夕方
恋バナの間に、カレーは無事に完成した。
大きな炊飯器には、大量の米が炊かれてある。
午後6時を過ぎて来ると、男性達も次々にキッチンへとやって来て、カレーをよそっては食べ始めていた。
ケーキを4時頃に食べてしまったあゆみは、それほどお腹が空いてはいなかったが、男性達が大量に食べるのを見ていると、なくなりそうで慌てて少し、皿に入れて確保しておくことにした。
チビチビと食べていると、カイがそれを見て言った。
「あれ?少食だね、こんなにおいしいのに。」
そういうカイは、お代わりまでしたらしい。
あゆみは、苦笑した。
「ケーキ食べちゃったから、あんまり入らないの。カイ君は、細いのにめっちゃ食べるね。意外だな。」
カイは、答えた。
「日本の料理はマジで何食べてもおいしいの。僕、もっと早く帰国してたら良かったって思ったもん。あっちじゃ油が合わないみたいで、さっぱりしたものしか食べられなかったのに、こっちに帰って来たらトンカツさえも軽いんだー。もう、食べ物だけで永住しようと思ってる。」
マジか。
確かにあちらの料理は高カロリーだし、米はあってもパサパサだから、あゆみもパンばかりで食べた気がしなかったものだった。
お肉が信じられないほど安いので、もっぱら肉ばかりを貪っていた気がする。
和美が、笑った。
「確かに日本は食はバラエティー豊かだって聞いたことあるわ。うちの子もめっちゃ食べるから、体は結構大きな方かな。まだ伸びるんだろうけど。じゃあ明日は、頑張って唐揚げ作ろうかな。」
すると、座っていた重久が勢い良く振り返った。
「マジか!唐揚げ食いたい!」
カイは驚いている。
和美は、苦笑した。
「じゃあ、頑張るわ。でも、鶏肉そんなにあったかな。ちょっと解凍しとこう。」
そう言うと、和美は業務用冷凍庫を開けて中を確認し始めた。
明生が言った。
「また全員分となると和美さんも大変だろう?オレは残ったらでいいよ。そもそも冷凍食品たくさんあるんだから、誰かがみんなの飯を作る必要ないんだからな。重久さんも、食いたいなら手伝ってあげた方がいいぞ。」
重久は、顔をしかめた。
「いつも一人だから外食かコンビニ飯だからさあ。できることあったら手伝うけど。」
和美は、大きな袋に入った大量のコチコチの板のような鶏肉を手に、振り返った。
「良いのよ、気にしないで。私はじっとしていられない方だからね。とりあえず、3キロほどあったからこれを解凍しておくわ。これでもし足りなかったら、他の物を食べて。」
3キロの鶏肉を揚げるのかあ。
あゆみは、途方もないことに気が遠くなりそうだったが、昌平が言った。
「オレも手伝うよ。今日はクリスマスだから、一日遅れで明日鶏肉も悪くないし。」
言われてみたらそうだった。
愛里が、顔をしかめた。
「貴重なクリスマスイブとクリスマスを、バイトで潰してるんだものね。良いんじゃない?私も手伝う!」
杏奈が言う。
「じゃあ、私はケーキでも焼こうかな。材料、見てみたらあるみたいだし。趣味でね、いつも焼くんだ。実家でもここへ来る前に焼いて来たのよ。クリスマスイブはいつも、私が焼くの。」
あゆみは、杏奈を見た。
「え、レシピ覚えてるの?」
杏奈は、頷いた。
「だって毎年だよ?任せて。」
カイが喜んで手を叩いた。
「凄い凄い!明日はパーティーだね!」
とはいえ、数人は居なくなっているだろう。
多分、別の部屋に移動しているはずだ。
今夜追放になるだろう恵令奈と、夜の襲撃先、それに呪殺も発生するかも知れない…。
しかし、その事については誰も何も言わずに、明るい雰囲気で夕食の席は終わったのだった。
そうして食事も終わり、佳純が指定していた7時にソファへと集まった。
恵令奈もいつの間にか現れて、黙ってソファに座っていたのには、あゆみは驚いた。
よく考えたら、恵令奈は食事にも来ていなかった。
呼びに行ってあげたら良かったのだろうか、とあゆみは少し、後悔した。
だが、こんな状態では、呼びに行ったところで恵令奈はキッチンに来なかっただろう。
それぐらい、気配を消して黙って座っていたのだ。
佳純もそれに気付いたようだったが、それには言及せずに、皆を見回して言った。
「今夜は、狩人から投票してもらう事にして、じゃあ占い指定先を先に言うわね。」皆が、佳純を見る。佳純は続けた。「もう、誰が誰って考えるのが面倒だったので、後ろから順番に指定することにしたわ。つまり、13番の和美さんは7番の一輝さん、一輝さんは4番の景清さん、景清さんは2番のカイ君。で、カイ君は和美さんってことで。これでそれぞれの色を見てもらう事にするわ。黒が出ても呪殺が出ても、精査が進むでしょうし。」
それには公一が、言った。
「そんな適当でいいのか?カイが真に一番近いんだし、狐っぽい所へ振り分けた方が良かったんじゃ。和美さんってしっかり発言してたから、狐っぽく感じなかったんだけどなあ。」
すると、隣りの拓郎が言った。
「じゃあお前、占い師の中で誰が一番狐っぽいと思ったんだ?オレには全く分からなかったけど。」
公一は、それにはバツが悪そうな顔をした。
「え?まあ…確かにそうだけど。」
佳純は、息をついた。
「分かってる。きちんと理由をつけて決めて欲しかったってことでしょ?でもね、私も分からないのよ。だから、今夜はこれで様子を見るしかないなって思って。結局悩んだって仕方がないの、正解なんて明日にならなきゃ分からないんだから。狩人の護衛先は、投票が終わってからするわね。」
昌平が、言った。
「でも、この腕輪で投票するんだよな?ええっと、10、11、16のうちどれかを入れて、0を三つ。」
カイが頷いた。
「そう言ってたね。でも、追放ってどうなるんだろう。決まったら別の所へ連れて行かれるのかな?そっちの方が食事が良かったりしてね。」
景清が、苦笑した。
「カイは食い物ばっかだな。そういえば、オレ達の部屋は二階だけど、三階の奴らは分かるか?そこから上もあるんだよな。行けそうだったか?」
それには、拓郎が答えた。
「ああ、階段はあるんだけど、バリケードみたいな金属の扉が立ってて、入れない感じだった。全く気配もしないし、誰も居ないんじゃないかな。」
明生が言った。
「ここへ来た時建物見上げたら、5階まであったよな。オレ達の雇い主、5階にでも居るんだろうか。」
あゆみは、驚いた。
「え、そうなんだ。上を見てなかった。」
明生は、あゆみを見て頷いた。
「そうなんだよ。デカいなあって見上げたからな。」
カイは、言った。
「じゃあ、追放になったらそこへ行くんじゃない?部屋がめっちゃ狭かったら嫌だなあ。僕占い師だから、遅かれ早かれ行く事になりそうだしさあ。」
あゆみは、頷いた。
自分も、そのうちにそこへ行く事になりそうだからだ。
快適だったらいいなあ、とあゆみは思っていた。
恵令奈が、ぽつりと言った。
「…まあ、どうせみんな私に入れるんでしょ?」え、と皆がいきなりに話した恵令奈を見ると、恵令奈は続けた。「仕方ないわ。先に行って楽して眺めてる事にする。でも、勝ってよね。私は世界一周クルーズに行きたいのよ。毎日毎日同じ事をしてて、もう疲れて来ちゃって。仕事を辞めて、何か月かクルーズで羽根を伸ばしてから、また新しい職場を探そうかなって思ってここへ来たの。貯金はあるけど、良い部屋を取ろうと思ったそこそこお金が要るから、足しにしようと思ったのよね。もうねえ…彼氏とも別れちゃったし、一度リセットしたいのよ。」
失恋したのか。
あゆみは、恵令奈に同情した。
みんな、それぞれ事情があるのだ。
とはいえ、貯金があるならそこまでお金に困っているわけでもないようだし、あゆみの感情的には和美の方が応援したい気持ちになるので、今夜はやっぱり恵令奈に吊られてもらって、村人なら勝って賞金を分け合おう、と言いたかった。
時間は、そんな中でも過ぎて行っていた。