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03:今宵の君は虹色に染まる

R18乙女ゲームのストーリーを説明する回です。

直接的な描写は控えていますが、苦手な方はご注意下さい。

 夢と現の狭間で見た、前世の記憶は20歳くらいまでしかない。病気か事故か分からないが年をとる前に死んでしまったのだと思う。安全な国で便利で快適な暮らしをしていた。前世の私は美味しいご飯より、気持ちいい布団より、ゲームやマンガと呼ばれる娯楽を楽しみに生活していたようだった。

 その中でも繰り返し繰り返し楽しんでいたのが乙女ゲームと言われるものだ。その記憶の中に「フィリーアローゼ」というデフォルト名の「悪役令嬢」が主人公の物語を見つけた時、思わず叫び声を上げたのは致し方ないことだろう。愛しい娘の未来を思って、私はひとりベッドの中で泣き続けた。


 私が好きだったゲームのひとつ。「今宵の君は虹色に染まる」はR18の乙女ゲームだった。

 舞台は中世ヨーロッパ風なのに現代文化がちりばめられた都合のいいゆる設定の異世界。公爵令嬢のフィリーアローゼが長年の婚約者であるフリューゲル王太子から婚約解消を告げられる所からはじまる。婚約者がありながら伯爵令嬢と恋に落ちた王太子は一方的にフィリーアローゼに婚約解消を迫るのだ。

 王太子の要望をあっさり受け入れたフィリーアローゼは国の中枢を担う貴族たちから不義と叛意を疑われて、人里離れた王家所有の古城に囚われることになる。王太子妃になるための教育を受けてきたフィリーアローゼの知識を王室の外に出すのはマズいと判断されての事だ。


 森の古城で生活をはじめたフィリーアローゼは7人の男性と出会う。護衛のラル、執事のギル、庭師のジル、料理人のハル、小間使いのメル、吟遊詩人のユル、郵便配達人のゲル……この7人が攻略対象である。

 不義と叛意を疑われている囚われの令嬢だということと、王太子の真実の愛を邪魔し続けた令嬢だと王都でうわさになっていることから、7人は最初、フィリーアローゼを警戒して距離を置いて接していた。しかし、日々の生活の中で彼女の人となりを知るうちに、だんだん心を許すようになっていく。


 からかい半分でかけられていたちょっかいが、本気で口説こうとする触れ合いにかわるのに時間はかからない。季節のイベントとからめて、攻略対象と無自覚にいちゃいちゃしつつ、フィリーアローゼは婚約解消のショックから立ち直っていく。

 古城の修繕をしたり、辺境の民の食生活を改善したり、祭を開催したり、森の精霊の困りごとを解決したり、隣国の第一王子が患った「真実の愛症候群」を治したりするイベントを乗り越えて、次第に攻略対象達との心の距離は縮まり、そのうち何人かはフィリーアローゼを愛し始める。だんだん遠慮がなくなっていく攻略対象たちとの触れ合いに翻弄され戸惑うフィリーアローゼだが、心を通わせつつある者に求められ拒否しきれない。かろうじて、最後の一線は守りつつ、物語の後半の攻略対象者が絞られた頃ともなれば、むしろ本番以外のことは何でもOKと言わんばかりの絡みっぷりだ。

 さすがR指定ゲームと納得の濡れ場の数々を通り抜け、やっぱり私〇〇が好きっと気持ちが通い合ったタイミングで、王城から「王太子が真実の愛症候群を乗り越えた」と連絡がくる。引き止め「共に逃げよう」と誘う男をふりきって、フィリーアローゼは家族の為に王城に帰る。そして迎えた王太子との結婚式。誓いの言葉を遮ったのは……

 ハッピーエンドなら「ちょっとまったー」と愛しい人が迎えに来る。2人で手を取り合って式場から逃げ、行き着いた先で結ばれる。バッドエンドだと、結婚式に乱入した伯爵令嬢に刺されて意識を失ったり、想い人以外の人が迎えに来て他国に連れ去られたり、7人が迎えに来て共有財産にされるというのもあったかな。(ファンの間ではハーレムエンドがバッドエンドに含まれるというゲーム設定に賛否両論あったけれど。)

 エンディング間際で、護衛のラルは隣国の第3王子、執事のギルは王弟、庭師のジルは帝国の皇太子、料理人のハルは世界を股にかける大商会の経営者、小間使いのメルは精霊王、吟遊詩人のユルは吸血鬼の末裔、郵便配達人のゲルは婚約解消したはずの王太子という攻略対象の正体も明らかになり、選ばれた攻略対象はフィリーアローゼに不遇を強いた国への仕返しも完璧にこなす。ざまぁでスッキリ、いちゃラブでムフフで前世の私の心の栄養だった。


 ゲームを楽しんでいる時はセクハラまがいの触れ合いも、行き過ぎた愛情表現も、ちりばめられたラブシーンもごっつぁんですといただいていたが、いざ自分の娘がアレの餌食になると思ったらゲーム機を壊してもまだ足りない。前世の自分はゲームだからねと納得しているが、今世の私が「ふしだらよっ!」と怒り狂っている。美しく成長した娘の行き先がいかがわしい古城で、そのさらに先には一癖も二癖もある性癖の夫が待っているだなんて不憫すぎる。

 さらにハッピーエンドでも、最後の国への仕返しの際、国を乗っ取ったり、滅ぼしたりする攻略対象もいる。そんなのハッピーエンドじゃない。リアルに生きているこの世界で戦争とか嫌だ。絶対ダメだ。


 戦争や紛争が起こらないのは精霊王ルート、吸血鬼の末裔ルート、王太子ルートの3つ。この中から娘が歩む道を選ぶなら王太子ルートがいい。当時の私はそう思った。嫁ぎ先は国内だし。人だし。彼だけはどノーマルだし。人外ルートはエンディングが重い。娘が人外の餌食になると思ったら……以下同文。

 

 ゲームと違ってリアルに生きているこの世界では攻略対象以外にも男はわんさかいる。フィリーアローゼにはゲームに関係ない人とのお付き合いを全力で勧めるべきだろう。あのR18ゲームの(破廉恥な)ストーリーに巻き込まれないようにフィリーアローゼを守るしかない。前世の記憶が蘇っても、私はあの子の母のロゼリンダなのだから。


……と涙の末にそう決意を固めた。

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