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転生者殺しの第九騎士〈ナイトオブナイン〉  作者: アガラちゃん
六章「盾は誰のために」
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6章-(7)始まり、そして終わる

「――わかった? 最強のチート転生者サマを倒すコツがさ?」


 明るい少女の声。


 マーリカの声。


 俺は目を開けて……現実を再び直視した。


 胴が真っ二つに裂かれた状態……


 そうか。

 やはり、俺は敗北したのか……


「魔法は使い手の精神状態に左右される……お前の言葉に揺さぶられた結果、因果律操作なんてとんでもない魔法でも、俺の魔法で対抗出来るほど弱体化したってことか……?」


「ピンポーン。あたしみたいな転生者じゃない人間や、ソウジみたいな半端者じゃ、最強のチート転生者相手にまともにやり合って勝てるわけがない。あいつらの言う“レベル”を、あいつらと同じくらいまで引き上げるなんて土台(どだい)無理な話ってわけ」


 その時、マーリカは恐ろしく冷酷な笑みを浮かべた。


「……相手と同じレベルまで上げられないなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 転生者の一番の武器は“想像力”。こいつみたいに、望めば都合の良い強力なトンデモ能力をお手軽に手に入れられるからね。

 ……でも()()()()()()()()()()()にもなる、こいつらが自分の能力を疑い、能力を否定した時、最強のチート能力もかたなしになるってわけ」


ソウジは腕を組み、納得したようにひとつ(うなず)いた。


「なるほど。さっきのお前の発言もそうだったな……因果律操作なんていうトンデモ魔法を、俺と同じ時間操作魔法と同じと断定(だんてい)し、思い込ませることで奴の魔法の“レベル”を下げたってわけか……おかげで俺の魔法ですら操れるようになった。ようはハッタリか?」


「そういうことよ。ケンカでもそうでしょ? 先にビビった奴が負けるわけよ」


「魔法なんてものがあるファンタジー世界でも結局は気合いか? がっかりだな」


「……結局最後に勝つのは、誰よりも深い“執念”を持つ奴だからね。

 転生者と戦う時は、相手の能力を把握して、それを逆手に取り、どうやって相手の心を(くじ)くかを考えなさい。

 “お前の能力なんて全部お見通しだ”ってな態度で、相手の能力を(あざけ)(ののし)り続けるわけ。こじつけでもなんでもいい。相手が自分の能力を過小評価したり、こっちの力を過大評価してくれればそれでOK。少しでもビビればすぐに能力に影響するからさ」


「……漫画やアニメに出てくる悪役そのものだな。常に上から目線で相手のマウントを取り続けるわけか?」


「まあね。ようは意地の張り合い。こっちのハッタリを見破られれば全部オシマイだから、あたし達は常に余裕の態度を見せなきゃいけないわけよ。

 ――例え自分が血まみれで死にかけ同然でも、余裕の笑みを浮かべ続けなさい。とことん意地を張り続けて、相手が(ひる)めばこっちのもの。最後の最後まで執念深く、勝利を得る瞬間を待ち続ける――それがチート転生者との戦い方よ」


「……効率の悪い戦い方だな」


所詮(しょせん)あたし達はチート能力持ちじゃないからね。泥臭い根比(こんくら)べで強引に勝利をもぎ取るしかやりようがないのよ」


 ……なるほど。


 そういうことだったのか。俺の魔法を時間操作で使われたのも、全て奴らのハッタリ。


 汚い奴らだ……俺は腹立たしく思った。


 だが、そんな思いとは裏腹に、俺の胸は不思議な充実感で満たされていた。


 幸せで満ち足りた毎日。でも、目標もなく繰り返しのように続く毎日。


 そんな中で。


 初めて、自分の能力を、意思を、自分の持てる限りの力を全て使い()くした時間。


 俺はやり切って、そして燃え尽きた。


 満足だ。もう、思い残すことなんて何一つない。


 大量の出血で体が冷え、身震いを1つ。ゆっくりと目を閉じる。


 すると――これまでの思い出が、まさに走馬燈(そうまとう)のように目の前に鮮明に浮かび上がった。


 子供の頃の家族との幸せな思い出。


 友達と過ごした楽しいひととき。


 好きな女子と初めて会話できたあの時。


 職場で嫌いだった上司が、不意に俺に掛けてくれた、優しい一言。


 ――そして。


 アリサとミリア。


 二人と過ごした時間はなにより鮮やかで。


 なによりも――幸せな時間だった。


 ああ。


 こんな光景をかみしめながら、こんな気持ちで逝けるなら……これほど幸せなことはない。


 俺にはもったいないほど、幸せな人生だったと、胸を張って言えるだろう。


 ……それなのに。


「ソウジ、って言う名前なんですか? すっごく強いんですね! わたしビックリしちゃった! ソウジ、って呼んでもいいですか? いいですよね?」


「わたし達……ソウジさんと旅をしたい。きっと、わたし達ならそこの女よりもずっとずっと気持ちよくしてあげられるよ……? ねえ、ソウジさん……?」


 現実のアリサとミリアは、俺はもう用済みとばかりに、ソウジに対して恥知らずに猛アピールをかましていた。


 ……やめてくれ。


 俺の思い出を……汚すのはやめてくれ……!!


「えげつないほど手のひら返すわねえ。で、どうするソウジ? こいつらも一緒に連れて行くの?」


 ケラケラと笑うマーリカに対し、ソウジは無言で、ゆっくりと俺に向き直った。


「……お前はどう思う?」


 なに?


「お前に決めさせてやる……この二人をどうする?」


 …………


 俺は、目を閉じ、再び幸せな光景を呼び戻しながら――はっきりと言った。


「……殺してくれ。俺の知る二人は――もういない」


「はあ!? ざっけんなよテメエ! わたし達がどんだけお前に()びてやったと――」


 ザン! という肉を()ぐ音。


 どうやらあの二人……ソウジに斬られてしまったようだ。


 だけどもう……何も見えない。

 何も、何も、見たくない。


 目から、とめどなく涙があふれた。


 ああ。

 ……ああ。


 アリサ……ミリア……!






 その時だった。






『……ここは?』


 ハッと気が付くと、俺は草原の真ん中に寝転がっていた。


 どこまでも続く青い空。のんびりと浮かぶ白い雲……


 ぼんやりと眺めていると、遠くから声がした。


『ケイシーい! いい加減寝てないで、さっさと行こうよおー!』


 アリサ……?


『ケイシ……! 次は上弦国の“黒蜥蜴(とかげ)の洞窟”へ行く約束だよ? みんなで、行こ?』


 ……ミリア。


 ザッ、と吹き流れるさわやかな風。俺は身につけていたマントを(ひるが)えさせ、ゆっくりと二人の元へと歩いて行く。


 ずっと一緒だ。3人、一緒だ。


 これからも――いつまでも――

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