8章-(7)クラブ「ペンデュラム」
「たぶん正しいのかもね。アンタの言っていることは」
エレンが複葉機の下から立ち上がり、レミリオへと真っ直ぐ向き直る。
「夢に向かって行動する。その言葉自体は素敵なことだと思う。でも、その間に何度も何度も現実に向き合って、何度も何度も何度でも絶望を味わうことになる……そこで別の道を見つける人は大勢いるんだと思う。
でも、諦めない人もいる。でもそれは、“諦めてはいけない”なんて固定概念に縛られているだけの人だけじゃない。“その道を行かなければ先にいけない”って人も大勢いるんだ。
……夢が叶わない可能性だなんて、所詮“可能性”に過ぎない。その道を行かなければ前に進めない、生きていけない……そういう人もいる。わたしみたいにね……!」
「自分自身の可能性を疑うのか? それは自分自身を殺す事と同じじゃあないか……?」
「自分自身を殺すのは、自分自身の進む道を疑う事……わたしはわたしを信じるよ。わたし自身が死なないためにも……!」
「俺の言ったことが何一つ理解できてないみたいだな……“信じた道の先に幸福が待ってる”なんて考えは宗教と同じなんだよ……」
ふう、とレミリオがため息を吐き、言った。
「虚仮の一念岩をも通すってか……? 世間的には素晴らしんだろうが、俺はそうは思えねえ。異世界の機械人形みたいな、薄気味悪さを感じるぜ。
人ってのはさ、もっと自由で、風の吹くままってな加減だから、だからこそ面白いって思うんだけどなあ……いままでそりの合わなかった奴が、なんかのきっかけで意気投合するみたいなさ。下らなくていい加減な、風の吹くまま気の向くまま……そういうのが人の良さってもんだと思うぜ?」
「酒の席でクダ巻いてるオッサンみたいな、みすぼらしい言い分よね。結局自分の夢すら叶えられなかった奴らが、お互いの傷舐め合ってるだけの話だと思うけど?」
「とことん気が合わないな。そいつの何が悪いんだって話なんだけどなあ?」
クスクスと笑うレミリオに、エレンは今度こそ愛想を尽かしたように背を向け、黙々と機械整備へと戻ってしまった。
「お姫様が機嫌損ねちまったか。仕方がない、今日は出直すとしよう……ああその前に、そこの転生者さん? 実はアンタに渡すものがあってさ」
レミリオは懐をまさぐり、一枚の薄い板を俺に手渡した。
「とりあえず今日はこの街に泊まるんだろ? 俺のおすすめの店への招待状だ。“ペンデュラム”って店の前にいるムサイ奴らにそれを見せれば、レジエント一の美味い料理を味わえるぞ? ま、気が向いたら来てくれ」
そう言って、レミリオは片手を挙げて颯爽とその場を後にした。
……それにしても。
――なあ。
「なに? 今話しかけて欲しくないんだけど?」
俺が尋ねると、エレンはピリついた声色で応じた。
――あいつにずいぶん気に入られているようだが、あいつとなんかあったのか?
「答えたくない」
どうやら何かあったらしいな。
俺とマーリカは察して、彼女に軽く謝った後、セイを連れてその場を去ろうとした。
だがその間際、エレンの発した言葉に、俺は肝を冷やした。
「……あいつは許さない……たとえ死ぬことになっても……」
◆◆◆
午後七時。
俺とマーリカ、セイはレミリオが言っていた店“ペンデュラム”を見つけ、入り口にいる厳つい男達に割り符を見せた。
「あなた達が……ああ、どうぞお進み下さい」
やや緊張した面持ちで、厳つい男達は俺達を店の中へと案内した。
……あの男、こいつらに俺達の事をどういう風に伝えたんだ?
ため息をつきながら店内の扉を開く。
すると――予想外のものが俺の視界に飛び込んできた。
無数のローソクで照らされた円上の土台。
その上で踊る、うっすらと汗ばんだ若い男女。
周囲の演者のギターとピアノ、サックスが扇情的なサウンドを鳴らす。魔法かなんかで音を増幅しているのだろうか? 音響機器で増幅しているかのように、音楽は建物全体へと大きく響いていた。
……ありえないと思ったのは、俺がその光景に既視感を覚えたから。
テレビかなんかで見た、クラブの様子そのものだったからだ。
「よう! 来てくれたか! 面白いだろ、この店?」
俺達が唖然としていると、店のカウンターからレミリオが満面の笑みでこちらへやってきた。
「あんたの世界にあるクラブって奴を再現してみたんだ。まあ、あんたら異世界人にいわせればショボい代物かもしれないが、雰囲気だけは楽しめるだろ?」
――いや、俺達はメシを食いにきたんだが……
「ああ……わかってるさ。あんたらが来るだろうことを見越して、イチオシの奴を作らせてるんだ……ま、楽しみにしててくれよ」
レミリオはやたらと俺に顔を近づけ、クスクスと妖しく笑う。
……うん。本当に苦手だ。こういうタイプは。




