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投票と五日目の朝

景清の意思は、変わらなかった。

公一も、昌平を残す意見を出していたが、景清の意見に逆らってまでとは思っていないようだ。

こうなって来ると、昌平は誰にも庇われる事がないので、白く見えた。

それは狐でも同じで、白人外なのだから、白く見えてもおかしくはなかった。

なので、そのまま投票になり、全票一致で昌平の追放が決まった。

昌平の票は、拓郎に入っていた。

昌平は、落ち着いた様子で言った。

「そうだよな。」と、皆を見回した。「これだけは言っておく。オレを残そうと言った、公一は白いと思う。オレは側に居たから分かってるが、和人さんは狐じゃあない。あいつは素直で、いいやつだった。村に勝って欲しい。和美さんは…」

そこまで言った時、モニターの声が言った。

『No.6は追放されます。』

昌平は急いで叫んだ。

「狼が噛んだのは一輝だ!狼は知ってるんだ、オレが…!」

そこで、昌平は目を開いたまま、口をポカンと開いて動かなくなった。

あゆみは、昌平が死んだことよりその続きが気になった。

「オレが、なに?!」佳純も同じなようで、叫んだ。「昌平さん!」

『No.6は、追放されました。夜時間に備えて下さい。』

昌平は、答えない。

シンと静まり返ったリビングで、皆が呆然と昌平の言葉の意味を考えていた。


大きな昌平を、残った男性達だけで運び上げるのは大変な作業だった。

皆が息を上げて昌平を部屋へと運んでから、明生が言った。

「景清。護衛指定だぞ。」

景清は、ハッと明生を見た。

「そうだ…護衛指定。」と、永嗣を見た。「永嗣さん、オレの部屋に来てくれ。伊緒さんは、後で部屋に行くよ。今夜の護衛先を話す。」

伊緒は頷いて、部屋へと戻って行く。

あゆみは、佳純を見た。

「佳純ちゃん、昌平さんの遺言…。」

佳純は、頷く。

「景清さんと話し合っておくわ。また話すから。とりあえず、あゆみちゃんは部屋に戻ってて。」

あゆみは、頷く。

別に部屋に来なくても、夜時間に会話はできるのだが、皆が居るのでそれを気取られるわけには行かない。

あゆみは、何も言わずに部屋へと戻って行った。


もう、9時を過ぎた。

昌平が吊られて、皆で運んだのが8時過ぎだったので、もう一時間以上経っている。

10時になれば、佳純と話せるので時間が過ぎてもいいのだが、訪ねて来るかもしれないと思うと、落ち着かなかった。

すると、チャイムがなって急いで扉を開くと、佳純が疲れた様子で部屋へと入って来た。

そして、扉を閉じて、言った。

「…今夜は、永嗣さんが元気さん守り、伊緒ちゃんが…とても揉めたのだけど、伊緒ちゃんは私はもう守れないから、景清さん守りにしてもらった。」

え、とあゆみは驚いた顔をした。

「え、でも噛まれたら道連れって。」

佳純は頷いたが、椅子へと崩れるように座って、言った。

「分かってる。分かってるんだけど、私じゃあんなに強く誰かを吊り推せないわ。だから、護衛成功が出ることを前提に、景清さんを守ってもらうことにしたの。ここまで護衛が入っていないのを知ってるのに噛まれていないし…まさか猫又だと知られてるなんてことはないだろうけど、共有者が護衛を入れないのは怪しまれるって説得した。そしたら、一回だけ自分護衛にするって言ってくれたの。だから私には護衛が入らないけど…でも、どちらの護衛先も伏せられてるから。狼は迷うんじゃないかな。景清さんは渋々、伊緒ちゃんに護衛先はやっぱり自分にしてくれ、って言いに行ってくれた。最初は、明生さんにしてたみたいなんだけどね。」

だとしても、怖い選択だった。

あゆみは、言った。

「…そんな…自分から護衛を外すなんて。佳純ちゃんまで居なくなったら、私…。」

心の支えがなくなってしまう。

あゆみは項垂れたが、佳純はそんなあゆみを慰めるように言った。

「大丈夫よ。仮に襲撃されても、勝てば帰って来れるって信じてる。それに、明生さんも重久さんも、景清さんも居るわ。あなたは猫又だと思われてるし、噛まれない。きっと勝って。」

あゆみは、答えた。

「勝ちたいよ。でも、景清さんが噛まれて道連れが出たら、どちのみち私はCOしなきゃならなくなるわ。最終日まで生き残れるかわからない。必ず勝つって私は約束できないよ。」

佳純は、言った。

「どちらにしろ景清さんは今夜は噛まれたとしても残るわ。噛まれたら伊緒ちゃんが偽だと分かるし、すぐに吊ればいいの。道連れの一人と伊緒ちゃんで、一気に二人処理できるわ。だから大丈夫。とにかく頑張ろう。」と、立ち上がった。「疲れちゃって。また10時に話そう?ちょっとシャワー浴びて来る。」

あゆみは、頷いた。

「分かった。みんなへのフェイクのためにここに寄ってくれたんだね。」

佳純は、苦笑した。

「うん。あくまでも、猫又はあなたよ、あゆみちゃん。明生さんには確白だし打ち明けてある。重久さんは、和美さんが死んでから不安定だし、危ないかもって言ってないよ。あと、黙ってくれてる元気さんは白いよね。何も聞きに来たりもしないし、バレないようにしてくれてる。だから最終日は、尚斗さんと安治さんで迷っていいよね。」

あゆみは頷いたが、本当にそれでいいのか、と迷う自分も居た。

何しろ、景清は噛まれていないし自分もこうして残っている。

それは、ラストウルフが元気で、それを生かすために狼がそうしているのなら、と、迷う気持ちも生まれて来るのだ。

誰も彼もを疑う自分に嫌気が差しながらも、あゆみは佳純の疲れた背中を見送ったのだった。


景清が噛まれてくれたなら。

あゆみは、佳純との通信も終えて、ベッドに横になりながら思っていた。

狼位置も分かるし、何より狼が一人処理できて、その上元気の真があゆみ目線では確定する。

だが、そう上手くは行かないようだ。

今夜は仮に護衛成功が出たとしても、それが元気なのか景清なのか、判断する術がない。

次の日景清から護衛が外れた時に、噛んで来るかどうかといったところだろう。

それでも、護衛位置を公表しなくなったので、狼からも誰を守らせているのか見えなくなったので、どうなるのか分からなかった。

ため息をついて目を閉じたあゆみは、そのまま眠りについたのだった。


次の日の朝、すんなり目が覚めたあゆみは、もう慣れたように扉の前でその時を待った。

…今日は、誰が残っているのだろう。

緊張していると、バチンという閂が抜けた音が聴こえて来て、それと共にあゆみは部屋を飛び出した。

目の前の部屋は昌平だったので、今朝はもう出て来なかった。

だが、その隣りの部屋の杏奈と、またその隣りの景清は、顔を覗かせていた。

部屋から出て廊下を向こうまで見ると、昨日生き残っていた明生は、部屋から出てこちらを見ていた。

「…二階は誰も襲撃されてないね。」背後から、伊緒の声がしてハッとして振り返ると、伊緒は続けた。「三階に行きましょう。」

伊緒も生き残ったのだ。

あゆみは黙って頷いて、急いで階段を上がって行った。


三階では昨夜生き残っていたのは、永嗣、元気、重久、尚斗、安治、佳純、公一、拓郎の8人だ。

あゆみ達が上がって行くと、全員が階段脇の部屋の前に居て、扉を開いていた。

…え…!?

あゆみは、愕然とした。

何度も行ったので覚えている。

これは、佳純が居るはずの、18号室だ。

「え…まさか、佳純ちゃん?!佳純ちゃんなの?!」

あゆみが叫ぶと、最後尾に立っていた安治が振り返って、頷く。

「今、重久と公一が入って行って確認してる。昨夜は、佳純さんだったみたいだな。二階は全員居るか?」

それには、明生が険しい顔で頷く。

「居る。五人とも生き残ってる。昨日は、共有者を噛んだのか…景清じゃなく、佳純さんを。」

あゆみは、駆け出した。

「佳純ちゃん!」

そして、なりふり構わず部屋の中へと飛び込んで、ベッドへと駆け寄ると、中で確認していた、公一と重久が振り返って、道を開けてくれた。

あゆみは、じっと目を閉じて動かない、佳純の手を握った。

「佳純ちゃん…。」

冷たい。

あゆみは、その手の温度に涙が溢れて来るのを感じた。

昨日、いつもの感じで夜時間の通話を終えて、今朝もまた会えると信じていたのだ。

護衛がずっと入っていた佳純だったので、狩人の護衛がまた佳純に入っているだろうと狼が思うことを信じて、そうして眠ったのに。

最初から支えにしていた、佳純がこうして死んでしまった。

あゆみが項垂れていると、いつの間にかやって来た、伊緒がその肩に手を置いた。

「…あゆみちゃん。ごめん、一昨日の夜守ってしまっていたから、昨日は私はどちらにしろ佳純ちゃんを守れなかった。狼だろう永嗣さんの護衛が、佳純ちゃんに入っていたら噛まれずに済んだかもしれないのに。違ったのね。」

あゆみは、伊緒は慰めてくれているのに、何やら心の中から沸々と怒りのようなものが湧き上がって来るのを感じた。

そんなことを言って…!伊緒ちゃんが狼で佳純ちゃんを噛んだのかもしれないのに!

あゆみは、キッと伊緒を睨んだ。

「…分かってた。佳純ちゃんは初日から覚悟していたもの。もしかしたらって、昨日だって景清さんと話した後に私の所へ寄ってくれたわ。佳純ちゃんは、わざと自分ではなく景清さんが生き残る方が村のためになるって言って、あんな護衛位置にしたの。佳純ちゃんはとても勇敢だったと思うわ。」

涙を流しながら言うあゆみに、さすがの伊緒もぐ、と黙った。

景清が、言った。

「…オレの相方が襲撃された。佳純さんの想いは、昨日オレも嫌ほど聞いたよ。だから、最初はどうしようかと思っていたが、自分に護衛を入れるように変えたんだ。今思うと、永嗣に佳純さんを守らせて、伊緒さんにオレを守らせても良かったのにな。もう、こうなってしまったんだから仕方ない。粛々と今日もグレーを吊ろう。じゃあ、結果を聞くぞ。」

景清は、霊媒師たちを見た。

三人は、口を開いた。

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