社会実験
あなたは共有者です
仲間18
二列に渡ってそう、表示されていた。
…18…!私はこの人と二人で共有者なんだ!
そう思ったが、顔を上げることはできなかった。
そんなことでバレるかどうかは分からなかったが、なんだかバレそうな気がして仕方がなかったのだ。
ジッと画面を見つめ続けて1分、表示はスッと消えて画面はデジタル時計表示になった。
モニターの声が言った。
『役職を確認できたでしょうか。では、腕輪の機能をご説明致します。腕輪は、役職行使の他に、投票作業にもお使い頂きます。夜8時になりましたら案内音声が流れますので、それに従って投票したい番号を入力し、最後に0を三回入力してください。また、10時から11時までの間、共有者、妖狐は腕輪から通話することが可能になります。通話する相手の番号を入力してからエンターキーを押すと、繋がります。着信音がしたら、応答する場合はエンターキーを押してください。通話を終了する際にはもう一度エンターキーを押せば切れます。妖狐同士、共有者同士の通話以外はできません。また、10時から11時までの時間外は通話できません。時間を過ぎると勝手に通話は終了します。本日は、今午後5時となりましたが、10時にはお部屋に入るようにお願いします。お食事は、キッチンの冷蔵庫に多くご準備してありますので、お好きに摂ってください。毎日補充されますので、いくら飲み食いしていただいても構いません。では、これよりお部屋へ入って頂きまして、居室の確認をしてください。その後は自由行動となります。この度は、社会実験にご参加頂きまして、誠にありがとうございます。』
声は、一方的にそう言うと、フッツリと消えた。
モニターも、元の真っ暗な様子に戻っている。
怒涛の説明で頭の中が大混乱だったが、ここから仕事が始まるのだ。
明生が、言った。
「…ええっと、その、どうする?役職とかは明日でいいよな。共有者は進行係してほしいから、どうするのか夜のうちに話し合っておいてくれ。オレ、人狼ゲームってめちゃ好きだったんだ。でも社会人になってから、サークル作って細々やってたから、凄いワクワクするんだけど。」
和人が言った。
「え、マジで?オレ苦手だったんだよな。顔に出るからすぐ怪しまれて、吊られてさあ。」
カイが、ため息をついた。
「まあ、僕はどっちでも良いかな。これが仕事なんだし、言われたようにやるだけだよね。」と、立ち上がった。「じゃあ、部屋に行く?どんな部屋なのか気になるし。」
それには、和美が答えた。
「そうね。荷物を整理したいしね。でも、お腹も空いて来てるし、部屋の方が落ち着いたら、キッチンへ降りて来て何があるのか見てみたいわ。作らなきゃならなかったら、困るでしょ?ご飯も炊かなきゃならないかもしれないし。」
言われてみたらそうだ。
昌平が、言った。
「だったら、オレは飲食店でバイトしてたから何か作るよ。みんなで食べられるように。毎食は困るけど、今夜だけでも。誰か手伝ってくれたら助かるな。」
すると、元気が手を上げた。
「ハイハイ!オレも飲食で働いてた!中華料理作れるよ。材料があるかだけどね。」
公一が言った。
「オレは回転寿司屋でバイトしてたから巻き寿司ならいくらでも巻けるけどな。じゃあとにかく、昌平と元気とオレでやるか。」
三人は頷き合っている。
あゆみも、何か手伝った方がいいのかと、急いで言った。
「あの、雑用とかあったら何かお手伝いしますね。」
すると、両脇の伊緒も愛里も言った。
「あ、私達も。とにかく、早く部屋へ行って降りて来よう?もう五時だし、お米炊くなら時間かかるもんね。」
「うん、だったら急いだ方がいいもんね。」
そうして、皆それぞれの部屋へと向かって、リビングを出て行ったのだった。
豪華な王女様でも降りて来そうな絨毯敷きの階段を恐る恐る上がって行くと、部屋は二階に10室、三階に10室あるようだった。
上がってすぐの正面の扉二つには、金色のプレートが着いていて、そこには『3』と『4』と書かれてある。
階段上がって向かって右側端から1号室で、ずっと並んで6号室まであり、1号室の向かいには7号室、2号室の向かいには8号室となり、階段があってまた、5号室の向かいに9号室、6号室の向かいに10号室と配置されてあった。
あゆみは、伊緒に言った。
「伊緒ちゃん、隣りだ。愛里ちゃんは階段の向こうになるね。」
愛里は、ため息をついた。
「ほんと。じゃあ私はこっちに行くね。キッチンで待ち合わせよう。」
あゆみは頷いて、左に折れて自分の部屋へ足を向ける。
正面の5号室の、杏奈が言った。
「あゆみさん、伊緒さん、よろしくね。」
あゆみは、人見知りと言っていたので杏奈を気にしていたので、急いで頷いた。
「うん、杏奈さんも。後で杏奈さんもキッチンに来る?話しながらご飯作ろうよ。」
杏奈は、嬉しそうに微笑んだ。
「うん。後で降りて行くね。」
すると、4号室の景清の声が聴こえて来た。
「うわ、凄い!めちゃ豪華だぞ!」
え、豪華?
気になったあゆみは、自分の扉も開いてみた。
すると、中は絨毯が敷き詰められた、大きな洋室だった。
「…ほんとだ。凄い…。」
あゆみは、伊緒のことも忘れてその中へと足を進める。
向かって右側には扉があって、そこはユニットバスになっていた。
左側には大きなクローゼットが作り付けられてあり、いくらでも荷物が入りそうだ。
奥へと足を進めると、正面には高価そうなカーテンが掛けられた窓があって、その下にはテーブルと椅子が二つと、足置きのような低い台があった。
そして、右側の奥には大きな天蓋付きのベッドが置いてあり、どう見ても一人には大き過ぎる様子だった。
左側には、長い机と椅子があり、その机の上には、くるくると振り子が回る金時計と、『ルールブック』と書かれた冊子が置いてあった。
その他、元のホテルなどに設置されているような、メモとペンがセットになった物もあった。
机の下には、小型の冷蔵庫まであった。
「…わあ…こんな所に泊まれるなんて。」
あゆみは、思ってもいなかったことに、気持ちが高揚して来た。
働くつもりだったので、こんなに良い部屋に滞在するなど考えたこともなかったのだ。
…とにかく、急いでキッチンに行かなきゃ。
あゆみは思って持って来た旅行カバンをクローゼットに押し込むと、ルールブックもそのままに、部屋のトイレで用を済ませて、急いで階下へと駆け降りて行ったのだった。
それにしても、社会実験というからには、自分達がゲームをしながら生活する様を、誰かがどこかで観察しているのだろう。
あゆみは、ハッとした。
となると、つまりはどこかに監視カメラなどが設置されているのではないだろうか。
キッチンへと足を踏み入れながら、そんなことに今さらながらに気付いて呆然としていると、奥の正面の流し台で、もう何かを洗っている和美が振り返った。
「あら、あゆみちゃん、だったよね。早かったのね。」
あゆみは、ハッとして和美を見た。
「和美さんこそ。」と、歩み寄りながら、その手元を見た。ちょっと見たこともないほど大きな炊飯器の内釜の中に、米がこれでもかと入っていた。「うわ、すごい!お米炊くんですか?」
和美は、苦笑した。
「そうなのよ。業務用の炊飯器があったから、お米炊こうと思って。20人だから単純に20合を計って入れたけど、すごい量よね。今夜だけだから。何しろ、そっちの冷蔵庫の中に、めっちゃ冷凍食品あるの。作らなくても充分食べれるわよ。」
あゆみが言われて横を見ると、大きな業務用冷蔵庫が3台と、家庭用冷蔵庫が1台鎮座していた。
中を見ると、とにかく多くの食材と、温めるだけで食べられる食品が山のようにあった。
飲料専用の冷蔵庫もあり、そこには水とお茶だけでなく、様々な種類の清涼飲料があり、中にはアルコール類も完備していた。
「わあ…困らなさそう。」
あゆみが言うと、和美は頷く。
「でしょ?そっちの棚にはインスタント麺とか、レンジでご飯とかパンとかとにかく食べる物には事欠かないわ。ちょっと安心した感じ。」
コンビニみたいな感じなのだ。
家庭用冷蔵庫の中には、スイーツまであるのだ。
至れり尽くせりの様子に、リゾートをしに来たぐらいに思うほどだった。
「ああ、手伝ってくれる?これ、重いのよ。炊飯器に設置するから。」
あゆみは頷いて急いで手を貸すと、二人で炊飯器に大きな釜を設置して、そしてスイッチを入れたのだった。