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転生者殺しの第九騎士〈ナイトオブナイン〉  作者: アガラちゃん
八章「風と共に出立つ」
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8章-(5)レミリオという男

――なるほどな。


 仕事一筋の父親に振り向いて欲しい。認めて欲しい。ついにその想いは叶わずに。


 だから父の残したあの複葉機を直そうとする。壊れた親子関係を、1つずつ修復していくように……


「うんうん、良い話よねえ。で、ものは相談なんだけどさ?」


 感動したフリを早々に収め、マーリカはエレンに交渉をしだす。


「今日中にあのヒコーキにあたし達3人乗せて飛ぶことってできる?」


「……あの機体は二人しか乗れないよ?」


「そこをなんとか! チョチョイと改造して乗せられるようにできない?」


「……うーん、座席奥の荷物置きのスペースを直せば……それでもかなり狭いと思うけど……」


「大丈夫大丈夫! セイとあたしはそれほどスペース取らないと思うから! ギュッと詰めればなんとかなるんじゃないの?」


「そっちの男が乗らなければ行けると思うけど?」


 ――なあ、そろそろチクチク突っかかってくるのやめにしないか?


「整備士として一番合理的な案を言っただけ」


 フン、と鼻を鳴らすエレン。


 ……あー、ストレス溜まるわー、マジで。


「あんなに大きいんだから、4~5人くらい余裕で乗れるんじゃない? ねえ?」


 マーリカに振られたセイも、こくこくと頷く。


「……外から見ればそう思うかもしれないけど、中を見ればよくわかるよ。無駄な部分なんてほとんどないからさ……なんなら見てみる?」


「いいの? んじゃお言葉に甘えてみる?」


 マーリカに振られたセイが、こくこくと興味津々な顔で頷いた。


「うん。それじゃ行こうか……でもそっちのアンタは」


 ――遠くで見てるよ。大切な飛行機には近づかない。満足か?


 フン、とまたしても鼻を鳴らし、エレンはマーリカ達と共に再び複葉機の置かれている場所へと向かった。


 俺は一定の距離を保ち、三人の後を不承不承ついて行く。


 ……もう帰りてえな。街の宿に。出来れば元の世界に。


◆◆◆


「えー!? どうしても今飛ぶことってできないの!?」


 動揺するマーリカに、エレンは整備士らしい実直な態度で首を振る。


「無理。座席を改造するとなると、突貫工事でも最低1日はかかる。今の状態で3人乗せて飛ぶとか絶対無理」


「……今乗せられる最大の人数は?」


「この機体は二人乗り。そっちのセイって子を奥の荷物置きへ無理矢理乗せれば、ギリギリ二人乗せられると思うけど」


「あたしかソウジが残ることになるってこと? ……それじゃあ意味ないのよねえ……」


 ――なんだよ、意味って?


 遠くで俺がマーリカへ問うと、あいつはニヤリと意味深な笑みを浮かべるだけで、まともに答えようとはしなかった。


 ……まあ、あのリアクションで多分ろくな話じゃねえってことはわかったが。


「うー……じゃあさ、片道の移動料金と改造費、多少色つけてあげるからさ、明日までにあたし達を乗せてジヨウ高原まで飛んでくれる?」


「明日までに機体の改造をすることはできる。けど……」


 ――なにか問題でもあるのか?


「……その事なんだけど、今の時期は――」


 エレンのセリフが途中で止まる。


 複葉機の陰から、飄々(ひょうひょう)と一人の男が現れたからだ。


「おいおいどこ行こうってんだ? 楽しい旅行の話か? 途中参加を希望してもOK?」


 現れた男は、長い髪をオールバックになでつけ、胸元を大きく開けた上質な皮のジャケットとボトムスを着こなす、ド派手な印象の男だった。


 端正な顔立ちだが、どこか危険な雰囲気も併せ持つ……チンピラ、というよりオラオラ系のホストみたいな男であった。


「レミリオ……」


 エレンが(いら)立ちを込めた声で、男を呼んだ。


「そんな露骨に嫌がらなくてもいいだろ? こう見えて、結構傷ついてるんだぜ?」


 レミリオはクスクスと笑い、ゆっくりとエレンへと近づく。


 エレンが彼へ背を向けると、レミリオはエレンの肩へ手を回し、強引に自分の正面へ向き直らせた。


「仕事中に悪いが、プロポーズの答えを受け取っていないんだ……そんな油まみれになって必死に働くよりも良い暮らしさせてやるぜ? 俺の元へ来いよ。一生愛してやるからよ……」


 レミリオはエレンの顎を右手で傾かせ、ゆっくりと顔を近づける。


 唇と唇が触れそうになる刹那(せつな)、エレンはきっぱりと言った。


「アンタと結婚するくらいなら死を選ぶ。本当に無理だから」


「そう言うと思ったよ。だからこそ、意地でも落としてみたくなる」


 レミリオはクスクスと笑い、エレンから俺達へゆっくりと向き直る。


「あの子のお客様第一号か、礼を言わせてくれ……改めて自己紹介するが、俺はレミリオ。エレンの将来の旦那になる男だ。よろしくな?」


 うわあ。よろしくしたくねえなあ。


 しかし俺の思いとは裏腹に、奴はマーリカやセイと握手を交わした後、遠くにいた俺にまでわざわざ握手を求めてきた。


 しぶしぶ握手をすると……レミリオは、俺の顔を見つめたまま、いつまでも手を離そうとしない。


 ――何か……?


「光栄だと思ってね。影の大男からこの街を守った英雄の転生者さん。実は、ずっとアンタと話をしたいと思ってたんだぜ?」


 ――へえ……


「……あれだけの偉業を成し遂げて、誇るでもなく謙遜(けんそん)するでもない。他人事みたいなリアクションとはな……イカレてるぜ」


 ――は?


「あ、悪い悪い。口癖なんだ、“イカレてる”。一応褒めたつもりなんだぜ? 一応な?」


 飄々(ひょうひょう)とした調子で笑うレミリオ。


 悪い奴……ではないかもしれない。


 だが、決して信用することはできない。そう思った。

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