02 【人】だった頃の財宝
教会を出ると、母、シーラがいた。
その頃にはニヤニヤも納まり、いつものジンになっていた。
「ミーナ、前世は【賢者】、前前世は【聖騎士】なんだって」
ミーナはみんなに褒められた事が嬉しく、母にも告げた。
母はちょっと苦い顔をしたが、ミーナを褒めた。
【賢者】、【聖騎士】は戦場に出る事が多く、ミーナが心配になったのだ。
「ミーナ、凄いね、家の中では出世頭だわ」
ミーナは満面の笑顔になっていた。
「それで、ジンはどうだったの?」
「【芋虫】と【人】だったよ」
「そう、それは残念だったわね」
7男なので、手に職を持つ事が出来ればいい。と、言う感じだ。これが、長男だと真剣に悩むのだが、7男にもなると、あっさりとしたもんだ。
ジンは10歳になる迄に、あらゆる努力をして来た。3歳から体を鍛え始め、5歳迄に大賢者の魔法を全て制御出来るようになり、7歳からは本を書き始めた。
これを10歳迄に行った。努力が身に付くのは10歳迄と知っているからだ、年々、歳を重ねる毎に、身に付くのが遅くなる事を知っているのだ。
そして、過去の記憶も段々と薄くなり、ついには記憶が無くなる為、本に書き記す必要があった。
【大賢者】とは、【賢者】の指導者である。超上級魔法の使い手でもあり、1人の【大賢者】で、1国を滅ぼすと言われている。国の貴重な財産でもある。
ジンの【人】とは異世界転生者の人であり、地球の日本から、この世界に来たのだ。地球では、おもにシステムエンジニアの仕事をし、74歳に老衰、この異世界にやって来た。
【大賢者】の能力と地球の記憶でさまざまな職に就き。アイデアと開発で、巨万の富を築き。1国の王にまで上り詰めた。
ジンの【芋虫】とは、生まれ変わった時、芋虫(亜種)であったが、【大賢者】の能力と【人】の器用さで進化し続け、最終的にはエンシェントドラゴンロードになり、ドラゴンの長として君臨していた。
家に帰った所、俺はいつものポーカーフェイスだ。
ミーナは凄い? 凄い? とみんなに自慢して、はしゃいでいた。
母は俺の事をみんなに言ったのか、兄弟に慰めの言葉で励まされた。
父は騎士で、小さな村の領主であり、貴族と言う事になっている。
11歳の時、俺は家から出て行く事になった。12歳で成人の儀が行われるが、成人の儀を行えば、領地を分け与えなければならず。どこの貴族でも11歳になると、4男以降の男は、放り出されるのだ。
4男、5男、6男は既に放り出されていて、今、どこで何をしているのかも分からない。
俺は、放り出されるとき、餞別を拒否した。家の為に使って下さいと言って、家を出たのだ。
今、向かうのは、ラステリア王国の廃墟の洞窟だ。
その洞窟には【人】の時に稼いだ、巨万の富が隠されている。
洞窟は俺しか開かないように細工が施され、10カ国の合言葉とエンシェントドラゴンロードの魔力で開くようになっている。
ラステリア王国迄、縮地を練習がてら行い。途中出会った魔物は魔法で仕留め、それを解体、料理をして食事をする。
家から、ラステリア王国迄は2週間の行程だが、1週間で辿り着く事が出来た。
洞窟には名前はないが、【人】の時代と同様に洞窟があり、中に入る。岩に囲まれた洞窟はゴブリンが住処だった。ゴブリンを蹴散らし、1階層の最奥に辿り着く。
合言葉を言い。エンシェントドラゴンロードの魔力を流し込むと、光が放たれ、最奥の洞窟の真ん中が轟音と共に、左右にスライドしていく。
中に入ると、扉が轟音と共に閉じられた。
金銀財宝の山がそこにはあり、岩が複数個立って並んでいる。入って右側の岩に行き、合言葉を言う。岩が空中に浮かんだ。中には空間収納ボックスがあり、手に取り、契約して自分専用にする。
そして、又、右側に行き、別の合言葉を言い、中から、リングを10個とり、指に全部嵌めた。同じく合言葉を言い、衣服、ロングジャケット、マント、ネームプレート、双剣を装着して行く。全て、国宝級のアイテムだ。
空間収納ボックスに金銀財宝の半分程を入れ、洞窟から出た。出ると扉が閉められ、そこには、なんの変哲もない、洞窟の行き止まりのようにしか見えなくなった。
ジンは友がまだいるかもしれない、ラステリア王国の首都に行く事にした。