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転生者殺しの第九騎士〈ナイトオブナイン〉  作者: アガラちゃん
七章「影は常に足下にて」
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7章-(3)ジュンの過去

「……大斧なんて持っている冒険者は少ない。そんな武器を握っていて、しらを切り通せるとでも――」


「なら、よく見てみろ」


 斧の男が、あごでしゃくってみせた。


 ジュンの左側、その方角を見ると――地面から斧を持った、影の男が現れる所だった。


「く……また……!」


「撃つな」


 斧の男は、ジュンの拳銃を無理矢理下ろさせる。


「見ろ。よく奴の姿を見ろ」


「さっきから見飽きるほど見てる……! 一体なんの話を――」


「足下までちゃんと見ろ。奴の右腕。あの鎖はどこに繋がっている?」


「足下……?」


 わたしは斧の男の言う通り、影の男の鎖を見た。


 右腕の代わりに肩から生える6本の鎖。


 鎖は地面から伸びていて、さらにその地面には黒い6本の鎖の影が、赤い夕日によって浮かび上がっている。


 鎖の影を追う。ぐにゃぐにゃ大きく蛇行する影を追っていくと……全てが一ヵ所に繋がっていた。


 ある一点の影へ。


 ――ジュンの足下の、影へと。


「なに……これ……どういうこと……!?」


「どうもこうもねえだろう」


 斧の男は軽く肩を落とし、言った。


 おそらく――ジュンにとって一番の“禁句”を。


「お前が“生み出した”もんだろ? 俺の知ったことじゃねえ」


「う…………」


 ジュンは銃を地面へ落とし、ひざから地面に落ち、へたり込んだ。


「う……産み……」


「おい、どうした――!?」


 斧の男が振り返る。


 同時にわたしは驚いて、尻もちをついてしまった。


 ジュンと男を中心に、およそ50近い影の男が音もなく現れたから。


「……おい、あんた……」


 斧の男が目だけでジュンを見る。

 だけどジュンは、なぜか頭を抱えてブツブツと何かを呟くだけだった。


「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめん、ごめん、ごめん……」


「何やってんだ……あんた、もしかしてこの魔法を使いこなせて――っ!!」


 影の男達が一斉に二人へ斬り掛かる。


 斧の男は一瞬早く動き、周囲を斧で大きく薙ぎ払った。


 綺麗な円を描くような一撃は、次の瞬間おびただしい影の男の残骸をぶちまける。


「鬱陶しい……!」


 キン、という金属音が聞こえた。斧の男が、自分の武器のロックかなにかを外した音らしい。


 後ろから波のように襲いかかる影の男達。


 斧の男は再び武器を薙ぐ。


 だけどそれは先ほどとは違う。斧の柄から刃が外れて、鎖に繋がった刃が回転しながら影の男達を次々切り裂いた。


 鎖を2周、3周させると、影の男達は全て斬られ、ドロドロの状態になってしまった。


「…………」


 だけど斧の男は武器を下ろそうとしない。


 ドロドロの影の残骸から、またあの影の男達が次々現れたからだ。


「……きりがねえな」


 そう呟く斧の男。だけどその時、男の目が驚くように大きく開いた。


 現れた影の男達。彼らは顎が裂けるほど大きく口を開き、ゴボゴボという嫌な音と共に(のど)の奥から声を発した。


『――人殺し』


 奇妙な声だった。発音の途中で高くなったり、低くなったりする、神経を逆なでするような嫌な声。


「機械音声……?」


 斧の男が呟く。周りにいた影の男達が、一斉に声を上げる。


『人殺し』

『人殺し』

『人殺し。人殺し』

『人殺し。人殺し。人殺し』

『『人殺し。人殺し。人殺し。人殺し』』

『『『人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し』』』


「……やめ、て……」


 うめくように、ジュンが、呟いた。


「仕方なかった……私、死ぬかもしれないって言われて……でも産みたかった……産みたかった……のに……」


 うずくまるジュンに、斧の男たちは容赦(ようしゃ)なく言葉をぶつける。


『はあ? 言い訳だろ? お前人一人殺してるってわかってる?』


『何で堕ろしたの? ねえなんで? どうして産んであげなかったの? その子に罪はないよね? 子供はお前のおもちゃじゃないよね? お前が殺す権利ないよね!? ねえ!?』


 がたがたと震えながら、ジュンは、うずくまりながら、答える。


「子供を諦めるか……私が死ぬか。どっちかだって医者から言われて……私は。私は……親になるってことすらわからなくて……死ぬのが、怖くて……」


『だから、言い訳だろ? それ?』


 影の男達が、不愉快な音程で口々に彼女を責め立てる。


『お前が堕ろしたってことには変わりないんだろ? 子供よりも自分の命が愛おしかったってことだろ? 認めろよ? 言い訳しないで認めろよ!?』


『呆れるわー。今よりも医療技術の低い時代は、それこそ命がけで子供産んでたわけよー? 自分が死ぬかもしれないから堕ろすってー? マジで、アンタ自分を悲劇のヒロインかなんかって思ってなーい? 人殺しのくせにー?』


『それお前の子供にも言えるんかwww死んだお前の子供にww言えるんか??www』


『ファッ!? ワイ子供産んだら死ぬンゴ!? せや! 堕ろしたろwww』


『ほん糞。ガッキの墓の前で死ぬまで悔やむんやで』


『そもそもこいつ墓行かねえだろ。てか墓も作ってねえだろ。堕ろした子供は病院に処理任せてるだろうし?』


『ママー! 痛いよー!! どうして僕を傷つけるの? 僕を捨てようとするの? 僕何か悪いことしたの? どうして? ママ、ママ―wwww』


『そんなに大事な子供なら、なんで自分の命掛けてまで産もうとしないんだろうな? 自分の命が大事とか、結局子供に愛情がなかったんだろ? 育っていく胎児をガン細胞かなんかと同じかと思ってたんじゃねえの? ……マジ吐き気する。死ねばいいのに』


 影の男達の声に、ジュンは頭を抱え、“ごめんなさい”と(つぶや)くばかり。


『謝って済むとでも思ってんの? もう失った命は返ってこないんだけど?』


『どうせ考え無しに避妊しなかったんだろ? むしろ死んだ子供は幸せだっただろうな。こんなアホ親の子供に生まれなくてさ』


『わかってないだろうからもう一度言うぞ? お前人殺しだからな? どんな理由があっても自分の子供見殺しにしたことは変わりないからな? お前が人殺しって事には変わらないからな?』


 うずくまるジュンを囲み、影の男達は「人殺し」の大合唱を繰り広げる。


 なんとなくわかった。ジュンに過去、何があったのか。


 でも、この影の男達に責められるいわれはどこにもない……!


 やめて! とわたしがいいかけた、その時。


「お前ら……いい加減に……!?」


 斧の男も気づいた。


 周囲の異変に。


 影の男達が――まるで氷が溶けるように、下半身を地面に落ちる影の如く沈ませ、ある一点を目指して影を伸ばす。


 中心でうずくまる――ジュンへ向かって、ドロリとした影が次々とジュンへ押し寄せ、塗りつぶし、どす黒く浸蝕してゆく……!


「――マーリカ!」


 斧の男が叫ぶ。


 同時に、わたしは自分の背後に近づく、津波のような影の塊に気が付いた。


 避けられない。


 こんなところで……わたしは……!!


「――世話焼かせるよね、ホントに」


 女の人の声。


 同時に。


 力強い腕に抱えられ、私は一瞬で影の津波の後方へと移動していた。


「ふう……怪我ない、お嬢サマ?」


 ポンポンと頭を軽く叩く、女。


 白いワンピースの女……! あの斧の男の片割れだ……!


「助けてあげたのにそんな顔するんだ? 助けなきゃよかったかなー?」


 クスクスと寒気がするような笑い方をするワンピースの女。


 次々押し寄せる影の波を避けながら、斧の男がこちらまでやってきた。


「なんなんだアレは……あれも転生者の“能力”だってのか……!?」


「んー……まあ、能力ってったらそうなんだけどねー」


 歯切れの悪い回答をするワンピースの女、マーリカ。


「本人の意思とは関係なしに発動した……多分アレ、暴走してるんだと思うよ?」


「暴走……!?」


「うん。さっきも言ったでしょ、ソウジ? 転生者の一番の強みは想像力(イメージ)。でもイメージってのはあやふやだから、プラスに働けばマイナスに働くこともある……あれはマイナス幅に振り切れ過ぎて、能力が暴走してる状態だと思う」


「能力の暴走……」


 愕然と呟く斧の男――ソウジ。


 わたし達三人が見ている間に、ジュンへと集まる影はどんどん数を増やし。


 ジュンを中心とする2メートルくらいの影の塊が、徐々に4メートル、6メートル、8メートルとどんどん高くなって……


 ついには、20メートル近い高さにまで成長した。


 影の塊は音を立てずに形を変え、球体から徐々にあの影の男のような形に変わっていった。


 血のような夕日を覆い()くさんとする巨大な黒い男。2本の巨大な足が動き、レンガ造りの街をグシャグシャあっけなく踏みつぶしていく。


 街のところどころから上がる悲鳴。


 巨人。とても人間が太刀打ちできそうもない、絶対的な怪物……! 


 恐怖で固まるわたしをよそに、マーリカとソウジは気楽な調子で会話をしていた。


「怖い? ソウジ? あんなデカブツを相手にするのってさ?」


「……ビビった奴からくたばるんだよな?」


「そういうこと。怖くても意地でも“怖い”って言わないなら戦える――んじゃ、行こっか?」


 相手は移動するだけで次々と街を破壊し、街を悲鳴と恐怖のるつぼへ貶める、巨大な怪物。


 この二人は――立ち向かおうというの? たった二人で……!?

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