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不機嫌なワンコ

ちょっと今回長め

「カトラ、お前今日からエメの警護に回れ」


ある日まだ日も昇りきらない早朝に魔王護衛団長団長カトラは呼び出された。


「は?エメ様の護衛ですか?しかし、それなら私でなくとも他の者につかせればいいのでは?」


「仮にも奴は人間国から送られて来た私の花嫁だぞ?正式に婚約を解消するまでは私の妃同等に扱う!そして、見た目だけではなく、私の偉大さを皆に知らしめるのだ!」


カトラは鏡の前でポーズを決め悦に入っている主人を全く感情のこもっていない目で見た。


「流石アルカダ様。寛容な貴方の姿に皆、心打たれる事デショウ」


言葉にも全く気持ちがこもっていなかった。

また下らない仕事を押し付けられた。

カトラはとても不機嫌である。



「・・・私の、護衛?」


「はい。暫くの間エメ様のお側につかせて頂きます。魔王護衛団長カトラと申します」


改めて名乗られエメは彼の肩書に驚いて目を見開いた。

魔王護衛団長とはつまり、この国の中で一番強い人なのでは?エメは正直また面倒な事になりそうな予感がした。


しかし、それはお互い様である。


「・・・外に出ないのに護衛なんて必要ないよ?それに、魔王様直属の護衛団長に守ってもらうなんて、大袈裟では?」


「アルカダ様の命です。異論は認められません」


(やっぱりそこは人間国と然程変わらないんだな)


何処の国でも王の言葉は絶対らしい。

カトラを改めて見たエメは、無意識に彼の耳元を見たままカトラが護衛につくことを了承した。







「見られてる」


あれから数日。

カトラは恒例となっているエメと魔王の美容トークを散々横で聞かされて心底疲弊し、時間の合間に食事しながらも自分に注がれる熱い視線の主にちゃんと気付いていた。


カトラはメープルやシロップと同じく獣人族である。

彼の耳は短毛で濃いブラウンと黒が入り混じりピンと先が尖っている。種類で分類すると犬科であり尻尾も長くないが生えている。


犬科は人とは違い嗅覚や聴覚に長けている。

最近護衛する様になったエメが隙あらば自分を見ている事をカトラは察知し気持ち悪さを感じた。


彼はそもそも人間の事が好きではない。

自分達と違い特化した能力がない種族でありながら自分達獣人を見下しているからだ。


「え!?エメ様私の事見てました?うそぉ〜新しいリボンに気付いてくれたのかなぁ?」


「え?何言ってるの?エメ様が見てるとしたら私でしょ?今日の私は本気だから。今までで一番攻めてるから!」


「・・・いや、お前らじゃなくてだなぁ・・・」


エメの視線に一喜一憂しているシロップとメープルにカトラはうんざりした。


一応現在絶賛恋人募集中の男が直ぐ側に座っているのだが、全く彼女達の眼中になかった。


(まぁどっちにしろ二人共俺の好みじゃないから別にいいんだけどよ?なんか気に入らねぇ!)


カトラは纏わり付く視線を無視し、食事を終えるとサッサと隠れて此方を見ている護衛の主の元へ戻って行った。






『ふ〜ん?それで、獣野郎の耳が気になってしょうがないと?』


「ちょっ!いや、そうなんだけど・・・私男性って事になってるからシロップとメープルに触らせてなんて言えないし・・・いや、同性でも、そんな事言ったら失礼になるのかもしれないんだけど」


エメは衣装室の鏡に向かい一人話をしていた。

話相手はこの間利害が一致し内密に情報交換しているシャルラーニである。


実は彼は鏡の姿の間であればこの世の全ての鏡と繋がる事が出来るらしいのだ。


それを知ったエメは勿論危険な場所に置いてある鏡を全て移動させた。それを知ったシャルラーニはエメの目の前で舌打ちした。


奴は明らかにエメを覗くつもり満々であった。

隠す素振りも見せない変態鏡野郎にエメも内心舌打ちした。


『そうだねぇ?ま、親しい相手なら触られてもなんとも思わないだろうけどさぁ?エメは無理っしょ?』


「わかってるよそんな事。だから見てるだけだって」


言いたがらないエメから無理矢理話を聞き出したシャルラーニに指摘され、納得出来ずエメは膨れた。


実は人間国には獣人は暮らしていない。

エメは初めて間近に見たモフモフに、ちょっとテンションが上がってしまっているのだ。


『それよりさ?いい加減俺を少し外に出せよ。約束だろ?』


「今鏡から離れて大丈夫なの?魔王様の相手は?」


『魔王様が俺に話しかける時間は決まってんだよ、だいじょーうぶ。ほら、早く!』


急かすシャルラーニに、気は進まなかったがエメは頷いた。

ちゃんと報酬を与えないとエメが欲しい情報を引き出す事が出来ない。エメは自分の平穏な老後の為、鏡にキスをした。


「ふぁー!シャバの空気はやっぱりいいねぇ?あ、大丈夫大丈夫!今回はちゃんと服、用意してあるから!」


そんな事出来るならいつもちゃんと用意しておけよ!


エメは奴の首をしめたい衝動をグッと抑えた。

そもそも非力のエメではシャルラーニに力で勝てる筈もない。


二人はコッソリ衣装室を出たが直ぐにカトラに見つかった。

エメの護衛であるから姿が見えなかったら探されるのは当たり前ではあるのだが。


「エメ様?戻らないから何処にいるかと思えば、お前は・・・シャルラーニか?」


皆既に魔法の鏡であるシャルラーニがエメによって人に戻れる事は知っている。魔王が発見したその日、興奮気味に皆にバラしたからである。


彼等はエメがシャルラーニを元に戻し聖魔法を使えると聞いて、微妙な顔をしていた。いや、あれは警戒していたのだとエメは感じた。


魔王の信頼の向上とは反比例して臣下達との心の距離は遠のいている。なんとか平和にやり過ごしたいエメにしてみれば中々不利な状況だ。


好かれたいとはまでは言わない。せめて、いてもいなくても気にならない的ポジションが欲しいエメなのである。


「お前、魔王様の許可無しに勝手にエメ様に会いに来るなよ。見つかったら面倒だろうが!」


「いやいや、俺はさぁ?エメがシロップとメープルに抱きついてモフモフしたいって言うから止めに来てやったんだよ?だってそんなの二人とも速攻で許しちゃうっしょ?むしろ喜んじゃうかもな?」


「「はぁ!?」」


とんでもない事を口にしたシャルラーニにエメとカトラは同時に声を上げた。そしてカトラはエメを上から睨んだ。


「アンタ、何言ってんだ?そんな事、俺が許さねぇぞ?」


鋭い目で睨まれてエメは思わず縮こまった。

獣人族の男に睨まれて怯えない人間などいない。

そんな二人を面白そうに見物していたシャルラーニはまたもや余計な事を口にした。


「あ、なんか誤解した?エメは獣人の毛並みを確かめたいって言っただけだけど?別に確かめるだけならカトラでも構わないらしい」


「・・・あん?」


エメを睨んでいた目が益々凄みを増した気がする。

エメは確かに間違ってはいないシャルラーニの説明をどう弁解しようかと考えた。


「カトラが耳触らせてくれるなら、あの子達に声を掛けなくて済むな?まぁカトラは嫌だろうから無理しなくてもいいけど?シロップとメープルが触るのを許してくれれば問題ないもんな?」


カトラは顔を痙攣らせると目を閉じて暫し考えた後、不愉快極まりないという顔で再びエメを見下ろし吐き捨てた。


「別に構わねぇよ?こんな厳つい男の耳を触りてぇなんて、エメ様は随分と変わった趣味をお持ちのようだな?」


(ひ、ひぇええええええ!!)


何故こんな事に?


エメはただ「可愛らしいなぁ〜ちょっと撫でてみたいなぁ?」と思っただけである。別に無理に触りたかったわけではないのだ。しかしエメは完全に獣人女性を惑わす変態男認定されている!!


「い、いや・・・私は別にそんなつもりじゃ・・・」


「遠慮すんな。そんなに毛玉が撫でてぇなら好きにしろよ。まさか、あの二人がよくて俺は嫌だとでも?下心がある訳じゃねぇんだよな?」


半端強迫されているエメを見てシャルラーニは横でニヤニヤ笑っている。憎たらしいくらい楽しんでいる。


「だって!良かったねエメ!好きなだけカトラの耳と尻尾を撫でてやるといい」


(このドS鏡野郎!用が済んだら火山口に放り込んで溶かしてやる!!)


エメは馬鹿正直に自分の欲望をシャルラーニに打ち明けた事を深く後悔した。


そして、エメは初めて他人に殺意を覚えた!



*****◆*****◆*****◆*****




(危なかったぜ。シャルラーニが知らせてくれなきゃメープルとシロップがコイツに弄ばれちまうところだった)


カトラは完全にシャルラーニの言葉を鵜呑みにしていた。

そして今目の前にいる人間が獣人女性を好んで付け狙う変態だと決めつけた。


「あ、あの・・・本当に触っていいの?私は人間だから感覚が分からないんだけれど」


カトラにしてみれば、コレは女性を触りたいが為に"毛並みを確かめたい"と不埒な嘘を付いたエメへの制裁のつもりであった。まさか本当にエメがカトラの耳をモフモフしたかったなど知る由もない。


「別に引っ張ったりしなけりゃ構わねぇ。()()()()()()()()()()()()?」


なので、カトラの嫌味もエメには全く通じなかった。

エメは目をキラキラさせながらカトラのピクピク動く耳を見つめている。


カトラは本当に気色悪い男だと思いながらも耳に手を伸ばすエメを前に目を閉じた。すると、自分の耳を細い指がサラリと撫でた。


カトラはその指が想像以上に細く柔らかい事に驚いた。


そして、もしかしたら、いきなり耳を掴まれたりするのではと警戒していた彼は拍子抜けした。


「わぁ・・・サラサラだ。もっと硬いかと思ったけど、髪の毛よりも柔らかい・・・」


二人は離宮のお屋敷の端、植えられていた木の木陰に並んで座っていた。天気も良く風も心地よい。


相手がエメではなく綺麗な女性であったならカトラにとって最高のシュチュエーションだったのにと彼は考えても仕方ない事を考えた。


(なんだ?なんか、いい匂いがする)


カトラは目を閉じてエメに耳を撫でられるのをジッと耐えながら微かに漂って来た香りに気が付いた。


(花?いや、そんな強い香りじゃねぇな?なんか、すげぇ美味そうな・・・)


一方エメはずっと触ってみたいと思っていた獣人の耳に触る事が出来て大変興奮していた。そして、その感触は最高であった。最高の撫で心地である。


一見暑そうに見えるソコはヒンヤリと冷たくて気持ちよかった。カトラの耳は短毛でメープルやシロップ達のようにふわふわではないが、サラサラと当たる毛並みはとても柔らかい。エメは思わず表情が崩れニヤニヤした。


(もっと撫でたいけど流石にこれ以上は怒るかな?名残惜しいけど、これくらいでやめておこう)


エメが渋々カトラの耳から手を離すと、いつの間にか目を開いていたカトラがエメを見ていた。そして気付かなかったが彼の手がエメの肩に伸ばされた。


(やっぱり触り過ぎたかな?)


エメはちょっと申し訳なくなった。

しかし、悔いは無かった。

モフモフは、正義である!!


エメは押し倒されながら、悠長にそんな事を考えていた。

そして、直ぐ我に返った。


アレ?何故自分はカトラに押し倒されているのだろう?

謎すぎてエメの頭の上を疑問符が乱舞した。


もしや、耳を触った事が相当嫌だったのだろうか?

そして自分はカトラにこのまま絞められるのだろうか?


(え?自分で許可しておいて?理不尽!!)


ベロリッ


突然、何かがエメの頬を這った感触がした。

エメはそれが、カトラの舌ベロだと分かり目が点になった。


「アンタ・・・なんでそんな美味しそうな匂いさせてんだ?・・・気に入らねぇ・・・」


「・・・・・・・・・・・!!!?」


エメは今まで同じ女性に押し倒されたり襲われそうになった事は何度もあるが、男性に言い寄られたことも迫られた事もない。その為この状況がそれに当て嵌まる事態だという意識がまるでなかった。


獣人は友人や恋人の相性を外見ではなく嗅覚で感じとる事が多い。それはお互いが同族同士だった場合成立するものであるのだが、他種族相手であっても彼等はその本能に左右されやすい。


そしてカトラは内心、エメの放つ香りに刺激され本能のまま動いてしまった自分に衝撃を受けていた!


人間で、しかも自分よりもハンサムな男を何故自分は押し倒しているのか?そして、この醜態をどうやって誤魔化せばよいものか。悩んでいると、カトラの直ぐ下で可愛そうなくらい顔を青くした美青年が、半端涙目で訴えてきた。


「ひぇぃ・・・美味しくない・・・私の肉なんて美味しくないから。噛みつかないで」


エメは自分が食料認定されていると誤解した!

しかも生のままバリバリ食われると思っている。


カトラはそんなエメの態度に相手が此方に無知な人間であった事をやっと思い出した。


彼は素早く体を起こすと地面に転がったまま動けないエメの両脇を抱えて持ち上げ、元通りに座らせた。


エメは未だに涙目のまま震え怯えている。


「阿呆か、獣人は人なんて食べない。今のは・・・ただの挨拶だ」


「え!?そ、そう、なの?」


(毛繕い的な?)


確かに一部の動物はお互いを舐め合うな?

エメはカトラにまんまと騙された。


「女にはやるなよ。誤解されるからな」


(男にだってやらないよ!)


エメは心の中で叫び声を上げた。

実は女性のエメは、カトラにこんな事をされてはいけなかったのだがエメはそれよりも気になる事があった。


「じゃあ尻尾は触っていい?」


「・・・・・・・・・アンタ、意外といい性格してんな?」


内心自分自身がやらかしてしまった現実が受け入れられず、混乱のカトラはその後、まだ涙目のエメに気持ちが落ち着くまで散々尻尾を触られた。


そしてその後もエメが獣人を理解するまでの間、カトラに対するこのセクハラ行為は続く事になった。

つまり、エメは本人が知らぬ間に同性のカトラを撫でくり回す変態の汚名を着せられる事になったのである。









「何故だ!!」


珍しく荒れる魔王に宰相は声をかけず必要な書簡を魔王の机に置いた。しかし、アルカダはそんな彼の無言の抵抗をものともせずに不満を撒き散らした。


「カトラの耳なんかより私の艶のある美しい髪の方が余程触り心地が良い!それなのに、エメはカトラの方がいいと言ったのだ!!」


あの駄犬、余計な事してくれて。益々面倒な事になったじゃないかどうしてくれる?


宰相は額に血管を浮かせながらも沈黙した。


『まぁまぁ〜魔王様。人間は毛玉好きな変わり者が多いらしいですからねぇ〜?気にしなくてもいいと思いますけど?』


騒動を引き起こした本人がしれっと魔王をフォローした。

フォローしたと見せかけて、実はさらに煽っていった!


「では頭に獣耳を生やせば良いのでは?そうだ、そうしよう!!」


「おやめ下さい。獣耳を生やした魔王になど誰も従いません!!貴方は一体何がしたいんですか!!」


何がしたいかと問われればエメに構って欲しい魔王であるが、彼はまだ無自覚であった。


「私もエメに触り心地を試して欲しい!そして私の方が優れていると認めさせたい!!」


「その訳の分からないエメ様に対する対抗心をいい加減なんとかして下さい!!あと仕事して下さい!!」


その後直ぐ、カトラはエメの護衛から外された。

そしてそこに残されたのは意味を為さない喪失感とエメに撫でて貰えずふて腐れた魔王の手付かずの仕事の山だった。


因みにアルカダが撫でて貰えなかった理由を後日シャルラーニがエメに尋ねると、こんな返答が返って来た。


「え?だって一応私女だし。無闇に男の人に触れるのはちょっと・・・相手は魔王様だし・・・」


カトラの耳は触ってよくて魔王の髪は何故駄目なのか。

シャルラーニはちょっと理解に苦しんだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] カトラ可愛い(笑) 何か、これを乙女ゲームにしたら面白そう。 ある意味一番、攻略の難易度が高いのが魔王様ですね。 相手の親密度を上げるというよりは、自分(エメ)からの好感度がないと攻略で…
[一言] 滅茶苦茶イイですね!! 最高です!(≧▽≦) 日々の癒しです!!
[良い点] カトラの本能がエメを女性だと認識している!! 人間の女性に慣れてる獣男性なら、すぐにわかったのたもしれませんね(*´-`) そしてエメ、実は魔王様のこと案外意識しているのでは……!
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