グレー
静まり返った中で、拓郎が言った。
「…やっぱり、吊り切ってくれ。」え、と皆が拓郎を見ると、拓郎は続けた。「和人が狐だったならいい。だが、そうでなかったらグレーは人外だらけってことになる。この中に狐も居る可能性があるからだ。そうなるとオレ目線、オレ以外は人外になるから、村から見てわからないならもう、昌平含めて全部吊って、役職精査に向かうのが一番の勝ち筋だろう。幸い、霊媒結果だけは残る。この感じだと元気は限りなく真だろうから、そこを残して安治さんと尚斗さんで最後悩んでくれたら良いじゃないか。占い師が居なくなった今、それしかない。」
杏奈が、言った。
「え、吊りきるの?私は村人なのに、黒が二つ出たら止めて欲しいわ。昌平さんがわからないなら、今夜吊って懸念材料をなくしてから進めればいいじゃない。縄一本で、村は追い詰められなくて済むのよ?納得行かない。」
公一が、言った。
「…でも…確かにオレはオレが村人だと知ってるけど、村から見たらただのグレーだしな。吊られてから白が出ても、狐だったか村人だったかすらわからないわけだろ。昌平さんを吊って白が出て狐なのかもわからないのに、その後黒二つで止めるのは怖いよな。もう、こうなったらオレも拓郎に同意かな。最初に景清さんが言ったように、全員吊り切って考えた方が安全だ。狐がわからないんだから…村さえ勝てばいいんだよ。」
昌平は、言った。
「オレは白なんだよ。和美さんが真だったと思うし、できたら縄を無駄にして欲しくない。安治さんと尚斗の精査が難しそうだし、永嗣さんと伊緒さんもそうだ。両方決めうちなんか、危ない橋を渡ることになるのに。とはいえ、それしかないなら村を信じて吊られるしかないのかもな。オレとしては、にわかに杏奈さんが怪しく見えてる。オレを先に吊れ、その後黒二つで止めて役職精査って、もしかしたら本当に和人は狐でなくて、杏奈さんが上手く潜伏していた狐なのか?全員ローラーされたら、まずいのか?」
皆の視線が、杏奈に向いた。
杏奈は、慌てて言った。
「そんな!私は村人よ!縄を無駄にすることが気になっただけよ!だって、みんな分かるの?誰が真なのか。間違えたら縄が足りなくなるのよ?村にそんな余裕があるの?」
「ストップ。」ずっと黙って聞いていた、景清が言った。「分かった。もうかなりの時間話してるし、一旦休憩しよう。とりあえず、グレーは吊りきる方向で行く。その際、皆の懸念は分かるから、昌平も加えた4人からにしよう。4人吊り切ってる間に役職も精査できるだろう。何より霊媒結果は揃うんだ。そこから考えよう。オレは今夜にでも居なくなるかも知れないから言うが、狩人は最終日まで持ち越すことにして、確定村人が必ず残るようにしよう。ま、仮に破綻したら先に吊ればいいと思ってるけどね。じゃあ、一旦解散。」
皆の、肩の力が抜けるのを感じた。
段々に、会議が議論になってくる。
和美は真だったのか?昌平は狐なのか?杏奈は?安治と尚斗の内訳は?伊緒はもしかしたら人外なのか?狼は今夜、景清を噛むんだろうか…。
あゆみは、考える事が多くて、ため息をついたのだった。
ぼんやりと皆が立ち上がってそれぞれ思い思いの方向へと去って行くのを眺めながら、あゆみは考えた。
グレーの4人は、狐が居るならほとんど人外だ。
たった一人の村人を見つける事さえできたら、縄を無駄にしないで済む。
が、みんな白く見えた。
唯一吊りきることに消極的な意見を出した、杏奈だけが少し、怪しくなっていた。
あゆみが考え込んでいると、伊緒が言った。
「あゆみちゃん?ご飯食べないの?」
言われて暖炉の上の金時計を見ると、もう正午に近い。
だが、あゆみは首を振った。
「後でいい。考えたい事があるから。伊緒ちゃんは先に食べて来て。」と、離れてこちらを見ている杏奈にも言った。「杏奈ちゃんも。」
佳純が、言った。
「私達確定村人だし、ちょっとここで話し合うわ。あなた達はキッチンへ行ってくれていいよ。後から食べる。」
伊緒は、すこし不満そうな顔をしたが、仕方なく杏奈と共に、キッチンへと向かった。
それを見送ってから、佳純は小声で言った。
「…誰が人外かなって?」
あゆみは、首を振った。
「違うの、誰が村人かなって。一人特定できたら、縄を無駄にしなくて済むよね。それがわからないの。普通に考えたら、和人さんの遺言はおかしいから、狐だろうって思うよね。でも、和人さんはCOしたわけじゃないし、それがわからない。和美さんが狐だったら、昌平さんを放置するのは危険だわ。なんだかもう…分からなくなって。」
まだリビングに残っているのは明生と景清だけだ。
確白の重久は、どうやらキッチンへ向かったようだった。
明生が、言った。
「オレは、拓郎が吊りきれと言う前は、昨日カイに占われる予定だった拓郎が怪しいかなと思ってたんだが、よく考えたら占い先は知らされてない。狼が黒を打たれるのを嫌ってあんな強硬なことをしたって考えるのはおかしいと思い直して。それに、真っ先に吊りきれと言えた拓郎は白い。カイに占われているはずだから、生きてる時点で狐でもないし…公一も、諦めたように吊り切れと言ってたし、今一番怪しく見えるのは、杏奈さんだよな。」
明生もそう思ったのか。
あゆみは、頷いた。
「そう。でも、ほとんど人外の中でみんなが吊れと言うのに、一人だけが縄を惜しんでるのは逆に白くない?決め打ちを間違った時の心配をしてるわけだし。」
景清が、頷く。
「そうなんだよな。狐が残ってたら、4人の中には3人人外が居るわけだし。そいつらも同意してることになるだろ?」
佳純が、言った。
「でも、逆にっていうなら思わない?狼二匹と狐一匹ってことだから、もし狼が狐が生きてるかもって思っていたら、もう自分も含めて吊り切るより他、勝つ道筋はないじゃない。後は役職に居る狼に託すよりないわけよ。私はこうなって、もしかしたら狐が狩人とか霊媒に出てることもあるのかもって思ってたけど、無いなってホッとしたわ。狼が、吊れって言ってるんだから、グレーにはあってやっぱり狼が二匹なのよ。狼は、狐位置がわからないから、吊って欲しいんじゃない?」
言われてみたらそうだ。
狐が居たら、狼だって勝ちをさらわれてしまう。
ならば諸とも吊ってもらって、最後に仲間に頑張ってもらうしかないと考えるだろう。
「…言われてみたらそうだな。」明生が言った。「3人が吊りきれと言ってるわけだ。その中に必ず狼は居るだろうし、それが嫌なのは狐だけ。だったらやっぱり、杏奈さんが一番狐に近いか。」
景清が、ポケットからメモを出してそれを見て、言った。
「となると、二日目の投票で杏奈さんと愛里さんの二択で、昌平と杏奈さんは愛里さん、拓郎と公一は杏奈さんに入れてる。これ、もしかしたら杏奈さんが狐かもしれないから、狼の愛里さんを避けて杏奈さんに入れたのかな?どう思う?」
明生は、首を傾げた。
「あの日は真っ二つだったよな。どうだろう、霊媒はどうだ?」
景清は答えた。
「尚斗が杏奈さん、安治さんが愛里さんに入れてる。狩人は両方共に愛里さんだな…ここは身内切りがあるんだろうが、その票で狼が死んでるわけだし…どう見たらいいんだろう。」
たまたま、その票で死んだのかもしれない。
あゆみは、思った。
とりあえず自分が白くなるために入れた票が、決定打になってしまっただけで。
「…こうなると、公一と拓郎が狼で、狐っぽい杏奈さんに入れてるとしたら分かりやすいけど…わからないなあ。尚斗はまたあからさまに怪しく見えるし。」
あゆみは、唸った。
狼の気持ちなど、本当にわからないのだ。
佳純が言った。
「…わからないわよね。尚斗さんは投票でも怪しい。でも、村人だってあの日は愛里さんに入れてる人も居るし、決められないわ。だって安治さんの行動は、尚斗さんが狂人って前提でしょ?狂人だったらグレーに3人狼が居ることになるんだろうし、となると役職に一人狐が居る計算になるもの。何か透けてるのって思っちゃうわよね。だから安治さんは今朝怪しくなった。あー、とにかくもう、グレーを吊りきるしかないのかもしれないわ。」
内訳がわからない。
ここはもう、グレーを全部吊るしか方法はなさそうだ。
あゆみはため息をついて、どんどんとわけが分からなくなる盤面に頭を抱えたい気持ちだった。




