魔のもの
騎士団長とアレクサンダー王子が検分しています。
「これは…魔のものの仕業ですね。」
「魔のものとは?」
「悪い感情の吹き溜まりに発生する怪異です。
際限なく人を食います。早急に退治しなければ。」
「ポリーが危ない!急げ!!!」
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「ポリー…お腹が空いた…食いたい…く、食いたい…ポリーを食いたい!」
「お母さん、やめて!」
ポリーのお母さんは大人3人分くらいに大きくなっていました。
耳まで裂けた口には鋭い牙が無数に並んでいます。
ポリーは無我夢中で駆けだすとお母さんは四つん這いになってウゾゾゾゾと追ってきました。
ポリーが木の根に躓いて倒れこんだところにお母さんだったモノが追いつき、ヨダレを垂らしながら大口を開けました。
そのままポリーににじり寄った時、
「く、臭ッ!!!」
魔のものはポリーの腰に結びつけた臭い草の束に鼻先を近づけてしまい一瞬だけ怯んだのです。
ザシュッ!
空気を切り裂く音がしたかと思うと魔のものの頭部がごろりと地面に転がりました。
騎士団長の剣が魔のものの首を見事に打ち落としたのです。
「ポリー、大丈夫かい?」
「ア、アレク〜怖かったよぅ!お母さんが、お母さんが…」
「お母さんは魔のものに取り込まれていたようだ…
でもポリーが無事でよかった。
お母さんもポリーを傷つけたくはなかったはずだ。」
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アレクサンダー王子は騎士団とともに茫然自失のポリーを連れて王城に戻りました。
魔のものの屍骸は騎士団の練兵場に運びこまれて検分されることになりました。
研究者が腹を裂いたところ金髪青目の美女が生きたまま出てきました。
気を失っていましたがポリーのお母さんでした。
お母さんは少し若くなっていました。
相談の結果、騎士団長のおうちで静養させることになりました。
1週間が過ぎ、お母さんは意識を取り戻しましたが森の中の一軒家での生活をすべて忘れてしまっていました。
拐われる前の状態に戻ってしまったようです。
研究者によると大盗賊団の頭に対する悪い感情が魔のものとして顕現した可能性が高く、それが退治されたと同時に悪い感情の素となった記憶が消えてしまったのだろうということです。