めでたしめでたし?
ここで完結!
今後の彼等の事を妄想してくれたら嬉しい。
ここまでお付き合いくださり、感想くださった皆様!!
ブクマ、ポイントも本当にありがとうございました!!
また、お会いしましょう!
ここは魔国デリタ。
この国は冬を迎えようとしていた。
「だぁ〜かぁ〜らぁー!エメ様は私のお耳で満足なんですぅ!この前コッソリエメ様にお耳触って貰ってたでしょ!ああいうのやめて下さい!」
可愛らしく元気な声が今日も魔王宮に響き渡る。
エメは最近離宮から此方へ住処を移した。
シャルラーニの一件でアルカダの側に置くと決められたからだ。まぁ近くとは言っても王宮内のアルカダが過ごしている直ぐ近くに移って来ただけなのでエメとしては然程問題ではなかった。むしろ朝の行き来が楽になり有り難かった。
「別に男同士なんだから気にすんなよ。お前最近やたら俺に噛み付いて来るな?なんでなんだ?」
カトラは朝からご立腹のシロップにたじろいでいる。
そんな二人をメープルが呆れた顔で見ていた。
(カトラ無自覚なんだな〜・・・エメ様に触られてる時の顔一度見せてあげたい・・・)
少し前避けられていたカトラは最近またエメに耳を撫でて貰っている。きっかけはシロップとエメの会話に混じった時エメが遠慮がちに小動物の毛並みを見ると愛でたくなるという話をした時耳を触るくらいならセクハラにはならないとシロップが口にした事であった。
それからエメは毎回シロップとメープルに許可を貰い問題がない程度にお耳を触らせてもらっている。その流れで女性だけの耳を触るのは気が引けるからカトラも触らせる事になったのだが・・・・・それを、何故かシロップは気に入らないらしかった。
「悔しい!!エメ様、口には出さないけど実はカトラのお耳が一番お気に入りなんですよ!?エメ様の顔を見れば分かります!もうエメ様にお耳触らせないで下さい!!」
シロップに責められ、しかしエメが自分の耳を一番気に入っていると聞き実は満更でもないカトラはプリプリしているシロップを宥めながら思わずニヤついた。
メープルは、そんなカトラにちょっと引いた。
(幾ら綺麗だからって・・・エメ様男性なのになぁ〜)
女性である。
室内でぬくぬく過ごしている内、彼女達は完全に野生を失っていた。本気を出せば本来相手の性別など匂いで分かりそうなものである。
つまり彼女達はまだ気が付いていなかった。
*****◆*****◆*****◆*****◆
「ナディア。エメ様は此方にいらっしゃいますか?」
「あらぁ?さっきまでここにいましたけどぉ?そろそろ貴方が来ると思って逃げたんじゃないですぅ?」
エメは、ナディアに仕事の手伝いを頼まれ、マッシュの仕事と半々ならばという形で手伝いに来ていた。
どう考えてもマッシュの仕事量の方が多いのでナディアもそれを了承し、最近はエメとお茶を飲めるぐらいの余裕は出来た。そして、マッシュはエメに避けられていると勘付いたのだ。
「なんですかそれは・・・私は何も・・・」
ナディアはマッシュの嘘を一発で見抜いた。
これは、きっとエメを怖がらせる様な何かをしたに違いない。
しかし、ナディアはこの男を怒らせるような事をエメがしたとは思えなかった。仕事で多少失敗したとしてもマッシュは相手を怖がらせる程叱りはしないはずである。
だとすれば、心当たりは一つだけ。
「いくら美しいとは言ってもぉ〜食べちゃ駄目ですよ〜?インキュバス」
「その呼び名やめて頂けますか?下等な悪魔と同じ扱いやめて下さい」
冗談のつもりで口にしたナディアは顔色を悪くしたマッシュに吹き出した。どうやら、本当にエメに手を出そうとしたらしい。実際は寝ぼけていただけなのだが。
「へぇ〜?宰相様はぁ〜ああいう感じが好みなんですねぇ〜?」
「ナディア?本気で怒りますよ?相手はアルカダ様の婚約者です。冗談でも変な事を口になさらぬよう」
(マッシュって意外と可愛いかもです。これだけエメ様の事追いかけ回しているのにエメ様が女だって気づかないものですかねぇ?)
ナディアはエメと過ごすようになって直ぐにエメが女性だと気が付いた。何故ならナディアもマッシュと同じ、相手の魔力を吸収する能力を持っているからである。
彼等は基本その魔力を異性から奪うのだ。
つまり、相手に触れれば同性だと気付くはずなのである。
しかし、どうもマッシュはまだエメが女性であると確信を持てていない様子である。
ナディアもマッシュもエメに"イケメン全振り"の加護がかかっている事を知らなかった。
よって彼女はマッシュが非常に鈍い奴だと思い込んだ。
「仕事はちゃんと終わらせていくのでしょう?なんで毎回エメ様を追いかけるんです?」
「毎回私がいない所で仕事を終わらせてしまうからですよ!どう考えてもエメ様の負担が大きいでしょう!」
(素直じゃないなぁ)
本当はエメに会いたいのに正直にそう言わないマッシュにナディアはニヤニヤした。これでもし、エメが女性と分かったらマッシュはどうするのか少し気になったが、彼女はそれを告げなかった。
その方が、面白そうだからである。
魔人の主成分は"面白い"で出来ている。
実はここ最近マッシュがエメを追いかけ回す程度には彼等は平和であった。
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「これを見よ!此方の化粧品は刺激が強くエメは使えないからな!特別にお前の為に人間国から調達しておいたぞ!」
「え!?そんな、私に化粧なんて・・・あ、でもこの保湿剤は欲しいかも・・・」
夕方仕事を終えて帰宅したエメの所に毎度お馴染み魔王のアルカダが乱入して来た。
いつも朝にしかやって来ない彼が現れたので少し驚いたエメであったがアルカダの説明を聞いて納得した。
「あれ?でもコレ前も何処かで見たような・・・」
「ああ?お前を追いかけ回していた女がお前の為にと送って来たのだ。森の聖女を此方に連れて来て以来、エメに掛けられていた加護の効果が薄れて来ているらしいぞ。最近ではすっかり大人しくなったらしいからな?」
あの後やっと事実を知ったエメは強制送還されたゼーラを罰しないで欲しいとアルカダにお願いした。
アルカダはゼーラに全く興味がなかったのか二つ返事で了承し、人間国の王にもそれを伝えてくれたらしい。
エメは保湿剤を手に持ったまま微笑んだ。
「そうですか。それは、良かったです」
「なんだ?じゃあシャルラーニもそろそろ外に出してやるか?」
「え?チョット何言ッテルノカ私理解デキナイデス」
聖女とは?
エメは自分が聖女などと思っていない。
寧ろもう真っ黒でも構わない。
鏡の中を行き来出来るようになっただけでも感謝して欲しいものである。
「それにしても大分寒くなって来ましたね?此方の冬は全てが凍りつく程気温が下がるんですよね?」
「そうだな!お前の身体は脆弱だ!決して一人で外には出るなよ?」
「じゃあ、新しいお妃様が来るのは暖かくなってからですね。次は素敵な魔人の女性が見つかるといいですね」
エメは笑って保湿剤の瓶の蓋を開けた。
中から薔薇のいい香りがする。
「エメ。私は正直妃など、どうでもいいのだ」
「はは!魔王様は美の探求者ですからね?アルカダ様の横に並ぶ方は大変でしょう」
「そうだな?だからエメ、お前ならずっと私の隣に居させてやるぞ?その資格がエメにはあるだろう?」
アルカダの言葉にエメはキョトンと首を傾げた。
「"この世で最も美しい聖女"お前なら私のただ一人の妃にしてやってもいい」
アルカダの言葉にエメは手に持っていた瓶を落としてしまう。そして、呆然と笑うアルカダを見た。
(ギャアアアアアアアアア!?バ、バレてたぁー!!)
エメはダラダラと汗をかきながら、どう説明したらよいのか分からず固まったままである。
アルカダはエメが落とした瓶を拾うとそれを机に置き、空で固定されたエメの手に自分の手を重ね・・・・・。
「超絶美麗の私と最も美しい聖女のエメ!!私達二人が手を組めば、最強タッグの完成だ!!美しい私達を見て国民は美意識の大切さに気付くに違いない!!いざ!美の最高峰を目指して!!」
「あ、あ〜〜〜そうですね。そうでした、そうでした」
握られた手を高く持ち上げられエメは何故か少しドキッとした自分を恥じた。穴があったら入りたかった。
「どうしたのだエメ!何を迷う事がある!?」
「いや、とてもありがたいお話ですが・・・森の聖女のようになるのは嫌なので、ご遠慮します」
「何故だエメ〜〜〜!?私の目に狂いはない!私達の相性は最高だぞ!?」
食い下がるアルカダをエメはいつもの様に宥め賺した。
そしてある事を思い出して、エメはあげられた手をそのままアルカダの頭に乗せると、軽く撫でた。
カトラ程サラサラしてはいないが艶やかで美しい黒い髪である。エメの髪より艶々でエメは少し悔しくなった。
「そうですね・・・じゃあ、アルカダ様が鏡を覗く回数より、私を見てくれる回数が増えたら考えます!」
満面の笑顔でそんな事を言われたアルカダは絶句した。
それは・・・・今のアルカダには難易度が高かった!
「クッ!!私がこんな美しく生まれたばかりに!!この美貌が・・・憎い!!」
「あはは!やっぱりアルカダ様は、アルカダ様ですね!」
その年、魔国デリタに一人の人間が魔王の嫁としてやって来た。
その人間の姿を知る者はなく実は男で絶世の美青年であるという噂が流れたが、その後魔王は婚儀を執り行う事なく真実は闇の中であった。
しかし、その噂が流れたその年から王宮から聞こえて来た悲痛な叫びは聞こえて来なくなったという。
その代わり、前は微かに聞こえて来た魔王の高笑いが年々酷くなっている。そろそろ苦情が出るレベルであろう。
「ハーハッハッハッハッハ!そうだろうそうだろう?やはり私は、誰よりも美しい!!」
それ以外は概ね平和。エメは思っても見ない形で平穏な日々を手に入れたのであった。
あ、因みに。
魔王アルカダが自分悦なスーパーナルシストである事は紛れもない事実である。
〜完〜