お昼の雑談にて
「え…」と、一輝は、和人を見た。「え、狂人?狂人なのか?だって狩人に狂人が出てるとか言ってなかったか?」
思い当たらなかったのか。
あゆみは、それを見て少し、緊張していた心を緩めた。
確かに、COしている中に人外がどう出ているのか話していて、その内訳ではないかという意見があった。
それを聞いたカイは、表情を残念そうに変えて、息をついた。
「…だね。内訳考えたら確かに白先は白にしか見えないよね。ただ、僕はまだ狐だって出ている可能性は捨ててないよ。人外がどう動くのかなんて、こっちにはわからないからね。だから、自分の白でも一応疑った方がいいよ。狂人潜伏も普通にあり得る盤面だから。占いが怖いから、狐だって両方出てる可能性はあるんだ。ちなみに囲ってる可能性はもう、みんな普通に考えてるから、今夜はそれぞれの指定先にそれぞれの白先が入るだろうとは思ってる。でもそれで呪殺が出なかったら、狐が役職に居て、狂人は誰かに囲われてる可能性も追っておいた方がいいよ。つまり、自分の白先でも慎重にしなきゃって事さ。もし一輝さんが僕の相方なら、そこんとこしっかりして欲しいかな。」
一輝は、黙って頷く。
和人は、言った。
「オレは狂人じゃない。だが、確かにオレは明生ほどこのゲームに詳しくないから、頼りなく見えるだろうけどな。」
カイは、苦笑した。
「気を悪くしたならごめんね。でも占い師ってしっかりしなきゃならないからさ。僕だって、一晩に一人しか占えないんだから、もう一人には頑張って欲しいんだよ。僕だけに頼られても限りがあるしね。」
人数多いもんなあ。
あゆみは、ウンウンと頷きながらそれを聞いていた。
すると、うんざりした顔をした、佳純がキッチンから出て来た。
「もう、人多すぎ!冷凍食品って解凍に一人7分ぐらい掛かるから、なかなか回って来ないの。もう自然解凍できるんじゃないかって思うほどよ。」と、何やら深刻な顔をしている面々に気付いた。「あら?何か話してたの?ゲームのこと?」
カイが、答えた。
「僕だけに頼られても困るなあってこと。真占い師だったら頑張れって鼓舞?した感じ。鼓舞であってる?encourage、cheer?」
全員が、顔をしかめる。
あゆみが、必死に頭の中を検索して頷いた。
「…うん。合ってると思う。難しい単語はわからないけど、それぐらいなら私にも分かるよ。」
すると、カイは急に英語に切り替えた。
『ホントに?確か国際文化学部だったよね?助かるなあ、僕、マジでいまいち言葉のニュアンスわからないの。キツくなってたら教えてくれる?』
怒涛のネイティブ英語だったが、あゆみは単語を聞き取って頷いた。
『うん。でも、今も言ったように私も英語のニュアンスわからないから間違ってたらごめんね。』
凄く久しぶりの英語だ。
我ながらたどたどしくなってしまった。
カイは、それを聞いて日本語に戻した。
「…うん。分かった。」
何か他に言いたそうな感じだったが、カイはそれしか言わなかった。
多分、あゆみの拙い英語を聞いて、思ったほどこちらが英語を分かってないのを気取ったのだろう。
あゆみが恥ずかしくなっていると、佳純が言った。
「なに?カイ君はなんて?」
あゆみは、答えた。
「あの…ニュアンスとかわからないからキツくなってたら教えて欲しいと言われたけど、私は1ヶ月しか留学してないし。まだ拙いから…こっちも英語のニュアンスわからないからって答えたの。」
カイは、言った。
「でも、訛りはあるけどきちんと通じるよ。おかしな英語じゃなかったし。」
フォローしてくれているのは分かるが、あゆみは落ち込んだ。
分かっているからこそ、卒業前に絶対にもう一度留学して、本場の英語を鍛え直しておきたいのだ。
それに気付いたのか、伊緒が、言った。
「凄いよ。何言ってるのか私には分からなかったもの。まして答えるのなんて、絶対難しいもん。訛りなんてあって当然じゃない。私達には訛りのある英語すら話せないからね。」
愛里も、頷いた。
「そうだよね。私なんか日本から出るつもりないから、全然英語を話すつもりなんかないんだよね。すごいと思う!」
慰められれば慰められるほど、何やら惨めな気持ちになる。
カイが、あまりに二人が庇うので、少し眉を寄せて言った。
「…でも、君達って中学生の時からずっと英語習ってるんだよね?文法めっちゃ違うから、勉強しにくいのは分かるけど、でも全く分からないってどういうこと?大学でもやるんじゃなかった?合計結構な年数勉強してるよね。」
あまりに直球の意見で、皆が黙り込む。
するとそこへ、明生がキッチンから出て、入って来た。
「…あれ。」明生は、眉を寄せた。「どうした?なんか空気が悪いな。オレの気のせいか?」
だが、黙って聞いていた一輝が振り返って言った。
「いや、その…英語がちょっと問題で。」
明生は、少し目を丸くしたが、フッと笑った。
「カイが何か言ったのか?仕方ないって、こいつはあっち育ちだから、意見はハッキリ言うんだよ。空気読むとか、そういうのあっちには無いからな。」
え、と佳純が言った。
「明生さんって外国人の事よく知ってるの?」
明生は、ソファに座りながら、頷く。
「オレは海外には行ったことはないが、回りがそんな奴らばっかの所で働いてるから知ってるんだよ。だからカイがあっちで育ったと聞いた時、生粋の日本人たちとは少し、齟齬が生じるだろうなとは思ってた。でも悪気はないんだ。で、何を言った、カイ?」
カイは、わざとだろうが英語で答えた。
『だから、みんな中学生の時から大学まで英語やってるのに、話せないのは仕方ないにしても、全く分からないってどういうことだろうって思った。だから聞いたんだけど、みんな黙るんだ。』
明生は、ため息をついた。
『日本の勉強の仕方が海外とは違うのと、文法が壊滅的に違うからだとオレは思うぞ。そもそも、話すことから始めたらいいのに、最初から筆記ばっかで進めるからみんな面倒になるんだ。オレだって、回りが英語ばっか話すから勝手に覚えただけで、学生時代は全くだったしな。みんなを責めるんじゃない。』
明生の英語は、かなりネイティブっぽく聞こえた。
カイは、明生に言った。
『別に責めてないよ。つまり、嫌いになるんだね、お勉強から始めるから。理由が知りたかっただけだよ。なのに誰も答えてくれないから。』
明生は、苦笑した。
『責めてるように聴こえたから、黙ったんだと思うぞ。向こうならガンガン言い返して来るんだろうが、こっちの文化は争いを避けるからな。人狼ゲームは議論のゲームだから返して来るだろうが、そこから離れた雑談の場では気を付けた方がいいぞ。変に敵を作るな。』
カイは、黙る。
皆は、チンプンカンプンだったが、あゆみには聞き取れていた。
伊達に頑張ってリスニングをしていたわけではないのだ。
和人が、言った。
「明生さんも英語ができるんだな。まあ、回りが外国人ばっかだったらそうなるか。」
明生は、言った。
「今も話したけど、カイに悪気はないんだよ。向こうは平気でそういうの聞いて来るから、カイもそれに倣って言っただけ。文化が違うと教えておいたぞ。カイは、別にみんなを批判してるんじゃなくて、純粋に分からなかったから聞いただけなんだ。勉強のさせ方が悪いって事を伝えておいた。それが知りたかっただけなんだって。君達も、ああ文化が違うと理解して、カイ自身を責めるんじゃないぞ。論理的に考えて、怪しい所を怪しむんだ。でないと勝てない。カイがこんな風だからって、ここに人外が居たらそれを利用して吊らせようとか考えるかもしれないしな。まだ分からないが、変にそれで疑って人外に利用されたくない。オレは勝ちたいし、先に言っておくけどな。」
あゆみは、それを聞いて確かに、と思った。
つい、あれだけ身になる意見を落としていたカイを、今の話で少し、嫌な印象を受けてしまった。
だが、それに惑わされて人外に利用されたら真占い師だった時に面倒な事になる。
あゆみは、感情や感覚で、真役職を決めてしまってはいけない、と自分に言い聞かせた。
という事は、伊緒が友達だからと真狩人だと信じる事も危険だし、尚斗が後からCOしたからと最初から疑うのも危険な行為なのだ。
きちんと話を聞いて精査しよう。
あゆみは、気持ちを新たにしていた。