三日目の投票
「あれ。」カイが言った。「なんか微妙な空気だね。何かあった?」
佳純が、振り返って答えた。
「やっぱりグレー詰めがいいって話をしていたのよ。それで霊媒の内訳の話になって、安治さんがね。もし昨夜霊媒を噛んだなら、尚斗さんじゃないかって。だって、後から出てそれで霊媒は確定しなかったし、狼からも一番安心して噛める位置だったんじゃないかっていうの。その通りだなって思ってたところ。」
景清が、言った。
「ああ、カイもそれを言ってたんだよね。」皆が驚いた顔をする。景清は続けた。「狼が霊媒を噛んで狐だと思ったとしたら、そこしかないって。だって、猫又は怖いじゃないか。だからだよ。でも、それはいい。とにかく今夜は、やっぱりグレー詰めにすることにしたよ。範囲はさっき言った通り、和人さん、公一、拓郎さんから。そこから吊って、そこから占う。その後はその後の盤面から考える。」
カイは、頷く。
「霊媒師の精査はできると僕は思ってるよ。結果が同じでも、投票で分かることも多いからね。特に昨日の投票とか。だから、今夜はグレー詰めだ。まあ、ここはもうインスピレーションだよね。確実に人外を落として行こうよ。」
カイは明るく言うが、あゆみは気が重かった。
黒を吊れたら良いが、白だったらと思うと心が締め付けられるようだ。
だが、やらなければならないのだ。
昼の会議は平行線のまま、和人はまだ霊媒吊りを推していた。
とはいえ、これ以上方針を変えるつもりもないので、そのまま進むことになったが、他のグレーはもう、あきらめていた。
そんな中で終わった昼の会議だったので、もう夜の会議は行われず、投票前に集まることになった。
和人はまだあきらめていなかったが、足掻けば足掻くほど、怪しくなることを本人だけがわかって居ないようだった。
そんな中での投票は、やはり和人が圧倒的に票を集めることになってしまった。
1明生→3
2カイ→20
3和人→17
4景清→3
5杏奈→3
6昌平→20
9あゆみ→3
10伊緒→3
11永嗣→3
12元気→3
14重久→3
15尚斗→3
17安治→3
18佳純→3
19公一→3
20拓郎→3
カイは拓郎に入れていたが、他は全て和人に入れていた。
『No.3は、追放されます。』
和人は、目を見開いた。
そして叫んだ。
「…オレは、白だ!」そして、皆を睨むように見た。「狼は居る!霊媒師と狩人に!狩人には狂人と狼が出てる!オレは知ってる!分かったか、霊媒師と狩人に、狼は必ず居るからな!絶対に狼を…!」
和人は叫んで、そのまま目を開いたままカックリとソファにそっくり返った。
『No.3は追放されました。夜時間に備えてください。』
…どういうこと…?
あゆみは、和人の叫びに困惑した。
知ってるってなに…?狩人に狂人と狼って…?
「…カイ、なんで拓郎に入れた?昌平もだ。」
景清が聞く。
カイは、答えた。
「ここまで目立つ行動をするのは、狼ではあり得ない。段々に村の心象が悪くなるのに、それでも霊媒吊りを推していた。狼なら本人が気付かなくても、仲間が教えるでしょ?だから狼ではあり得ないと思った。でも、和人さんは知ってたんだね。狩人には狂人と狼が出てて、霊媒には狼が居るって。つまり、和人さん目線では、狐が騙ってないのを知ってたんだよね。和人さんは、最後に村に情報を落としたんだ。狼への恨みじゃない?つまり、和人さんは狐だ。和美さんが真占い師で、一輝さんが和人さんを囲ってた。そう考えたら合点が行くよね。だから和美さんの白の昌平さんは白。グレーは今、拓郎さん、公一さん、杏奈さんだけになったよ。この内二人が狼だ。もう、僕が居なくても縄は足りるんじゃないかな?明日は、霊媒からでいいと思うよ。結果次第だけど…狼は、噛みたい先が増えたねぇ。もういつか吊られるグレーの狼を庇って僕を噛むより、和人さんが嘘を言ってないと証明できる霊媒しか噛めなくなったよ?それでも尚斗さんを噛まなかったら、尚斗さん吊りで良いんじゃない?だって、お昼に話したように、一番噛みやすい位置だからさあ。猫又を噛んでくれたら良いねぇ。フフ。」
カイは、暗い笑みを浮かべた。
あゆみは、自分が村人なのに背筋が寒くなった。
昌平も、息をついた。
「オレも同じ。あんなに目立つ動きをする人外なんか、居るとは思えない。オレは仲良くしていたし…和人ではないと思った。だが、あの発言…狐だったから、あいつは白く見えたのか?だから仲間が欲しくて、オレに寄って来てたのかな。」
和人が狼で村を混乱させるためにそう言ったのか、それとも狐で村に情報を落としたのか。
全ては明日の霊媒結果にかかっていた。
…狂人だったら?
あゆみは思ったが、運ばれて行く和人を見つめて、何も言えなかった。
その日の護衛は、霊媒に入れるべきなのかと考えたものの、噛まれたら噛まれたで良いという事になって、朝言ったように伊緒が佳純、永嗣がカイを守るという事になった。
狩人はやはり、どちらかが偽なので、それがもし伊緒だったらと考えたら落ち着かない。
だが、もし伊緒が狼なら、昨日さっさとカイを噛んだのではないだろうか。
あゆみは、そう思って落ち着く事にした。
その夜も、きっちり10時になって、腕輪が着信した。
『あゆみちゃん?』
あゆみは、佳純の声を聞いてホッと息をついた。
「佳純ちゃん。明日は、白結果でいい?」
佳純は、頷いたようだった。
『うん。景清さんもカイ君も、白って言ったらいいって言ってた。ただ、まだ分からないけどね。カイ君は狼をけん制するためにああ言ったけど、実際のところ狂人だった可能性もあるからって。でも、狂人があんなに霊媒師吊りを推すかって言うと疑問だし、そもそも狼だったら一輝さんはどちらにしろ狐だから、和美さん真は変わらないしって。明日はだから、とりあえず白って言ってみて。他と違ったら景清さんが、あゆみちゃんを猫又だって言うからって。』
裏で、話し合いはできているようだった。
あゆみは、見えないのを分かっていて頷いた。
「分かった。どちらにしろ、明日出ることになりそうだけどね。どうする?なんか、もう勝てそうな気がして来たね。」
そういうあゆみに、佳純は言った。
『…そうだね。だと、いいけど。』
あゆみは、その声色に少し、不安になった。
縄は足りてるはずなのに…?
「…縄、足りてない?何か不安があるの?」
佳純は、答えた。
『ううん、なんだかね。このまま終わるのかなって、上手く行き過ぎてる気がして。大丈夫なのかな…?大丈夫よね、きっと。』
上手く行き過ぎている…。
あゆみは、途端に不安になって来たが、そんなことは頭の隅に追いやって、前向きなことばかりを佳純に話して、自分の不安を消そうと頑張ったのだった。
次の日の朝、前日よりはよく眠れたあゆみは、淡々と顔を洗って、その時を待った。
金時計が6時を指した途端、ガツンという音と共に、扉が開いて外へと出ることができた。
目の前の扉から、昨日と同じように昌平と杏奈が出て来るのが見える。
黙って隣りを見ると、伊緒があゆみを見て、頷いた。
「大丈夫。今日も生きていたわ。」と、廊下の向こうを見た。「みんな生きてる?」
昨日吊られた和人は3号室だったので昨日から居らず、居るのは景清、明生、カイのはずだった。
だが、居たのは明生、景清の二人だけだった。
「…カイ。」景清が、言って走って行った。「明生、カイか?」
明生は、隣りのカイの部屋の扉を、声を掛けずにガバッと開くと、駆け込んで行った。
「カイ!」姿は入り口からは見えないが、声がする。「…ダメだ。カイは襲撃された。」
皆が、暗い顔をした。
わかっていたことだったような気がする…ということは、永嗣が偽なのだ。
シンと静まり返って皆が黙っていると、三階からワラワラと人が降りて来た。
景清が、それを振り返って、言った。
「カイが襲撃された。」
さぞかし永嗣がバツの悪そうな顔をするかと思ったが、永嗣は普通に言った。
「だろうな。だから尚斗に護衛を変えるとか、やめた方が良いと思ったのに。どうして尚斗にしたんだ?」
え、と皆が驚いた顔をして景清を見た。
景清は、険しい顔で言った。
「何のことだ?昨日オレが指示したのは、カイだったろう。変えてなんかない。」
永嗣は、驚いた顔で尚斗を見る。
尚斗は、小刻みに震えて最後尾に立っていた。




