誰が嘘をついているのか
永嗣は、尚斗を睨んで言った。
「…お前、昨日施錠ギリギリになってオレの所に来て言ったよな?恐らく霊媒が噛まれるから、カイを明日守るために今夜はお前を守れって景清が言ってるって。どういうことなんだ?」
皆の視線が鋭く尚斗を見ている。
尚斗は、震えながら答えた。
「…だって、カイが言ってたじゃないか。あいつを噛むより霊媒、しかも噛むならオレだろうって。和人の色を確定させたくないから。だから、怖くて仕方なくて…護衛成功が出たら言うつもりだった!安治さんも、霊媒師からなら尚斗だってわかってるから気が楽だとか言うし!」
猫又なら、噛まれてなんぼの役職なので、こんな発言はしないだろう。
それが一層、村にも狼にも、猫又ではないと広めているようなものだった。
だが、ここで分かったことがある。
永嗣が偽だとは、まだ決められないのだ。
「待って、じゃあカイ君は犠牲になったのに、狩人の偽物をあぶり出せなかったってこと?」
明生が、重苦しい顔で頷く。
「そうなるな。永嗣は景清からの指示だと思って尚斗を守っていた。カイには護衛が入るから霊媒だ、と狼がそちらに来ることを読んで、もう一日カイを守るためにもそう指示した、と永嗣が素直に従ってもおかしくはない。ただ、景清に確認しなかったのはおかしいがな。」
永嗣は、答えた。
「そもそもギリギリだったんだぞ?オレ達は同じ三階だから施錠時間に間に合ったが、そこから景清の部屋に行って話す時間なんかなかった。指示を無視しようかとも思ったが、尚斗が噛まれたらオレが怪しまれるだろう。だから、オレは指示に従ったんだ。オレは真だ、尚斗が怪しい!こいつが狼なんじゃないのか。オレを陥れて吊らせて、仲間を守ろうとしたんじゃ。」
尚斗は、必死に言った。
「オレが怪しいのは仕方ないよ!でも、本当に噛まれるのが怖かったんだ!和人は白だったよ…あいつはホントに狐だったのかも。」
安治が、言った。
「…まあ、オレから見たら霊媒の中で尚斗が噛み位置筆頭だと思っていたから、尚斗が真か狂人なら怖かったのは分かる。だが、実際こうなった。カイが噛みたいから、永嗣の護衛を外したようにも見える。カイは昨日、結果次第で霊媒から吊ってもと言っていただろう。ここは猫又を出して、それも含めて吊り先をみんなで決めよう。ちなみに和人は、白だった。」
しかし、伊緒が言った。
「カイ君が噛まれたのは、昨日私が護衛していて噛めなかったから、私の護衛が外れた昨日しかなかったからよ!永嗣さんと尚斗さんが、組んでやってるようにしか見えないわ!どちらにしろ、護衛指定されていた先が噛まれたんだから、永嗣さんから吊るべきよ!」
永嗣は、言った。
「オレから見たら、君が仲間に指示してそうさせたんだと見えてるけどな。昨日だって、佳純さんを噛んでいてみんながカイで護衛成功だからオレ吊りとか言い出すのを期待してたんじゃないのか。それがなかったから、こんなことを考えたんだろう。オレは真狩人だ!」
「待て。」景清が、ため息をついた。「昨日はカイは拓郎さんを占ってた。拓郎さんは死んでないから、狐ではないのは分かった。それだけだ。今夜は霊媒から吊る。とりあえず、元気、結果を教えてくれ。」
固まってやり取りを聞いていた元気は、ハッと景清を見た。
「白。和人は人狼ではないって。」
景清は、頷いた。
「もう、ここまで来たら言おう。猫又は、あゆみさんだ。だからあゆみさんの結果はない。みんな準備を早めに済ませてリビングに集まってくれ。解散。」
遂にCOか。
あゆみは、ホッとした顔をした。
これ以上、黙っていられないと思っていたところだったからだ。
伊緒が、驚いた顔をした。
「え、あゆみちゃん、猫又なの?」
あゆみは、頷いた。
「うん。ごめんね、結果は共有者から指示されてそれを言ってたんだ。もし他と違ったら、そこでCOするつもりで。」
伊緒は、息をついた。
「…そうか。でも、確定村人だもんね。良かったよ。」
何やらホッとしているようにも見える。
やはり伊緒も、信じていると言ってはいたが、あゆみが偽ならと不安があったのかも知れない。
皆が解散して行く中、あゆみもカイの部屋の前から、自分の部屋へと帰って行ったのだった。
和人が吊られ、カイが襲撃されたことによって、現在村には14人の人が残っていた。
必ず処理されたと思われる人外は二人、呪殺された一輝か和美の内の狐一人と、霊媒師から全員一致で黒と判定された愛里だけだ。
もしかしたら、恵令奈が狐か狂人だった可能性も、和人が狐か狂人だった可能性もあって、実際にはもっと人外が処理されているかもしれない。
だが、確定で居なくなったと見えているのは、まだ二人だけだった。
残った村人の中で、確定占い師だったカイの白先である、明生と重久の白は確定している。
景清は猫又、あゆみは共有者だ。
これは、村人達には入れ替えて伝えられてあった。
現在残っているのは、明生、景清、杏奈、昌平、あゆみ、伊緒、永嗣、元気、重久、尚斗、安治、佳純、公一、拓郎の14人で、偶数進行だ。
縄は後6つで、確定で処理された人外は2人なので、最悪のケースを考えると縄に余裕はなくなった。
仮に狐がまだ残っていたとしても、カイが居なくなった以上呪殺は起こらなくなり、吊るより他、なくなった。
唯一の希望は、永嗣と伊緒の中に真狩人が残っていることで、護衛成功を出してくれたら偶数進行の今、縄が増えることになるので、まだ吊り間違えても何とかなることぐらいだった。
霊媒師は元気と安治、それに尚斗の3人が残っていて、あゆみ目線ではここまであゆみが共有者であることを黙っている元気は外れていた。
恐らく、他の確定役職の景清と佳純目線でもそうだろうから、元気はこの3人からの票はもらわないだろう。
となると、尚斗と安治なのだが、圧倒的に尚斗が黒い。
噛まれ懸念は分かるが、狩人の護衛先指定を変えるなど、してはいけないことだった。
それがなくても、初日から落ち着いている安治と比べても、後から出たことを考えても、尚斗は分が悪かった。
…狐だったらしい和人さんは、昨日安治さんに入れている。
あゆみは、考えた。
狐目線で、何か分かったことがあったのだろうか。
一人最後まで霊媒ローラーを推していた和人だったが、最後に出たことで怪しいと言われていた尚斗には入れていないのだ。
あゆみは、ハッとした。
そう、和人は安治に入れている。
その理由を聞きたいところだが、和人はもう居なかった。
ここは、和人と仲が良かった昌平に聞くよりないかもしれない。
あゆみは、急いで頭に浮かんだ疑問を晴らすべく、リビングへと駆け降りて行った。
リビングには、明生と景清が居た。
他はまだ、準備をしているのかここには居ない。
明生が、言った。
「…あれ。あゆみさん、一人?」
景清も、あゆみを見て驚いている。
「何かあったのか?」
あゆみは、二人がどうしてそんなことを言うのかと思ったが、よく考えたら部屋でパンを食べただけで化粧もしていない。
服装も、夜に寝る時に着ているジャージだった。
思っていた以上に自分が動転していることにそれで気付いたあゆみだったが、もう今さら素っぴんを見られても、どうでも良かった。
なので、言った。
「着替えるの忘れてた。パンを食べてたら急に思い立って。あの、和人さんだけど。狐だったと思う?」
明生が、顔をしかめた。
「まあなあ、あの言い方だと。つまりは一輝が和美さんに呪殺された狐だったってことで、和美さんが真、昌平が白。残ったグレーは杏奈さん、公一、拓郎だけだからその辺りを精査しながら、今夜は霊媒だなって話してたとこ。縄は後6本だけど、だから後5人外ならまだ大丈夫かなってね。」
景清は、頷く。
「一輝と和人の狐二人と、愛里さんの狼一人。残りは狼4人と狂人だろうってね。狼が霊媒を噛んで狐を見つけてたって推理は消えるから、そうなるととりあえず恵令奈さんで狂人は落ちてそうだし、後は狼4人って考えたらちょっと楽かなって。まあ、最悪のケースは考えておこうとは思ってるけど。」
あゆみは、言った。
「それはまた後で考えるとして。和人さんが狐だとしたら、昨日の投票先なのよ。最後まで霊媒ローラーを推していた和人さんは、なぜか安治さんに入れてるわ。一番怪しまれていたのは、昨日まででも尚斗さんだったはずよ。なのに、安治さんなの。狐目線で、何か見えていたと思わない?」
それを聞いて、明生と景清は顔を見合わせた。
何か見えていた…?
「…言われてみたらそうだな。」明生は頷く。「どうして安治さんだったんだろう。狐目線、真霊媒を落としたかったってか?いや、もう狐目線じゃ霊媒は関係ないよな。敵は狼だろう。たった一人になった狐からしたら、狼勝ちを促すよりも、村人目線に立って狼を殲滅した方がいい。村人の方が圧倒的に多いからだ。ということは、狐から見て安治さんが偽だって分かるシチュエーションがあったのか…?」
景清は、顔をしかめた。
「どうだろう。オレ達からはわからないぞ。」
あゆみは、言った。
「だったら、昌平さんに聞いてみたら?」二人は、驚いた顔をする。あゆみは続けた。「だって、一番近くに居たのよ?昌平さんに話していたことがあるかもしれない。昌平さんは和美さんの白なんだし、話を聞くべきよ。それを知らせたくて。」
明生と景清は顔を見合わせていたが、一つ、頷いた。
「…分かった。」景清が言う。「聞いてみる。みんなの前の方がいいよな。会議で聞いてみよう。今夜の吊り先の良い判断材料になるかもしれない。」
明生は、横から言った。
「ありがとう、あゆみさん。とにかく着替えて来たらどうだ?まだみんな来てないし、大丈夫だぞ。」
あゆみは、言いたいことを言ってホッとしたからか、急にジャージが恥ずかしくなった。
なので、頷いた。
「うん。よろしくね。」
そうして、急いで誰にも会わないうちにと、リビングを飛び出して行った。
誰が狼なのか、もしかしたら分かるのかもしれない。
あゆみは期待に胸を膨らませていた。




