霊媒師
尚斗が、真っ先に言った。
「オレは真なんだよ!ホントにそうなんだ、信じてくれ!」
景清が、困ったように言った。
「だからまだ君の真は切ってない。あまりにも尚斗にとって不利な盤面になっているみたいだしな。まあ自業自得なんだけど。とりあえず、なんでそこまで自分が噛まれると思ったのかって事だ。教えてくれないか。」
尚斗は、途端にしょんぼりとした顔になった。
「…昨日なんだ。オレ、元気とは対抗だけど、相方かなって思っててね。あっけらかんとしてるから、悲壮にならなくて済むし。だから2人で話してたら、安治さんが来て。今夜は絶対お前だぞ、お前だけは猫又じゃないからなって言うんだ。」
安治さんか…。
あゆみは、安治に自然に視線を向けた。
安治は言った。
「みんながそう思ってたじゃないか。だから思ったことを言っただけだ。それをお前が間に受けてあんなことをしたんじゃないか。」
確かにそんな意見が出ていた。
元気が、言った。
「だったら、逆に尚斗さんは白いじゃないか。噛まれるのが怖かったんだろ?安治さんは、尚斗さんが噛まれると思ってた。つまりは狼じゃないと思ってるってことだろ?」
確かにそうだ。
だが、安治は言った。
「みんな、どう考えてるんだよ。恵令奈さんが白で、本当に狂人だったのか?オレは、いろんな可能性を考えて、偽目の尚斗が狂人か狼か、確かめてやろうと思った。結果、結構怖がっていたから、狂人なのか、それとも変な動きをしてる真霊媒なのかって昨日は思った。だが、護衛先を変えるなんてことをしでかして、どう考えてもこいつは偽だろうが。怖がるふりをして、それを利用して永嗣と共謀してカイを噛もうとしたのか、それとも永嗣は何も知らなくて、尚斗が真の永嗣の護衛先を動かして噛んだ狼なのか、狂人なのか。分からないが、こいつは人外だ。オレはそう思った。何しろ元気には、これっぽっちも怪しい所がないんだ。」
安治目線では、尚斗が限りなく偽だと言うのだ。
しかし元気は、言った。
「…オレ目線じゃ、どっちもまだ相方の可能性がある。でも、こうなって思ったけど、昨日からの事を側で見て来て、ほんとに尚斗は怖がっていたんだ。安治さんは、どうしてこんなに尚斗を虐めるんだろうって思って見てたぐらい。こうなったからには、安治さんは尚斗が怯えて自分に護衛を引き寄せる事を期待してたんじゃないのか?それで、カイをどうしても噛みたかった狼なんじゃ。なんか、尚斗が陥れられてるように見えて来た。伊緒さんも怪しい。」
霊媒師の意見が割れて来た。
この中に、一人だけ人外が居るのだが、今の時点では怪しいのは尚斗か安治と言う事になる。
それは、あゆみ目線でも自分が共有者だという事を、初日から黙っていてくれている元気は白かった。
とはいえ、今となっては、普通に考えたらどうあっても尚斗が怪しいのだが、いろいろ考えたら安治が怪しい。
安治目線、尚斗が真の可能性もあったはずだ。
それなのに、昨日そこまで尚斗を怯えさせて虐める理由が分からない。
元気が言うように、気が小さい尚斗が生き残ろうと行動するのを、期待していたとしたら怪しかった。
安治は、村の空気が変わっているのを感じたのか、ため息をついた。
「…まあ、意地が悪かったと思う。尚斗が人外に見えてたから、叩けるだけ叩いてやろうと思ったんだ。怖がってるのを見ると、胸がすいてね。ここまで、襲撃し続けて来た狼陣営の一員かって思うと…襲撃を怖がるって事は狂人だろうって思ったからね…それが、まさかこんなことをしでかすなんて。思っていなかったんだ。」
尚斗、言った。
「オレ、あんなに言うんだから安治さんが狼で、オレを噛もうとしてるんだって思い詰めて。元気はオレを怪しんではいたけど、そこまで意地悪なことは言わなかった。だから、もう怖くて怖くて…気が付いたら、永嗣さんにあんなことを言ってた。オレが悪いのは分かってる。でも、ほんとに真なんだよ。」
明生が、言った。
「うーん、尚斗さんがそう思うのも無理はないし、仮に狼だったとしたらそれを利用されたって事だからな。少なからずこうなったのは、安治さんにも責任はあると思う。みんな、自分の発言には責任を持って欲しい。それを聞いて、村人でも人外でも、何をするかまで考えて口に出して欲しいんだ。そうしないと、例え村人であっても間違う事がある。尚斗さんの真贋が、これで濁ってる…表推理じゃどう考えても偽だが、元気が言うように本気で噛まれることを怖がっていたなら白だ。人外でも狂人。これまで吊られて行った人達の色を見ても、狂人はもう居ないんじゃないかって思うし、そうなると尚斗さんは怖がるふりをした狼か、真霊媒師と言う事になるし…ほんとに分からないんだよ。」
尚斗は、しおらしく言った。
「…ごめん。こんな事をしなくても、昨日オレは噛まれなかったのに。でも、死ぬって思うと怖くて怖くて…永嗣さんにも、迷惑かけてるよな。」
永嗣は、頷いた。
「そうだぞ。狼に加担した事になるんだからな。カイの占い結果があれば、グレーの狼を補足できたのに。」
伊緒が、フンと鼻を鳴らした。
「それがお芝居に見える。二人で話し合ってカイ君を噛んだんでしょ?私は騙されないわよ。」
景清が、言った。
「伊緒さん、あんまり強く言うと君まで怪しくなるぞ。そもそも、君目線で確かに永嗣さんは偽だろうが、初日から怪しんでる尚斗さんはどっちか分かってないはずだろ?色が見えてるように見えるんだよ。必ず狼が居るグレーが全員尚斗さんを推してるのもおかしな話だ。それを聞いても君は意見を変える事もないだろう。昨日まではまだ、どっちも真の可能性があると思っていたが、今は君の方が怪しく見えて来たけどな。」
あゆみは、隣りの伊緒と目を合わせられなかった。
自分も、伊緒を怪しみ始めているのだ。
初日から、伊緒は一生懸命精査しているように見えたし、村人にしか見えていなかった。
まだ人外かもしれない、と自分に言って聞かせて、やっと自分が共有者だと明かさなかったぐらいだ。
その伊緒が、ここへ来て強硬な姿勢がどうにも黒く見えて来た。
だが、それを本人に言うのは気が退けた。
伊緒は、憤慨した顔をした。
「私は真狩人よ!確定白のあなたがそんな風じゃ、狼の思うツボよ?とにかく、今夜はグレーなんだから、せめて村人を最初に吊らないように、グレーの話をもっと聞くべきだわ。吊りきるからって、意見も聞かないのはおかしい。ここに狼が2人居るのなら、その人達の意見を参考にすれば役職の色だって透けて来るはずじゃないの?昌平さんのことも、一応カイ君には占われていないんだから精査対象にするべきだわ。話を聞きましょうよ。」
それは伊緒の言う通りだった。
いくら吊りきる予定だとしても、まず狼を吊りたい。
とはいえ、昌平まで吊りきると縄が足りなくなるかも知れない。
役職の決めうちを、一度も間違えられなくなるのだ。
「…となると、和美さんと一輝さんよね。」あゆみが思わず口を開くと、皆があゆみを見た。あゆみは続けた。「もし、和人さんが本当に狐だったなら、昨日の和人さんの遺言からも和美さんが真で一輝さんと和人さんで狐は落ちてることになるわよね。でも、一輝さんが真で和美さんが狐だった場合、昌平さんの色が分からなくなるのよ。その場合、グレーの昌平さんまで吊り切って霊媒と狩人から一人ずつ吊ることになるわ。役職を吊り間違えることは許されなくなる。最終日に間違えたら、終わりよ。ここで一縄でも何とか余裕を持たせたら、最悪間違えても狩人か霊媒師のどっちかを吊りきれる。そこが重要になってくるわ。」
佳純が、頷いた。
「確かに。霊媒師は生きてる限り結果は揃うはずだから、黒が二つ出た所でローラーを止めて役職精査に移れば、狩人と霊媒師の安治さんと尚斗さんを吊りきってゲームは終わるわ。悩む必要はないわよね。伊緒さんが言うように、グレーの精査をするべきじゃないかしら。」
それには、公一が言った。
「オレは村人だから、そうしてくれると助かるけど、そもそも仮に和美さんが偽だったら、昌平の色は重要なんじゃないのか?黒とは限らないだろう。狐だったら、黒を吊り切ってから昌平が残って狐勝ちとかになるんじゃないのか?村目線、ほんとに和人は狐だったと言えるのか?」
皆が、顔を見合わせた。
呪殺したわけではないし、本人が狐だと言って死んだのでもなかった。
ただ、自分は知ってる、と連呼して狩人と霊媒に狼が出てると繰り返し、死んだ。
果たしてそれが、本当に狐だったからなのだろうか。
思い込んでいただけの、村人だったら困ったことになる。
あゆみは、眉を寄せて険しい顔を師ながら、考え込んだ。




