三日目の朝に
あゆみは、全く眠れなかった。
うとうととしては目を覚ますを繰り返して、完全に寝不足のまま、気が付くと扉の前に立っていた。
目の下にはクマができていたが、もうそんなことは気にならなかった。
とにかく、佳純の無事だけを、願ってその時を待った。
ガツン、と閂が抜けた音がする。
あゆみは、部屋を飛び出した。
目の前の部屋から、杏奈と昌平が出て来ている。
杏奈とは目を合わせられなくて、ふと隣を見ると、伊緒が出て来てこちらを見ていた。
あゆみは、ホッとした顔をした。
「…伊緒ちゃん。無事だったのね。」
伊緒は、微笑んで頷いた。
「私は大丈夫。」と、他の人達を廊下の向こうに見た。「そっちは大丈夫?」
カイが、答えた。
「大丈夫だよ。景清さんも明生も和人も居る。」
ということは、狼は景清を噛まなかったのだ。
まさか、やっぱり佳純ちゃん…?!
あゆみは、駆け出した。
「三階だわ!行こう!」
いきなり走り出したあゆみに驚いた顔をした昌平と伊緒と杏奈だったが、急いでそれに従って追って来る。
カイ達も来ているだろうが、あゆみはそんなことは構わずに、急いで階段を駆け上がった。
三階に上がると、元気が驚いた顔をした。
「うわ、びっくりした!どうしたの、こっちはみんな出て来てるけど。」
見ると、三階の廊下には、昨日生き残っていた永嗣、元気、重久、尚斗、安治、公一、拓郎、そして佳純が立っていた。
「佳純ちゃん!」あゆみは、叫んで駆けよった。「良かった…もしかしたらって、心配した。二階も、誰も犠牲になってないの。」
佳純は、驚いた顔をした。
「え、ってことは護衛成功?それとも狐噛み?」
後から上がって来た、カイが顔をしかめて言った。
「多分、護衛成功じゃない?僕か佳純さんを噛んだんだよ、きっと。で、相手が真狩人なのか確かめたんじゃない?偽なら噛めるし、吊れるからさ。僕はそう思うな。」
チャレンジ噛みしてきたのか。
あゆみは、思った。
狼は、今残っている狩人が、真かそうでないか確かめたのだと思われた。
景清が、言った。
「今日からはオレが進行するな。で、カイ、占い結果は?」
カイは、答えた。
「重久さん白。白狙いだよ。」
景清は、頷く。
そして、霊媒師達を見回した。
「じゃあ、霊媒師達、昨日の愛里さんの結果を言ってもらうぞ?3、2、1、はい!」
「「「「黒。」」」」
多少のばらつきはあったが、全員の声が一致した。
愛里ちゃんは狼だったのか…!
あゆみは、自分で言っておきながらそう思った。
一応、黒のはずはないのだと思いたかったので、控えめに言ったのだが、全員の声が揃ったので驚いたのだ。
景清は、満足げに頷いた。
「よし。これで1狐1狼確定で処理できたぞ。もし狼がカイと佳純さん以外を噛んでたら教えて欲しいが、まあ、言わないだろうな。だったら今日は、引き続きグレーを詰めよう。残り16人、7縄で最大6人外残りで縄にはまだ余裕がある。今夜の護衛先は、永嗣さんがカイ、伊緒さんが佳純さんだ。じゃあ、やること済ませてリビングに集まってくれ。グレーは必ず話してもらうから、言いたいことはまとめておいてくれ。解散。」
景清は、テキパキと指示を出した。
もう、いつかは襲撃されるのだと覚悟した景清には、何も怖いものなどないのかもしれない。
あゆみがハアとため息をつくと、佳純が言った。
「あゆみちゃん、大丈夫?酷い顔よ。めちゃクマが出てるわ。眠れなかったの?」
あゆみは、頷いた。
「だって、共有だもの。噛まれるんじゃないかってハラハラして。でも良かった、無事でいて。今日からは景清さんが進行してくれるから、佳純ちゃんは少し休んで。」
佳純は、微笑んで頷いた。
「大丈夫だって言ったのに。とにかく早く準備して、会議に行きましょう。早く話せば早く終わるし、御昼寝するべきよ。疲れたら頭もまともに働かないわ。ね?部屋に帰って。」
あゆみは、頷いて階段を振り返った。
すると、伊緒と杏奈がこちらを見て待っていた。
杏奈ちゃん…。
あゆみは、途端にまた心が重くなったが、表向き平気な顔をして、そちらへ歩いて行った。
伊緒が、言った。
「佳純ちゃんと仲良しだもんね。私も昨日、永嗣さんが捨て身で噛むかもと思ってたけど、大丈夫だったみたいで良かった。カイ君を、どうしても噛みたかったのね。私が真かとうか見たかったんだろうけど、あいにく私は真狩人なのよ。」
あゆみは、頷く。
「護衛成功出してまで噛みたい先ってカイ君のように私も思う。だから、伊緒ちゃんを信じてるよ。とにかく部屋に帰ろう?話し合いがあるし。」
杏奈が、二人が上がり出したのを見て、一緒に上がり始めた。
「…あの…私、気にしてないよ?」え、とあゆみが足を止めると、杏奈は苦笑して続けた。「二人とも私に入れたでしょ?でも、仕方ないなって思った。だって、愛里ちゃんと仲良しだったから。私は後から仲間に入れてもらったもんね。」
あゆみは、答えに窮していると、伊緒が言った。
「うん。ごめんね、杏奈ちゃん。でも、愛里ちゃんが黒だったから。友達だからって贔屓したらダメだなって思ったよ。でも…今夜もグレー詰めだから、杏奈ちゃんもまた精査されるよね?昨日愛里ちゃんに入れてるし、そこはもしかしたら評価されるかも。でも…それしかなかったって判断されるかもだけど。発言、頑張ってね。私はこれからも、もし杏奈ちゃんが怪しいと思ったら投票すると思う。きっと、それはお互い様だよね。」
お互い様…。
言われてみたら、そうなのだ。
伊緒も、もしこのまま相手が破綻しなかったら最後に決め打ちになるだろう。
その時、怪しかったら杏奈も伊緒に投票しる可能性がある。
そういうことなのだ。
あゆみは、言った。
「…そうだね、お互い様だね。私も霊媒師の決め打ちが来たら投票されるかもだし。お互い、頑張ろう。」
杏奈は頷いて、そしてそのまま三人はそれぞれの部屋へと向かって行ったのだった。
景清はとてもサクサクと話すタイプの人だった。
あゆみが出て進行役をするよりも、余程頼りになる。
景清が、共有を騙ってくれて、良かったとあゆみは思っていた。
佳純も、昨日までよりずっと楽そうな様子だ。
ずっと気を張っていて、疲れてしまっていたのだろうとあゆみは頼り切っていたことを反省した。
全員が集まったところで、景清は言った。
「今日は、引き続きグレー詰めだ。昨日の結果は重久白で、カイのグレーは和人、杏奈さん、昌平、公一、拓郎さんの5人。霊媒結果は全員黒で一致していることから、愛里さんは黒確定。そのことから、昨日愛里さんに入れていないグレー、和人、公一、拓郎さんの3人から今夜は投票してもらう。この中に、必ず人外は居ると思っている。もちろん、間違っただけの村人も居るだろうけど、それを精査するために意見を聞きたい。じゃあ、和人から何でも良いから思うことを話して欲しい。」
和人は、答えた。
「オレは狩人の精査も霊媒の精査も進めるべきだと思ってる。例えば昨日の護衛成功にしても、佳純さんを噛むとは思えないし、噛まれたとしたらカイだろう。だとしたら、カイを守っていた伊緒さんが真で、それを確かめてあわよくばカイを噛んでしまおうとした狼が永嗣さんだとオレは思う。グレーはカイが生きてる限り詰められるんだし、狩人を吊って良いんじゃないのか?」
景清が、言った。
「それはオレも思ったことだが、今夜永嗣さんを吊ったとして真だったらカイが噛まれることになるぞ?仮に偽でも、伊緒さんは連続護衛できないから、カイは襲撃される。ここは狩人は残す進行しかない。カイを守るためには、まだ狩人は吊れない。」
和人は、言った。
「じゃあ霊媒は?霊媒に出てるのが猫又だから、噛ませようと残してるんだろうが、そろそろきちんと精査した方が良いだろう。縄に余裕がある時でないと、吊れないんだからな。猫又を出して、狼に一人噛ませて残った二人から精査したらどうだ?出てるのが狐だったら、最後に決め打ちなんて言ってられないぞ。もし狼が昨日噛んだのが、霊媒の狐だったらどうするんだよ。」
景清は、ため息をついた。
「つまり君は、役職を精査するべきだと言うんだな?グレーはいつでも吊れると。」
和人は、頷いた。
「そうだ。人外が露出しているのに、グレーの白を吊って縄を無駄にするよりも、グレーはカイに白圧迫させて霊媒か狩人から詰めた方が縄が無駄にならないと思ってるんだ。今完全グレーは5人だが、この中に多くて2狼1狐なんだろ?霊媒か狩人に狐が出てたら3狼。グレーの狐はカイの占いで消えるから、霊媒や狩人の狐対策でそこから先に吊るべきだとオレは思ってる。」
間違っていないかもしれない。
あゆみは、聞いているうちにそう思った。
グレーに居る狐は、恐らくカイの占いでそのうちに消えるが、もし役職に居たら消えないのだ。
決め打ちをミスるとヤバい。
景清は、顔をしかめた。
「…まあ、その意見は一応聞いておくよ。次、公一。」
公一は、言った。
「…まあ、グレー詰めが安牌だとオレは思ってたんだが、今の意見を聞いて確かになと思った。というのも、今回昌平さんと杏奈さんを外してるけど、仮にここに狼が居て、オレ達の中に狼が居たら、狼は仲間には入れないだろうから村人に票が集まるだろう。オレは村人だから、それで吊られて白だったと言われて、ハイそうですかとは言えないよな。カイに占ってもらってたら、吊られなかった村人なんだからさ。だったら、必ず人外が居る役職からってのも、分かる気がした。何しろ昨日の投票は真っ二つで、オレは杏奈さんも狼だったんじゃないかって思った。愛里さんが白だったら杏奈さんも白だったかなと思ったけど、昨日カイが言ってただろ?投票が偏ったらそっちが村人で、残りが狼だけど、分かれたら両方村人か両方狼だって。両方狼だったとしたら、投票はあてにならないぞ。杏奈さんは、仲間でも必ず相手に入れるしかなかったんだからな。」
それも分かる。
あゆみは、顔をしかめた。
何しろ自分だって昨日は愛里に入れておらず、杏奈に入れているのだ。
伊緒もそうだったが、永嗣もそうだった。
景清は、息をついた。
「…言われてみたらそうかもな。とりあえず、次、拓郎さん。」
拓郎は、口を開いた。




