午後の会議
伊緒と杏奈が部屋から出て行ってすぐに、佳純の所へ向かったあゆみだったが、佳純は部屋から出て来ているところだった。
どうやら、景清がそろそろ会議を始めようと言っているらしい。
今は、明生と共に皆に下に集まるように言いに回っているらしかった。
あゆみは、杏奈と伊緒のことをかいつまんで話し、佳純は顔をしかめた。
「…そうなの?うーん、ってことは杏奈ちゃんと伊緒ちゃんは同陣営なのかな。午前中の会議で、杏奈ちゃんが狐なのかなって思ってたんだけど。」
あゆみは、言われてみたら、と答えた。
「そうね、確かに。狼と狐だったら庇うのはおかしいわね。でも、狼同士とか片方が村人だったら?」
佳純は、唸った。
「そうねぇ…ホントだわ。とりあえず、下に行こう?みんなの意見を聞かないとわからないわ。でもその感じ…なんか、伊緒ちゃんがわけわからないわね。尚斗さんにヘイト向けすぎじゃない?怪しくなるのが分かってるようなものなのに。人外だったら、もうちょっと皆に合わせて当たり障りのない感じにした方がいいと思うのよ。感情的になるのは、性格なんじゃない?」
あゆみは、歩き出した佳純について歩きながら、頷く。
「まあ、それは思った。結構強引な性格だから、こうと思ったら駄々こねちゃうタイプなのかなって。」
佳純は、息をついた。
「困ったな。でも、狩人は後で精査って景清さんは言ってたし。最終日になるのかな。」
あゆみは、言っておかないと、と言った。
「でも、恵令奈さんは白だったのよ。狂人ならいいけど、もし真だったら?狼と狂人なら、分かっていて対立して見せてるかもしれないわ。霊媒なら、偽は一人なんだし最終日まで残していいと思うけど、狩人は怖い。私は霊媒を最終日に残した方がいいと思うんだけど、どう思う?」
佳純は、それこそ面倒そうに顔をしかめた。
「確かにそうだわ…もう、ほんといやになってきた。でも、命が懸かってるから。景清さんに言っておくわ。私もそれはそうだなって思うから。」
あゆみは頷いて、リビングへと向かって行ったのだった。
そこから十分ほどで、全員がリビングへと集まった。
疲れた様子の、景清が言った。
「…じゃあ、午後の会議を始める。今夜は、役職からではなくグレーから。役職は、もしかしたら噛まれる可能性があるだろう。特に霊媒は、真透けするのを嫌って真結果を出し続けなきゃならないから、偽の結果を出したければ真を一人噛むしかない。それから狩人だが、今夜からは個人個人にオレが守り先を伝える。カイが居なくなって、そこを守る必要もないし、確定白の明生、重久さん、オレ、佳純さん、あゆみさんの誰かを指定しようと思ってる。それで破綻するか護衛成功が出るか、そこでもまた、狩人精査はできる。だから、今夜はグレーだ。基本的に全員吊り切ることにしているし、オレが噛まれても佳純さんには必ずそれは完遂してほしいと言ってある。狐対策なんだ。その上で、じゃあ昌平からグレーの意見を聞こうか。他のグレーの中で、怪しい位置があればその理由とか教えてほしい。」
昌平は、口を開いた。
「オレは、そうだな、狐が居るなら杏奈さんかなと思った。朝の会議の時の意見だ。杏奈さん以外は全員、吊りきることには仕方なく同意したのに、杏奈さんだけが黒が二人吊れたら止めて欲しいと言った。潜伏している狐だとしたらそうなんじゃないかって思うかな。公一と拓郎は、初日から二人共に同じ意見を出してる印象だし、ここが二狼だとしたらしっくり来るなと思ってるけどな。」
役景清は、頷いた。
「じゃあ、杏奈さん。」
杏奈は、言った。
「私は、狐が生きてるとしたら和美さんが偽だったんじゃないかって思うから、昌平さんは初日に囲われてた狐なんじゃないかと思う。和人さんなら、一輝さんが初日に囲っていたわけだから、この二人が狐でしょ?この中に狐が居るのなら、昌平さんが一番怪しい。吊りきりに同意してたって言っても、最初は渋ってる印象だったわ。みんながそういうから、仕方なく合わせたように見えた。今夜吊られなければ、明日以降反対意見を出せばいいって思ってとりあえず合わせたんじゃない?」
言われてみれば、みんなが吊りきれと言っているのに、反対意見を出して目立つ行動をするのはせっかくここまで潜伏していた狐にしてはお粗末だ。
昌平は反論した。
「それはオレは自分が村人だって知ってるから。この中には狼二人と村人二人なんじゃないかって思ってるよ。和人が村人であんな確信めいた遺言を遺すか?考えすぎてるんだと思うぞ。でも、村がそう決めたならって仕方なく吊りきりを飲んだだけだ。オレからしたら、吊りきるこを嫌がる杏奈さんは、狐というより狼な気がして来たな。黒が二人とか言っているが、霊媒に居る狼がさっさと黒を出してくれるのを知ってるからなんじゃないかって思えて来たから。オレとか他の村人が吊られた時に、黒にするんだよ。つまり、霊媒を噛もうとしてるんじゃないか?共有者は、そこんとこ考えて護衛先を指定してほしいね。」
景清は、頷いた。
「それはもちろん考えてるよ。何しろ、霊媒の結果だけは真を欲しいからね。狼がどこを噛めばいいのかわからないように、護衛先を伏せるんだ。護衛成功が出たら、偶数進行だし縄が増えるからな。」
それを聞いた時の皆の顔色を、あゆみは見ていた。
だが、誰の顔色も変わることはなかった。
恐らく、想定の範囲内だったのだろう。
とはいえ、狼にとって面倒なことになっているはずた。
狩人に、狂人と狼が残っているのならこの限りではないが。
景清は、公一を見た。
「公一は?どう思う。」
公一は答えた。
「…昌平と杏奈さんだったら、昌平の方が白く見える。というのも、オレも狐は和人さんで落ちてると思ってるからだ。あの遺言はやっぱりおかしいよ。狐でないとあんなことは言わないと思うけどな。それとも思い込みが激しいタイプで、あんなことを言ったのか?うーん、だから、オレからしたら昌平以外、オレも含めて吊り切って、縄を残して役職精査でもいいかなと思ったかな。和美さんはやっぱり真だろ。普通に考えていいかなと思うんだ。そもそも狩人だって、恵令奈さんが狂人だとか言ってるけど、もし真で狼と狂人が残っていてこんな襲撃の仕方をしてるとしたら、ヤバくないか。狩人吊り切ってから、霊媒精査とかの方が良いような気がしててね。」
あ、白い!
あゆみは、思った。
自分が危惧していたことを指摘したからだ。
拓郎が、だが言った。
「昌平が狐だったらどうするんだよ。それこそ一人勝ちされてしまうぞ。ここは確信のないことは信じない方がいい。オレは昌平含めて吊り切ることに同意だな。それが村の安定進行だろう。」
公一は、拓郎を見た。
「でも、ホントに拓郎さんは和人が村人だったと思うのか?オレは…どう見ても和人が狐だったように思うんだけどな。縄を無駄に使うと、間違えた時に修正がきかないんだ。どうせ自分が吊られるなら、勝ってもらわないと。」
あゆみは、言った。
「私も、狩人のことはそう思うの。」皆があゆみを見る。あゆみは続けた。「恵令奈さんが偽だった確証がないわけなのよ。狼と狂人が、対立を演じてたらヤバいことになりそう。最終日まで生きて、パワープレイに持ち込まれたら最悪よ。同票の時は、どうなるんだった?」
明生が、それに答えた。
「ルールブックには、二回同票ならランダムでどちらか一人が追放になると書いてあった。だから、そうなったら賭けだな。」
景清が、息をついた。
「…そうだな、狩人を最終日まで残そうと考えていたが、そうなると確かに先に狩人を処理しておいた方が良いかもしれない。とはいえ、それはグレー処理を終えた後のことだ。ちなみにオレは、そう長く生きられないと思っている。佳純さんは共有者だが、強く意見を出されたらそれを押し通せるかわからない。だから、今日は必ずローラーを完遂してもらうために、オレは白いと思う位置から吊ろうと思っている。」
え、白っぽい所から吊るの?
あゆみが驚いていると、他の人達も驚いた顔をした。
景清は続けた。
「特に、昌平のことは、みんなきっと迷うだろうし、公一が言ったように和美さんが真だったらとか、縄を惜しんで吊らない事が出てくるかもしれない。だから、今夜は昌平から吊ろうと思っている。」
そんなやり方があるんだ。
あゆみは、ただ驚いて聞いていた。
つまりは、昌平を残したら白いからやめておこうとか、そういうことになる可能性があるので、先に吊ってしまおうというのだ。
他は、景清が死んだとしても、きっと皆吊ろうと思うだろうからだ。
昌平は、むっつりと景清を見た。
「…白い所から吊るなんて、共有者らしくない考えだぞ。霊媒師がオレに白を出して、皆後悔することになるのに。」
明生が、言った。
「狐でも白だ。とにかく、景清の言うことに従おう。命を懸けて言ってるんだしな。何しろ筆頭噛まれ位置だからな。」
皆、黙っていて意見を出さない。
ということは、全く味方が居ないということなので、狼でもないことになるし、昌平は村人か狐なのだろうか。
あゆみは思いながら、じっと皆の様子を観察していたのだった。




