朝五時
前編
自分ってなんだろう。頭の片隅にずっといる、ような感覚だ。おそらくこれはマイナス要素のようなものだ。忘れては思い出し、忘れては思い出しを繰り返していたが、ある時を境に頭の片隅に残ってしまった。
周りの目から私はどう見られているのだろう。
今の私に確証たる何かがない。他人と違う所は理解できるのだが、自分の長所がわからない。それを長所と捉えるのは傲慢だと思うからだろうか。きっと本音と建前のせいだな、そんなものはこの世から消し去ったほうがよい。
他人は変わっていくのに、恐怖から変われない。他人と同じだったらなんて
思うこともあるけれどそれもなにか違う気がする。
私はこの先生きていけるのだろうか。
…
違った。
「ああ、死んでたんだ。私」ーーーーーーーーー
朝5時の光は1日の始まりを伝えると共に、苦い記憶を呼び起こす。
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私は、大学生で20歳だった。近くのコンビニのバイト先で付き合っていた彼がいた。彼は2つ年上の大学の先輩で冷静沈着だが、不意に見せたその笑顔に私の心を動かした。
私を刺した一言は
「山田さんって笑うと猫みたいで好き」
だった。おそらく猫がどうとかって話なんかより、彼から見た「私」を真顔で言われたから惚れたのだと思う。
それから、私たちは付き合うことになった。
その三日後彼は自殺した。
その悲しみから私も自殺した。
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私はなぜか、成仏できなかった、そして、何故かあっちの世界には飛ぶことが出来るのに、この部屋からも出ることができなかった
霊になった初めの頃は普通の暮らしをしている人間に嫉妬し、この部屋に移住してくる住人住人を苦しめることを生業とするようになった。
そしていつの間にか、この部屋は幽霊物件扱いにされていた。
あの頃は人間を見る度に後悔と、あの人への悲しみ、そして、…いつの間にかわけも分からず悪行に勤しんでいた。
人間界からは腫れ物扱いされ、幾度も除霊を施してくれるも、何故か成仏できなかった。
その時現れたのがこやつだ。
私はこやつを恐怖に導いていても、この部屋で衣食住を成していてく、その精神に驚いた。
怖いものがない人というとのを初めて目の当たりしたのだ。