信じられない
あゆみは、佳純と一緒にみんなが出てくるのを待って、キッチンへと向かった。
昨日までは杏奈と伊緒と4人で行動していたが、今朝になってにわかに2人も怪しく見えて来て、とても一緒にご飯を食べようという気持ちになれなかったのだ。
伊緒は狩人2人のうちの1人だし、杏奈は4人の中に最大3人の人外が居るグレーの1人なのだ。
あゆみは、隣りに居る佳純を見て、自分が共有者であったことを感謝した。
もし村人だったりしたら、怪しまれてたった一人、回りは誰を信じて良いのか分からずに、混乱してとても精神が持たないだろうと思ったのだ。
加えてそんなに、議論に強いわけでもない。
人外に黒塗りされて、それを跳ね返すだけの力があるとは思えなかった。
しかも、景清が噛まれようとして共有者を騙ってくれたお陰で、自分は絶対に噛まれない位置に居る。
感謝しかなかった。
あゆみと佳純は、誰も居なくなったキッチンで2人、黙々と食事をしていた。
一息つく、佳純が空になった皿を手にゴミ袋へと向かいながら、言った。
「…困ったな。杏奈ちゃんと伊緒ちゃん、信じきれないのよね。」
あゆみは、それは自分も思っていることだったので、頷いた。
「…うん。私も。昨日まではね、伊緒ちゃんにはいろいろ教えられたし、一生懸命なんだなってかなりの確率で真を信じていたの。でも、今朝の会議で…初日から、尚斗さんをすごく怪しんでいるでしょう。もちろん尚斗さんは怪しいし、間違っていないのかも知れないけど、そうなるように狼が状況を動かしていたらって、そんな風に思ったの。安治さんのこともそうよ。尚斗さんが襲撃を怖がるようにあんなことを言ったってことは、つまりは白だって思ってたってことになるし、今の盤面じゃおかしいわ。狐が役職のどこかに出ていることになるものね。もう、何が何だか…考える事が多すぎるのよ。和美さんのことも…真だって信じたいけど、違うかもしれないし。」
佳純は、ため息をついた。
「共有としては方針を決めて行かないとずるずると最終日になって決め打ちミスったら終わるのは分かってるんだけど、そんなに重大なことを決める勇気はないわ。カイ君がいなくなって、呪殺が起こらないから確実に処理できてるって見えないしね。景清さんは狩人残しで最終日決め打ちだって言ってたけど、もし狩人に狐が居たらと考えたら怖いじゃない?役職のどっちを最終日まで持って行くのか、そこを決めるのすら大変なのよ。」
あゆみは言った。
「でも、狩人に狐と狂人が出ていたとして、噛まれないのはおかしいわ。狂人が残ってるとして狼と繋がっていたなら分かるけど、恵令奈さんが狐だったことになるからどちらにしろそれなら狩人残しでも大丈夫でしょ?恵令奈さんが狂人なら、狐が残ってることになるから、狼はその護衛先を噛んで、偽だって知らせて吊らせようとすると思う。それがないわけだし、やっぱり狩人には狼と真なんだよ、きっと。」
佳純は、言った。
「そうね。狩人に狐が出ていたら、狼はそれを知らせるために護衛先を噛むわよね。だったら、大丈夫ってこと?そこがラストウルフになるのかな。」
あゆみは、頷いた。
「うん。私はそう思うよ。問題は、どっちが真かってことになるけどね。」
佳純は、またため息をついて遠い目をした。
「…元気さんは、真だと思うわ。ここまで狼に共有と猫又位置を特定されなかったのは、漏れていないってことになるから。だからやっぱり安治さんと尚斗さんなのよ。」
そこで、キッチンの扉が開いた。
慌てて振り返ると、そこには明生と景清が並んで立っていた。
佳純は、ホッと肩の力を抜いた。
「あ、景清さん、明生さん。」
2人は、寄ってきて景清が言った。
「なんだ、深刻な顔して。ゲームのことを話してたのか?」
あゆみは、頷いた。
「ええ。元気さんは真だろうし、だったら尚斗さんと安治さん、どっちなんだろうって。」
明生が、冷蔵庫に寄って行きながら、言った。
「今朝までは尚斗さんが圧倒的に怪しかったのに、ここに来て安治さんがな。尚斗さんを虐めるのは人外だと思うなら分からなくもないが、噛まれると脅すってのが…白が透けてる人外なのかって考えるよな。」と、冷蔵庫を開けて景清を見た。「景清、ほんとにサンドイッチだけでいいのか?」
景清は、頷く。
「そんなに食欲ないし。」と、あゆみと佳純を見た。「とりあえず、今夜吊った人の色はきちんと見たいし、今夜は霊媒に護衛を入れるかなって思ってるよ。カイが噛まれたし、その分空くだろ。霊媒には必ず真2人が残ってるから、村の意見からしても元気を噛みたいところじゃないか?そこを守らせて、噛まれないようにしたい。オレが噛まれたら…それでまた、色が見えて来るだろう。」
狼を道連れにするからだ。
あゆみは、言った。
「護衛成功が一回出たら、縄が増えるわ。守り先はギリギリまで言わずに、各対抗がどこを守っているのか知らせない方法で指定できないかな。今の状態じゃ、絶対に護衛成功しないでしょう。狼と読み合いになるけど…それで決め打ちをミスってもなんとかなるんじゃ。」
景清は、ため息をついた。
「…でもな、結局猫又噛みで狼道連れしたら、二死体出て縄は増えないんだ。ここは縄を増やすより、猫又噛みで狼位置を見てそこから推理するのがいい。縄が増えるのと同じ効果があるぞ?霊媒や狩人の中の狼が道連れになったら、そこの決め打ちする必要がなくなるし、グレーなら吊り縄消費せずにグレーを処理できる。何よりそこが必ず狼だと分かる。そっちルートの方がいいはずだ。」
景清は、ここには確定村人しか居ないのに誰が猫又だとは言及しない。
会話が誰にどこで聞かれているのかわからないと思っているのだろう。
とはいえ、キッチンは完全防音のはずだった。
「…まあ、景清がしたいようにしたらいいさ。」明生は、サンドイッチを持ってテーブルへと戻って来ながら、言った。「お前がそれで良いのならな。」
佳純は、ため息をついた。
「それでも、護衛先を知らせない方法は良いと思うわ。どちらにしろ狼は、噛みたい所を噛んで来るはずだし。どこを守っているのかわからない方が、噛み先に困るはずよ。あゆみさんが言う方法で行きましょう。狼に渡す情報は、少ない方がいいもの。」
景清は、顔をしかめる。
だが、明生は頷いた。
「そうだな。そうしよう。狩人の偽が透けるかもしれないし。昨日永嗣さんは尚斗、伊緒さんは佳純さんだったよな?じゃあ、今夜はどうする?」
景清は、不満そうにしながらも、またため息をついた。
「…そうだな。考えておくよ。時間ギリギリでなくても、2人共相手に護衛先を開示などしないだろう。個々人にオレから訪ねて言うことにする。」
あゆみは、頷く。
これで護衛成功が出る可能性があるし、きっと上手く行くはず…。
あゆみは、そう願っていた。




