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流星の落とし物  作者: 二次元の逃亡者
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第一話 会合

「ハァ、ハァ」


 暗闇の中、女達は走っていた。

 その腕にはまだ生まれたばかりであろう赤子を抱いて。


「……大丈夫、大丈夫だからね」


 その背後からは、大柄な男が迫ってきている。

 足を止めれば殺される。

 

「出口はどこ……?」


 走り出してから、どれだけ経ったかわからない。

 わかるのは、数十人はいたであろうヒトが、もう三組しかいないということ。


「もう……ダメ……走れない……」

「頑張って!出口はきっとあるはずよ!」

「……もう足が動かないの!」


 男が笑いながら迫ってくる。


「次はどんな風に殺してあげようかしら♡

 絞殺?撲殺?それとも毒殺?

 あぁ、たまらないわ♡」


「……ごめん、エマ」

「待って!置いていかないで!」


 足が止まったものは置いていく。

 かばったものもいたが、そういったものはすぐ死んでいった。

 助けたくないわけではない。

 むしろ助けてあげたい。

 しかし、それでは我が子を守れない。

 苦渋の決断を何度も続け、残ったものはついに二組になってしまった。


「おい!あれを見ろ!」


 目の前に見えたのは微かな光。


「出口だ!」


 彼女たちは、希望に向かって走り出す。

 残された力を振り絞り、傷だらけの足を回転させる。

 もうすぐ出られるすんでのところで、


「嘘だろ……?」


 眼下に広がる景色を見た彼女たちはみるみるうちに青ざめる。


「空の上なの……?」


 あたり一面に広がるのは本来頭上にあるはずの雲海であった。


「うふふ♡そうなのよ♡

 ここは地上よりはるか上にあるジャイアントホール♡

 ここから出るなんて始めから不可能なのよ♡」


 血まみれになった男がすでにそこまで迫っていた。

 ひんやりとした風がほほをなでる。

 体が徐々に青ざめる。

 ここから脱出するなどとうてい……


「アタシは!いくよ!」


 一人の女は飛び降りた。

 どれだけの高さがあるかわからない空へと。


「あらあらあら!

 あの子すごいわねぇ♡

 この高さから落ちたらまず助からないでしょうに♡

 母は強しってやつぅ!

 ……で、あなたはどうするの?」

「私は……」


 足がすくむ。

 ―ここにいても殺される。

 頭は行くなと叫んでいる。

 ―ほかに道はない。

 確実に死ぬ。

 ―覚悟を決めろ。


 その時だった。

 いつか聞いたおとぎ話。

 願いを叶えてくれる赤い流星。

 それが天に流れていた。


 彼女は願った。


「どうかこの子が健やかな優しい子に育ちますように」


 次の瞬間、その身を空に投げ出した。


―――――――――――――――――――――――――


「また、この夢か……」


 ベットから飛び降り体を伸ばす。


「最近こればっかりだなぁ」


 このごろずっと同じ夢を見る。

 何かの前触れのようにも感じたが、何かが変わった気配もない。

 あたりを見渡すと、いかにも目に悪い白い部屋が広がっている。


「現実もずっとこれだけどね」


 ものごころがついたときから僕はずっとこの部屋で暮らしている。

 決まった時間に食事を食べて、

 決まった時間に運動して、

 決まった時間に寝る。

 ずっとその繰り返し。


 たまに黒い服を着た人たちが検査と称して部屋の外に連れて行ってはくれるけど、

 そこも結局真っ白。

 いつもモノクロの世界だったから、夢が飛び切り新鮮だった。

 本の中だけでしか見られない色とりどりの世界。

 それをこの目で見てみたいとは思うけど、いつまでたってもそれがかなうことはなかった。


「001、出ろ」


 ジョンに呼ばれて我に返る。

 彼は僕の育ての親だ。

 身寄りのない僕を引き取って、ここまで育ててくれた。

 ジョンはとても怖い。逆らうと半殺しにされて放置される。

 そういえば、今日は検査の日だったな。

 身支度を整え、外に出る。

 変化のない日常が変わることを祈りながら。





「ここに座って待ってろ」


 腰を下ろし、ため息をつく。


「結局、いつもの毎日だなぁ」


 代り映えのない白い部屋、何人かの黒服が検査の準備をしている。

 そんな中、扉が開く。

 僕は目を疑った。

 年は僕と同じくらいだろうか。5人の少年少女がそこにいた。

 その中でひと際目立つのは綺麗な金髪の青い瞳の女の子。

 

「ねぇ!あの子達は誰!?」

「あいつは今回の検査の被検体だ」


 被検体?いままでの検査でそんなものいたことはなかった。

 新しいことが起きそうな予感に胸を膨らませ、質問を重ねる。


「名前はなんていうの?」

「知るか」


 さえぎられてしまった。

 こうなったら直接あの子に聞くしかない。


「ねぇ、君!なま

「おい!ふざけてんのか!」


 再び僕の質問を遮ったのはジョンだった。

 しかも、大声で。

 びっくりするなぁ。


「こいつが誰の娘か知って、攫ってきたのか!」

「え……?誰なんすか……?」

「ベツレヘムの英雄!アレックスだよ!」


 その瞬間、特大の爆発音が鳴り響く。


「嘘だろ!野郎もう来やがった!

 てめぇら!ずらかるぞ!」

「そんな!もう少しで完成するのに!」


 なんだかわからないが、この日常から抜け出せそうな予感だ。

 何が起きるんだろう。


「001!ついてこい!

 ガキ!てめぇらも来るんだよ!」

「キャアッ!やめて!」


 ……彼女は嫌がっている。

 ヒトが嫌がることはしちゃいけない。

 でも、ジョンに危害を与えるようなことがあってはならない。

 いったいどうすれば。


「お願い!誰か助けて!」




      「どうかこの子が健やかな優しい子に育ちますように」




 その瞬間、僕の体は動いていた。

 周りの黒服を吹き飛ばし、啞然としているジョンの鳩尾(みぞおち)に蹴りを叩き込む。

 苦しんでいるジョンを横目に彼女の手をとり駆け出した。

 不思議な感覚だ。

 今まで、一回だけ外の世界を見たいと駄々をこねてから折檻されて以来、

 二度も逆らうような真似はしなかった。

 だけど、彼女の悲痛な叫びを聞いたら、ジョンのことを忘れて、彼女のために駆け出していた。

 初めて会った、名前も知らない一人の女の子のために。


「大丈夫!君は僕が助ける!」

「……うん!」


「おい!待ちやがれ001!くそっ!

 追え!お前ら!絶対あいつを外にだすな!」


 まずい。

 逃げ出したはいいものの、この先の道がどうなっているかわからない。

 このままじゃ捕まってしまう。

 そういえば、この子の父親がきてるって……

 再び爆発音が聞こえる。

 今度はさっきより近い。

 だったら、


「爆発が聞こえるほうに走っていこう!

 君のお父さんに会えるかもしれない!」

「……わかった!」


 必死になりながら足を回す。

 だんだん爆発音も近づいてくる。

 しかし、黒服たちも追ってくる。

 どちらと先に接触するかで僕たちの運命が変わる。

 

 追いつかれないように、初めて見た道を勘だけで突き進む。

 時折、挟み撃ちを仕掛けてくる黒服を吹き飛ばしながら、ひたすらに。

 しかし、


「捕まえたぞ!」


 どうやら、運命は味方をしてくれないらしい。

 袋小路に入ってしまい、振り返ると今まで見たことがない数の黒服に囲まれる。

 おびえる彼女の手を強く握った。


「てめぇ……よくも親に手を挙げたな……」


 ジョンが近づいて、すごんでくる。


「半殺しじゃ済まねぇぞ。」


 衝突を覚悟したその時だった。


「おいおい?ガキに手をあげるなんて頭狂ってんのか?」


 その言葉と同時にジョンは黒服たちのほうへと吹き飛ばされる。

 後ろを振り向くと、そこにはカウボーイの恰好をした男がいた。

 壁をぶち抜いて。


「「「「アレックスさん!」」」」 

「大丈夫か?メア?お前ら?」

「うん!来てくれるって信じてた!パパ!」

「へー。メアって名前なんだ。やっと聞けた。」

「……誰だこいつ?」

「私をここまで連れてきてくれたの。名前は……」

「001だよ。よろしく」

「……ああ。よろしくな。

 さて、ここから逃げるぞ。

 001。お前もついてこい」

「……わかった」


 パパかぁ。いいなぁ。

 

 アレックスはとても強かった。

 彼には左腕がなく、この量の黒服を切り抜けられるか心配だったが杞憂であった。

 押し寄せてくる黒服たちを腰にぶら下げている拳銃でぶちのめしたかと思ったら、

 その腕を振るって衝撃波繰り出して通路を崩し妨害する。

 何も心配することはなかった。

 あとはここから出るだけ。


 しかし、良いのだろうか。

 ジョンの許可を得ずに外へ出てしまっても。

 あれだけのことをしてしまっても、ジョンは育ての親だ。

 そうやすやすと彼のことを裏切れない。

 そんなことを考えていると、アレックスが爆発で開けたであろう脱出口についた。

 次々に外へと出ていく彼らを見ながら立ち止まる。


「どうした。早く来いよ」

「……僕はものごころついた時からここにいてね。

 ずっとこの中で過ごしていたんだ。

 外に出ることはジョンが許してくれなくってさ。

 僕は、彼に許可をもらわなきゃ何もできないんだ。

 あなたたちに会えたことはとても楽しかったけどね。

 だから、ここでお別れだよ」

「そうか……なぁ」

「ねぇ!001君はどうしたいの!」

「え?」

「さっき、あの人に何も言われなかったけど、私のこと助けてくれたよね」

「それは……」

「あの人の許しなんてなくてもいいんだよ!

 私も、お父さんも、みんなも誰かに命令されて、生きているわけじゃないの!

 君も思うままに生きていいの!」

「僕は……」

「フッ。さすが俺の娘……。もう一度聞くぞ。お前はどうしたいんだ」

「僕は……!」


「001!待ちやがれ!外に出る許可なんてだしてねぇぞ!」


 ジョンが黒服と共にやってくる。

 この機会を逃したら、僕は二度と外の世界を目にすることはないだろう。

 そして、本当の家族について知る機会も……、

 僕は決断した。


「ジョン。今まで、僕の親でいてくれてありがとう。

 でもね、僕は自分の本当の家族について知りたいんだ。

 だから」

「馬鹿な事いうな!戻れ!」

「いってきます。ジョン」


 そうして、僕は外の世界へ飛び出した。

 自分のルーツを知るために。



「……本国に通達しろ。アレックスの襲撃により001が逃げ出した。

 情報漏洩を防ぐために、執行人の派遣を要請すると


 何としても完成させねばならんのだ。原初の民のレプリカを」






「ねぇ、001……001って呼びづらいよ。

 ほかの呼び方ないの?」

「その名前でしか呼ばれたことしかないからなぁ」

「んー、じゃあ、初めて外の世界にでてさ、何が一番気になった?」

「……空かな」

「そうなんだぁ。じゃあ、君の名前はソラに決定!」

「決まってしまった」

「国に帰るまでの間だけど、よろしくね!ソラ!」





 僕はソラ。これは僕の生まれた理由を見つける物語だ。

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