ゲーム
その声は、続けた。
『皆様には、決められた時間軸で生活して頂きます。ここでお話しすることは、お部屋に置いてあるルールブックに全て書いてありますので、後で必ず確認しておいてください。まず、朝は6時にお部屋の扉が解錠され、外へ出ることができます。そのまま自由時間になり、夜8時になりましたら、ここに集まって全員で本日追放する相手に投票していただきます。そして、夜10時になりましたらお部屋の鍵が施錠されますので、それまでに戻っておくようにしてください。時間を守らない方は、ルール違反で追放となります。では、お仕事の内容のご説明を致しましょう。皆様には、ここで人狼ゲームをして頂きます。』
あゆみは、え、と目を丸くする。
人狼ゲーム…そういえば、高校生の頃に何度かやったことがある。
だが、ここのところはやっていなかった。
『人狼ゲームを知らない方のために、ご説明を致します。人狼ゲームとは、村に紛れ込んだ人狼を、毎日の会議で一人ずつ追放して、全ての人狼を排除できれば村人の勝ち、上手く村人を騙し通して生き残った人狼が、村人の数と同数になった時点で人狼の勝ちになるゲームです。村人は、毎日の会議で怪しい人を一人、追放することができます。そして、人狼は、夜の時間に誰か一人を襲撃して排除することができます。今回はここに、妖狐という役職の人も加わり、妖狐の勝利条件は、ゲームが終了した時点で生き残っていることになります。村、狼、狐の三つの陣営で、リアルな時間帯で戦って頂きます。そして、その様子を観察させて頂くのが、私達の目的です。』
皆が黙って見ていると、画面にパッと文字が表示された。
『この村には、20人居ます。その内、人狼は5人、狂人は1人、占い師2人、霊媒師2人、共有者2人、猫又1人、村人4人、妖狐2人が居ます。それぞれの役職は、これから説明致します。』
画面が切り替わる。
人狼の説明だった。
『人狼は、夜の間に一人の人を襲撃することができます。人狼は、夜11時になりましたら、部屋の外へと出ることができますので、全員で話し合って、誰を襲撃するのか決めた後、腕輪のカバーを開くとある、テンキーを使ってその人の番号を入力し、最後に0を三つ入力してください。腕輪の液晶画面に、襲撃先が受領されました、と表示されたら、その夜の襲撃先は決定になります。エラー表示が出ましたら、もう一度最初からやり直してください。今夜は襲撃はできませんが、外へ出ることができますので、話し合って明日からの対応を決めてください。』
皆が、腕輪と言われた腕時計を見た。
銀色の箱のようなところに触れてみると、確かに蓋のようになっていて、パカと開いた。
そこには、小さな液晶画面と小さなテンキーが並んで存在していた。
声は、続けた。
『狂人は、人狼陣営で占い師に占われたら結果は白と出ます。狼の勝利に貢献するのが役目です。狼陣営となりますので、狼が勝利した時、勝利となります。特に行使できる能力はありません。』
皆が、黙ってウンウンと頷く。
声は構わず続ける。
『次に、占い師です。占い師は、村人陣営の役職で、一晩に一人の人を占うことができ、その人が人狼か人狼ではないのか知ることができます。役職行使は夜10時から11時までの間にすることができます。占いたい相手の番号を腕輪のテンキーで入力し、最後に0を三回入力してください。液晶画面に、結果が表示されます。表示は、11時には消えますので、確認を忘れないようにしてください。最初の夜、つまり今夜から役職行使はできますが、今夜はこちらから一方的に、白である人の番号を腕輪に送信します。今夜、10時から11時までの間に、画面を確認するのを忘れないようにしてください。』
今夜からもう、結果が出るんだ。
あゆみは、思って聞いていた。
『次に、霊媒師です。霊媒師は、村人陣営です。前日に追放された人が人狼か人狼でないかを知ることができます。夜10時から11時までの間に、腕輪の液晶画面に結果が表示されますので、確認を忘れないようにしてください。』
声は、淡々と続ける。
画面の表示は、狩人に変わった。
『狩人です。狩人は、村陣営の役職で、夜に自分以外の誰かを一人、人狼の襲撃から守ることができます。10時から11時までの間に腕輪のテンキーから守りたい人の番号を入力し、最後に0を三つ入力してください。連続して同じ人を守る事はできませんので、初日に1を守ると、次の日は1を選択することはできません。次の日に例えば2を守れば、またその次の日には1を守る事ができます。』
連続護衛ナシ…。
あゆみは、それを必死に聞いていた。
ルールを聞いておかないと、皆の足を引っ張る事にもなりかねないからだ。
表示が切り替わる。
『次は、猫又です。村陣営の役職で、昼間に追放されたらランダムで誰か一人を道連れにしてしまいます。次の日、道連れになった人も追放されて離脱することになります。夜に襲撃された場合、人狼を一人道連れにします。』
猫又は潜伏するのが一番良いよね。
あゆみは、段々思い出して来てそれを聞いていた。
『次は、共有者です。共有者は、お互いに白、つまり村陣営だと知っている役職です。それ以外に特別な能力はありません。役職確認の時には、お互いの番号も表示されますので、見逃さないようにしてください。』
表示が、妖狐に変わった。
声は続けた。
『最後に、妖狐です。妖狐は、生き残るのが勝利の条件です。妖狐は狼に襲撃されても追放されることがありません。が、占い師に占われると、呪殺されて追放されてしまいます。つまり、妖狐を排除するためには、占い師に占わせるか、追放するよりありません。妖狐に当たった方は、なんとかそれをかいくぐり、生き残る術を探してください。』
全部の役職の説明が終わった。
モニターの画面が切り替わり、次はサラリーの表示になった。
『次に、皆様のお給料、報酬の事についてご説明致します。』
皆が、顔を上げる。
明らかにこれまでより興味を持って聞いているようだ。
声は続けた。
『まず、それぞれに日当10万円を確約しております。が、社会実験に参加している間を勤務時間とし、ゲームから離脱した方はその時点からお給料は発生しません。別室に移って頂くので、追放された方にはそれ以降、報酬は加算されません。一番始めに追放された方、つまりは明日の夜に投票で追放された方は、本日と明日の二日間だけの報酬となり、20万円となります。ですので、余裕をもって10日間のお時間を戴いておりますが、仮にゲームが早く終了した場合には、ゲーム日数×10万円の報酬となりますのでご了承ください。ちなみに、勝利陣営には1000万円の賞金が出ますので、それを陣営の方々で分け合って頂くことができます。勝利を目指して、頑張ってください。但し、何らかのルール違反をして追放された場合には、実験の妨害行為としてそれまで獲得していた報酬は没収されます。お部屋に帰られた後、しっかりとルールブックを読み返して、ルール違反をしないようにお気をつけください。』
勝ったら賞金まであるんだ…!
あゆみは、胸を踊らせた。
それなら、仮に自分が死んでも自分の陣営さえ勝てば、まだ報酬はたくさんもらえる可能性がある。
あゆみは、もう一度海外留学したかったのだ。
二回生の時に一度、親に頼み込んで一ヶ月オーストラリアへ向かったが、それだけでは足りなかった。
もう一度、今度は三ヶ月行きたいと親に言ってみたものの、弟も今年大学に入学したし、学費だけでもカツカツなので、とても無理だと言われてしまった。
なので、あゆみはなんとかそのための資金を調達するためにこれに参加したのだ。
ちなみに弟は、今年の4月に国立大に入った。
そこそこの私立大学に入った姉が、それでなくても多くの金を使っているので、弟は最初から国立大しか受けていなかった。
これ以上の我が儘は、言えない立場のあゆみは、親には年末年始は帰って来るように言われていたのに、断ってこれに参加したのだ。
なんとしても、自分で大金を稼いで帰りたかった。
モニターが切り替わった。
『では、役職配布を致します。』画面には
役職配布・人狼5、狂人1、占い師2、霊媒師2、共有者2、狩人1、猫又1、村人4、妖狐2
と書かれてある。
『今から一分間、腕輪の液晶画面に役職が表示されます。その際、人狼、妖狐、共有者の方々には仲間の番号も表示されます。覚えておいてください。それでは、どうぞ。』
あゆみは、急いで腕輪を手で包んで見えないようにした。
皆も、同じようにしているのがわかる。
液晶画面には、パッと文字と数字が表示された。