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転生者殺しの第九騎士〈ナイトオブナイン〉  作者: アガラちゃん
八章「風と共に出立つ」
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8章-(1)色々とヤバい店

「それじゃ、ちゃっちゃと着替えようか、お嬢サマ?」


「……!」


 マーリカの言葉に、セイはブンブンと首を横に振る。


「あのさ、アンタのその格好、逆に目立ってるってわかってる?」

「?」


 何を言っている? わたしは完全に庶民に溶け込んでいるはずだ。セイの表情はそんな様子だった。


「……浮浪者でももうちょい良いモン羽織(はお)ってるっつの。ほら、サッサと入る! アンタみたいな格好の奴と一緒に歩きたくないのこっちは!」


 マーリカはセイを強引に一軒の店へと押し込んでいった。

 看板を見る。「ya・phoo」とだけ白文字で描かれた黒地の簡素な看板だ。


 ……なんの店だ、ここ?

 若干の不安を覚えつつ、俺は二人の後を追い、店内へと足を踏み入れた。


「やーどうも、いらっっっしゃい!」


 髪を油で鬼のような七三分けに固めた、クセとアクの強めな親父が店の奥からまろび出てきた。


 ――あの、この店、どういう……?


「ああっ! ウチはそう……衣服と雑貨を扱う、生活自体のファッションをコーディネートするという、そういう趣向でして……」


 髪と顔をテカテカさせながら、やや小太りの親父がニヤリと笑う。


 ……衣服を扱う店ってんなら、商品の服を見えるように展示するはず。周りの木箱に服が入っているんだろうが……なぜ展示しておかないんだ?


 ていうか、ファッションをコーディネートとか……なんかこの店親父を含めてクッソ怪しいんだが。


「ちょっとなに? あたしのお気に入りの店になんか文句あるわけ?」


 セイを押し込めたであろう更衣室から、マーリカが顔だけ出して抗議しだした。


 ……いやまて。ちょっと待て。お前の? お前のお気に入りっつったか?


「そうだけど? それが?」


 ――お前はドの付くほどのマゾで、ドの付くほどのサディストだよな?


「そうだけどそれが?」


 俺は額に手を当て、しばし脳をブレークさせたあと、意を決して周りにある木箱を開けてみた。


 すると――俺の嫌な予感が的中した。


 箱の1つには大量のバラムチ。


 もう1つには真っ赤なローソクがぎっしり詰まっており、その隣には何十本もの荒縄が入っていた。


 ――おいオヤジ、この店イチオシの服は?


「へへっ! お目が高い! こちらでございまさぁ!」


 ガラガラと滑車付きの台で運んできたのは……木製のマネキンにアイマスクとギャグボールをかまし、さらに黒皮のベルトやらを幾重(いくえ)にも巻いた、コア過ぎる本格的な拘束具であった。


 ――よし撤収!


 俺が脱衣所にいるであろうセイを救出しようとしたとき、この店のテカテカ親父が雷光の如き素早さで俺の進路を(さえぎ)った。


 ――どけ! 道開けろ! 俺達は帰るんだ!!


「一体当店の何が気に入らないというんです!? 納得できる説明をしていただかねばテコでもここは動きませんぞ!」


 ――全部だ全部! 気に入る要素一個もねえんだよ!


「あー、あれじゃない店長? あの服女物だったしさあ?」

「なるほど、男性向けの商品をお探しで! へへっ! それならそう言ってくれなきゃあ!」


 ――いや違えし! おいオヤジ! 奥から変なもん持ってくんな!


「こちらの商品なんてどうですかなお客さん!?」


 滑車付きの台に乗せられていたのは、やはり木製の男性マネキン。


 そいつは黒い皮の帽子にサングラスを着け、上半身が黒革のトゲ付きサスペンダーを身にまとい、下半身はピチピチの黒皮のトゲ付きブーメランパンツを穿き、足下はトゲ付きのロングブーツという出で立ち。


ハードでありなおかつゲイな風味漂うその圧倒的存在感。こいつでぶらりと一人街に出てみれば、警官よりも機動隊が駆けつけるやもしれん。


「やだソウジにめっちゃ似合いそうじゃん!? 買いよコレ!!」


「へへっ! 毎度っ!!」


 ――いらんし買わん!! 誰が着るかこんなもん!!


「えー? いいじゃん? 二人であの服着てさ、その辺のダンジョンうろついて冒険者連中ビビらせようよー?」


 ――そりゃあダンジョン攻略中にハードSMプレイ中の輩に出くわしたらビビリ上がるだろうよ。トラウマレベルの精神ダメージだわ。


「いいじゃん? ダンジョンにそういう出会いを求めてもさ?」


 ――出会いを求めるのは間違ってねえかもしらんが、プレイを求めるのは間違ってんぞ。つか、新手のモンスターと間違えて斬られるんじゃね?


「へへっ! お気に召したご様子で!」


 ――召すかこの野郎! 今の会話で俺が気に入った風なこと一言でも言ったか!?


「ぬうう! さっきから聞いていれば! 一体当店のなにが気に入らないのです?」


 ――全部だ全部! 服屋名乗るならもっとまともなモン用意しとけ!


「はあ!? 失礼だが私の店に入ったのは君自身だろうキミい!? 勝手に店に入って勝手にキレるとか何様のつもりなのかねキミい!?」


 ――いやキレんなよアダルトショップ店長が!


「アぁダルトショッッップの何が悪いというのだねえ!? 私はこの街の住人の! 性的なフラストレーションを解消するべく、マニアックな人々のニッチなニーズに応えているだけだ! マジョリティーの共有する勝手な常識とやらに押し潰され! それでもなお懸命(けんめい)に生き続けるマイノリティー達へ、ほんの少しの安らぎを与える……! そんな私の仕事に異議があるというのなら! もはや戦争しか解決手段はないと知れい!!」


 ――戦争っ!?


「私は本気だ! 祖父・父の代を受け! 三代目のSM店を襲名(しゅうめい)したその日から! 私は覚悟したのだ……! この店で生き、そして死ぬと!!」


 ――そしてSMアダルトショップに骨を埋める覚悟完了っ!?


「愚問! なぜなら無論であるからだ!!」


 ――ていうか親子三代揃ってSMショップ店長て!?


「当然! この店は祖父の代から続く堂々たる老舗(しにせ)、その(れき)およそ100年である! 凡百(ぼんびゃく)()()アダルト店と一緒にされては困る! 困るのだぁぁっ!!」


 ――百年続くSM店……引くわあ。


「引くな!」


「引くなあっ!!」


 店長とマーリカから同時に制止される。

 いや……ていうかマーリカ、お前この店がどんな店なのかわかってたんだよな?


「そうだけど?」


 ――わかっててセイをこの店に引きずり込んだんだよな?


「引きずりこんだって表現は気になるけど、この街で一番ひいきにしてるお店だしね? 多少はまあね?」


「へへっ! マーリカさんには毎度のご厚意ご愛顧(あいこ)のほど、誠に感謝申し上げますれば……!」


 ――よし撤収!!


「「待て待て待て待ってってば!!」」


 親父とマーリカから同時に制止された。


「いったいなぜそう(かたく)なに帰ろうとするのです!?」


 ――SMショップだからだ!


「SMのなにが悪いってんのよ!」


 ――子供がいるからだ!


 俺がそう言うと、マーリカと店長がなぜか「フッ」、という鼻で笑うような表情を浮かべる。


 ――な、なんだよ……?


「では、まあ……」


「論より証拠、ってことで……」


 マーリカは、突然脱衣所の扉を開け放った。


 ……俺は危惧した。拘束具のようなものに縛られたセイの姿を。


 だが――脱衣所の中から現れた、あの子は違った。


 濃いオレンジ色を基調とした、可愛らしい衣服と小さなケープを身につけた姿。


 鮮やかな緑の髪と映える、実にまともな服装であった。


「あたしが選んだんだけど? なんか文句ある?」


 ――いや、その……まとも過ぎてリアクションに困る。


「まあ、この店表向きはフツーの衣料品店だしね? 多少はね?」


 ――表向きとか。


「商売ですからね? ニッチ層狙いつつコンスタントに売れる商品を売るのは基本というか」


 ――SMに骨うずめるんじゃなかったのかよ?


「愚問ですな。私だって……普通にお金儲けは……したい!!」


 ――じゃあもうそのまとも路線の服を売り続けろよ……


「…………」


 じっ、と俺を見つめるセイ。


 似合っているかどうか知りたいのだろうか? 俺は彼女の頭を軽くなで、似合ってるぞ、と言ってやった。


 だが……彼女はなぜか、ぶすっと不機嫌そうにむくれてしまった。


 あれ? なんで?


「あー、この子、黒い服が欲しいって必死にアピールしててさ。なんか、アンタの着てる服みたいなのが良かったみたい」


 ――なんで?


「さあ? この子に聞けば?」


 ――また無茶なことを。


「しかしまあ、私の店で黒い服といえばその……皮やらボンテージやら、そういうものしかなくってねえ……流石のウチもジュニアサイズは入荷しておりませんでして」


 ――あったら着せてたみたいな言い方はひっかかるが、まあ良し。今後もそんなモン入荷するんじゃないぞ。


「ついでに護身用の武器も見繕(みつくろ)ったわよ。ほら」


「!」


 マーリカに促され、セイは背中の武器をスラリと抜いてみせた。


 小型の片刃剣だ。長さは大体脇差(わきざし)しくらい。刀身はやや幅広で厚みがあり、それなりに重いのだろう。握っているセイの手が若干プルプルしている。


「へへっ! この剣の一番のセールスポイントはここでさあ!」


 店主のオヤジが剣の一部を指さす。見ると(つば)の根元付近に、銃のトリガーのようなものがあった。


「ちょいと面倒な仕掛けですが、まあ慣れれば1秒掛からずに装填できますぜ!」


 オヤジがセイから剣を取り上げると、ポケットから銃の弾丸のようなものを取り出した。


「“スペルシェル”ですよ。スタンショックの魔術を組み込んでおります」


 ……これは、もしかしてあの列車強盗の連中が持ってた、魔術を放つ銃の弾丸か?


 オヤジは弾丸を剣の柄へと装填し、柄の底を手で強く押し上げた。


 ジャカっ!という音で柄が上下に動いた。


 銃のスライドを引き、弾丸を薬室(チェンバー)へと送り込む様子とほぼ同じだ。


「これで準備完了。このまま引き金を引けば――」


 バァン!


 閃光。そして極太のムチで叩いたような激烈な音が、狭い店内に響き渡る。


 音と光だけで、この剣がとんでもないレベルの電圧を発したというのがわかった。


「とまあ、こういうユニーク機能付きの仕掛け剣ですよ」


 キーンという耳鳴りのせいで、ほとんどオヤジの声が聞こえない。


 傍らを見ると、恐怖で顔を真っ青にしたセイが、ブルブルと両手を震わせながらマーリカにしがみついている。


 一方のマーリカは、なぜか先ほどの電撃に性的な興味をそそられたらしく、若干顔を赤らめて興奮していた。


 ――電撃強すぎねえか? 子供に持たせて良いレベルじゃねえだろ、それ。


「まあ、まだまだ長い旅が続くわけだしさ? 非戦闘員のお子様に持たせるなら過剰なくらいでちょうどいいでしょ?」


 ――使い方間違えたらこの子の身も危ねえだろ?


「だから、この子にこんな武器使わせないようあたし達がやりくりしなきゃいけないわけよ。心配ならアンタがこの子を守り通せば良い。違う?」


 ――いや、まあ、そうなんだが……


 俺がそう言うと、なぜかセイが物陰で小さくガッツポーズしていた。


 よくわからないな、この子の考えていることは……


「それじゃあオッチャン、お会計よろしくー」


「あいよ! ジュニア服上下セットにスペルソード、男性用ハイパーバイオレンス皮装備一式、女性用ハイパーバイオレンス皮装備一式」


 ――入れんな! さっきの邪悪装備しれっと入れんな!


「なによお? あたしの趣味で買うんだからいいでしょ?」


 ――お前の持ってる金には俺の分も含まれてんだろうが! 買わねえし買わせねえぞ!


「ちぇー」

「ちぇー」


 可愛らしく肩をすくめてみせるマーリカとオヤジ。

 もうお前らでコンビ組んで旅しててくれ……

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