プロローグ 深夜の決起文
仕事しながらなので週1程度の更新になります。
あいつらはごくつぶしだ。年数を重ねるほど価値がますのはワインか骨董品くらいであることを知らない。
ありつらは頭が悪い。年金が当時自分たちが払った額より多く返ってくることを疑問に思わない。
あいつらはゴミだ。生産するものといえば排泄物と意味のない会話。認知症も加わると目も当てられない。
死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。...................
時間は午前2時。野澤亜岐男は自身の務める介護施設にいた。認知症のため夜中に何度も意味のない呼び出しをするおばあさんの対応から一時解放され待機室で休憩していた。25歳から勤務し、現在30歳。月給16万円。先週に2年付き合っていた彼女に別れを切り出された影響もあり、今晩は特に精神的にこたえていた。
主格と客観の相克。羅生門の倫理学。適者生存の理。万人の万人に対する闘争、斗争、我が闘争、我が逃走。逃げるべきか立ち向かうべきか。生きるべきか死ぬべきか。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。
死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。死ぬ。死ね。...................
亜岐男は普通の人が見たら正気か疑うような内容をキャンパスノートに書き綴る。書き綴る。書き綴る。書き綴る。書き綴る。書き綴る。
...8枚ほどノートが亜岐男の筆跡で埋まったころ亜岐男の手がふと止まった。口角が上り、目が細まった。表情を判定するAIであれば笑顔と判定するだろう。しかし、人間の目からはSAN値は0、もしくは邪神そのもののように見えた。
"びりっ、びりりっ"。
亜岐男は今までに書いたページを全て破り捨て、新たにまっさらなページをめくり書き始めた。
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「妄想より科学へ 1〜親愛なる祖母 奈津に捧ぐ〜」
全国の若者よ団結せよ!
我々は幸福になるために生まれてきた。そう考えるのは異常なことだろうか?それとも私だけだろうか?
私は楽観的な方だが、現実は甘くなくこの命題通りに行かないことはもちろん知っている。盲信できるのは相当な理想主義者もしくは私以上に頭がお花畑な者だろう。だが信じられる者は幸いと言える。
私の故国日本が「幸福になる」ためにこれほど不利な国になったのはいつからだろうか?生まれた時から国の借金を数百万抱え、成長が望めない経済の中で税金、年金の負担ばかりがのしかかる。もし子供が異世界から転生してきた者だとしたら神を恨むだろう。コウノトリに運ばれる途中ならコウノトリを言いくるめて配達先を別な国にしてもらうだろう。しかし私は異世界から転生した記憶もコウノトリに運ばれた形跡もない。
誰を恨めばよいのか?誰に相談したらよいのか?誰に泣き言を行ったらよいのか?
「これらの窓口もしくは不満の捌け口は政治や市役所などの行政だ」と良識ある者は答えるだろう。だが平均年齢が60歳を越える内閣は高齢者、若者どちらの味方だろう。市役所に相談しに行けばクレーマーとして丁重に扱われるかもしれないが、それだけだ。世の中は何も変わらないし、当然私の状況も何も変わらない。
この「何も変わらない」という状況は時と場合によってはむしろ理想とされる。例えばキリスト今日では永遠性や普遍性というのは神に付随する性質と考えられ尊ばれる。陶淵明の桃源郷やウィリアムス・モリスのユートピアに描かれる理想郷は時代の変化に流されない牧歌的な国家だ。確かに外界と隔絶された、言い換えれば「鎖国化」もしくは「ガラパゴス化」した環境では100年前と現在、現在と100年後、そのまた100年後と生活が変わらない事は望ましい。しかし、現在は21世紀だ。時計の針は誰が進めるともなく進んでいく。変化を認めなくてはならない。
さて前置きが長くなってしまった。この文章の主旨はこの後に続くたった数行なので読み切ってほしい。私はこの国と他国の人口統計を観察し、ある問題点とそれに対する科学的な解決法に思い至った。その問題点は「高齢者が多く、若者が少ない」ということだ。経済の衰退、競争力の低下、低賃金、過酷な労働環境。これら私たちが耐えている現代の艱難辛苦の原因であると考えられた。読者諸氏はこの問題が「少子高齢化」として知られており、全く目新しくないため驚いた事だろう。だがこの問題に対して政府が行ってきた、少子化対策や移民様政策が奏功していない事は周知のことだ。そこで私は科学的かつ合理的な解決法を考案しその実行の準備を進めている。文字通り砂時計を回すように、時間を巻き戻すように、人口ピラミッドの分布を上下入れ替える計画だ。その全容は続く巻で徐々に明らかになるだろう。続報を待て。
繰り返す。全国の若者よ団結せよ!
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亜岐男は眠気から微睡んできた。この仕事は休めるときに休まないと身体が保たない。そう思いインクのキレが悪い100均のボールペンを置き短い仮眠に入ったのだった。このノートが預言者を名乗るウズメ=ネギという人物の目に留まらなければこの後の物語は起こらなかったかもしれない。だが歴史に"もし"はない。時計の針は誰にも戻せないのだから。