ったように、二人が狼だったのだと考えたらしっくり来た。
明生は、それを聞いて顔をしかめた。
「…そうだな、確かに。あの感じは、友達だという以上に何かある感じだよな。じゃあ杏奈さんは?疑われてどう思う?」
杏奈は、答えた。
「私はとにかく愛里ちゃんが狼なんて思えなかったし、私も村人だったから、私達を吊っても白しか出ないと霊媒から吊ることを推していたの。結果的に、愛里ちゃんが狼だっただけで。私だってとても驚いたし、ショックだったわ。それより、拓郎さんは私と公一さんについては何も怪しい所を言わなかったし、公一さんはこうなっても拓郎さんは怪しくないとか言って、狩人に2狼なんてあり得ないようなことを言い出してる。その上、白の私だけを黒塗りしてる。どう考えても、この二人に繋がりがあるようにしか見えないじゃないの。一日でも一緒に生き残りたいから、白の私を今夜吊りたいんじゃないの?この二人から吊るべきよ。」
拓郎は、言った。
「そんなもの、オレから見たら昌平が白だったんだから、君達二人が人外なんだしわざわざ言う必要ないじゃないか。公一はこうなっても白く見えててオレだって戸惑ってるが、明らかに投票対象に上がった時から怪しい動きをしてる杏奈さんのが、先に吊りたいとは思った。一緒に生き残りたいって、どうせ吊り切ると思ってると言ったよな?同じなんだよ。君みたいに黒が二人見えたら止めろとも言ってない。昨日、君はそう言ったよな?霊媒を噛んで偽黒を打ってもらって生き延びることを考えてたからじゃないのか。とにかく君は怪しいんだよ。盤面では公一だってオレ目線狼だが、あからさまに怪しい君は先に吊りたいとホントに思うよ。」
3人居て、この中に2人の狼が居るはずだ。
2人が杏奈を怪しいと言い、杏奈は反論している。
普通に考えたら狼2人が村人を貶めているようになるのだが、如何せん2人が言うように、杏奈は怪しい発言と行動が多かった。
残りの2人が、同じ意見で白く見えるほど、杏奈は黒く見えた。
明生は、額に手をやった。
「…わからない。杏奈さんが黒いのは同意だが、残りの2人がその意見で揃っているのがおかしい。とはいえ、狼が切ってる可能性もあるしな。困ったな…まあ、どうせ吊り切るんだ。今夜は、これを聞いてそれぞれが怪しいと思う所に入れてくれ。白でも吊りきるし、問題はない。他に、何か言いたい人は居るか?」
誰も、口を開かない。
恐らくみんな、本当にわからないのだろう。
明生は、言った。
「…じゃあ、次はもう投票前で良い。思い思いに話して、投票先を決めておいてくれ。一旦解散だ。」
皆が、立ち上がって伸びをしたりしている。
…あの2人が狼同士なら、あんなにあからさまに杏奈さんが怪しいと意見を揃えたりするだろうか…?
あゆみは、本当に分からなくなって、ただそこに座って皆の動きを見ていた。
離れた所で立ち止まってこちらを見ている伊緒と杏奈には気付いていたが、そちらを気にする気持ちにもならなかった。
明生が、あゆみと同じように動かない、景清に言った。
「なんだよ、相方が噛まれてそんなにショックだったのか?しっかりしろ、佳純さんはお前に託して護衛をそっちに向けたんだろうが。だから噛まれた。少しは頑張らないと、佳純さんが何のためにこうなったのかわからないじゃないか。」
あゆみは、そちらを見た。
景清は、答えた。
「分かってる。分かってるんだが、何で昨日佳純さんから護衛位置を外したんだろうって自分が不甲斐ないんだ。伊緒さんは佳純さんを守れなかったが、永嗣さんは守れた。もっと上手くやりようがあったと思うんだ。」
景清は、後悔しているのだ。
佳純と景清の間には、何か特別な感情があったのだろうか?
いや、佳純からはそんなことは聞いてはいなかった。
ただ、頼りにしているようだった。
仮にほんのり恋心が芽生えていたとしても、ゲーム中には口に出さなかっただろう。
それどころではないからだ。
明生は、息をついた。
「後悔しても、過ぎたことは仕方がない。あとは勝って、必ず佳純さんが戻って来られるようにするのがお前の役目だろう。もう一度言うぞ。しっかりしろ。」
そうだ、勝たないと佳純ちゃんに会えない。
あゆみは、自分を奮い立たせて言った。
「…そうよ。勝たないと。」明生と景清が、こちらを見た。あゆみは続けた。「私もがんばる。佳純ちゃんに後であれからこんな風だったよって話すためにも。景清さん、頑張ろう。私もがんばるから。」
黙って離れてそれを聞いていた、伊緒が言った。
「…あゆみちゃん?佳純ちゃんが居なくなったし、一緒に居ようよ。相談に乗るよ?」
側には、杏奈も立っている。
あゆみは、2人を見て首を振った。
「ありがとう。でも、私は明生さんと景清さんと一緒に考えなきゃ。確定村人なんだもの。落ち込んでばかりもいられないわ。一人になっても勝てるように、今度は私が景清さんと話し合うよ。佳純ちゃんの代わりに。」
それを聞いた伊緒は、自分も狩人なのにと思ったのか少し、顔をしかめたが、何も言わずに頷いて杏奈と共にそこを去った。
あゆみは、今こそ真の共有者として、村の進行をできるようにならなければと決心していた。
明生に促されて、菓子パンだけをもって明生の部屋へと景清を連れて向かったあゆみだったが、途中、ボーッと廊下の突き当たりの窓から、外を見つめる重久が目に止まった。
重久は三階の部屋だったが、居たのは二階の、一番端の明生の部屋の橫の窓の所だ。
明生は、重久に声を掛けた。
「重久さん?どうしたんだ、その窓は開かないぞ。」
絶望して、飛び降りようとしているのかと思ったらしい。
しかし重久は、こちらを向いて首を振った。
「…いや、明生を待ってた。」と、同じようにやる気が無さそうに呆けている、景清を見た。「お前は良いよ、相方で仲間だって最初から知ってただろ。だがオレは、和美が狐だったんだとショックでならないんだ。昨日和美の白の昌平に投票しときながらな。これからはみんなで話し合おう。オレも、確白だし。」
明生は、答えない景清に、ため息をついた。
そして、代わりに答えた。
「…目が覚めてくれて嬉しいよ。話し合える信頼できる仲間は多い方がいい。入れよ。」
重久は頷いて、明生について1号室へと入って行く。
あゆみも、景清を気遣いながらその後ろに続いた。




