6章-(4)弱者の心理
この里の長老……リゲルドさんの生首だった。
「あたし達がこの里に着いて所属を明らかにしたらえらい歓待してくれてさ。里を案内しながら、里の歴史やら人間達に迫害された恨み言やらをアホみたいに気持ちよく話してたわけよ。ほんと笑っちゃう。
だから首刎ねてやったの。人間やっぱ気持ちいい時に死ねるのが一番でしょ? ま、流石に死んでもあのキモい笑顔のままってわけにはいかなかったみたいだけどさ?」
続けて、斧の男が口を開く。
「いきなり里のトップが斬られたわけだ。里の連中はパニックを起こしてな。連中が態勢を整える前に戦士連中も片付けた。
……この世界の魔法ってのは精神の状態によって威力や精度が大きく変わるらしいな。恐慌状態の連中はろくに魔法を唱えられなかった。逃げ惑う連中の背中へ一太刀くれてやるだけの仕事だ。驚くほど簡単だったよ」
「そんな……そんな……」
顔面蒼白で恐怖の顔を浮かべるミリア。
姉のアリサは彼女をかばうように、斧の男とワンピースの少女へ問い質す。
「一体何なの!? あんた達は何者なの!? 村の人達が歓待したって……一体何者なのよ!?」
「……それじゃあ改めてご挨拶」
ワンピースの少女は冷酷な笑みを浮かべ、ワンピースの裾をつまんでお辞儀を1つ。
そして、その正体を明かして見せた。
「あたしは〈ナイトオブナインズ〉の“5”。マーリカ」
少女――マーリカは傍らの斧の男を肘で小突く。嫌そうに顔をしかめながら、しぶしぶ斧の男が名乗る。
「……〈ナイトオブナインズ〉の“9”。シダ・ソウジ」
ナイトオブナインズ。
その名を聞き、アリサとミリアは愕然とした表情を浮かべた。
「お姉ちゃん……ナイトオブナインズって……!」
「聞いたことある。魔人を救うために6大国に宣戦布告したっていう組織……! でも、でもなんで!? どうしてこんな事を!?」
「さっき言った通り、依頼だ」
「ナイトオブナインズはわたし達魔人の味方のはずでしょ!? どうしてわたし達の里を攻撃したりするのよ!?」
「……あーやっぱりね。ラースの言ってた通り、勘違いしちゃうアホが出てきちゃったかー」
マーリカはポリポリと首の後ろをかき、面倒くさそうに言った。
「あたし達の目的は6大国の滅亡。あんた達魔人のためだなんて一言も言ってないのよ? いずれあたし達の名前に期待して、利用する調子乗った魔人達が現れるって言ってたけど、こんなに早く会えるなんてねー」
「魔人のためなんかじゃ……ない……?」
絶望の表情を浮かべるミリア。
追い打ちとばかりに、斧の男……ソウジが口を開く。
「魔人達のためというなら、なおさらお前らを駆逐しなけりゃな……お前ら、すこし暴れすぎたみたいだぞ」
ソウジは懐に手をやり――1枚の薄い木板を見せた。
それは、この世界に存在する吸血鬼達を束ねる宗家、始祖一族からの書状であった。
「かいつまんで内容を言うと、『人間とどうにか共存できないか模索している状況で、お前ら末端の分家に好き勝手暴れられて迷惑だ。もうお前らを同族として扱うことはしない。この世から消えろ』ということだそうだ。
……そこにいる転生者の力を利用して、周辺の村を次々襲っていたそうだな? 山奥で惨めに暮らしていた所で、運良く転生者を見つけ、まさしく虎の威を借る狐として好き放題していたんだって? 魔人のためってんなら、魔人達の誤解を増長させるお前らをまず始末しないとな」
……確かに人の村を襲ったことはある。
だけどそれは、彼らの里を迫害しようとしていた連中だったから。俺はそう聞いていたから力を貸していた……
……全部、嘘だったというのか……?
「良い社会勉強になったでしょソウジ? 強者に迫害される弱者は強者に刃向かわず、さらなる弱者を見つけて痛めつける。
……例え差別や迫害を受けている奴らだろうと、“自分たちより下”と認めた奴には平然と自分たちが受けている以上の差別や迫害をやってみせる。これはどこの世界だろうと共通する真理の1つよ」
「思い起こせばガキの頃からそういうのあったよな。本当に、反吐が出る」
アリサはブルブルと肩を震わせて……キッと俺を見て、言った。
「ケイシ……こいつら、殺して」
「おい……アリサ……!?」
「殺してよ……!! わたしのお願い、聞いてくれないの!?」
いや……でも、これは……
迷っている俺の側へ、ミリアが近づき、俺の両手をぎゅっと握った。
「あいつら……わたし達の里の人達、全員殺しちゃったんだよ……? ケイシと友達だったヴェスタやジース、カレンもみんな……あいつらのせいで死んじゃったんだよ?」
「お願い、ケイシ……このままじゃあたし達も殺される。今まで騙したことは謝るから! 勝手かもしれないけど……お願い……!!」
……俺は。




