5章-(7)血に滾る
男が乗客達へ銃口を向ける――その前に。
俺はほとんど無意識に、二丁拳銃の男へと全力で疾駆!
「う、お、な何だテメエっっ!?」
慌てた男が俺に向けて引き金を引く。
だが当たらない。男の放つ魔術の弾丸はことごとく当たらない。
姿勢を低く。低く。されど足は止めず。
頭上を飛び足下を穿つ弾丸。されど止まらず。走る。走る。
風を体全体で裂くが如く疾走し――俺は勢いのまま男の股下から頭上へと斬り上げた。
両足で床にブレーキングし、ようやく止まる。
俺が斧の血を振り払うと同時に、真っ二つに裂けた二丁拳銃の男の体がぐしゃりと倒れた。
…………
これは。
俺の体は……
「ソウジ?」
マーリカの問いに答えず、俺は男が爆破した列車の天井を見上げる。
なんの気なしに、俺はその穴へ向かってジャンプしてみた。
すると――まるで重力すら感じないほど軽く、俺は一足飛びで3m近い列車の屋根へ降り立つことができた。
やはりそうだ。
以前よりも、身体能力が格段に上がっている。
体感として3倍以上の向上。
身体能力に付随する動体視力、反射神経も軒並みケタ違いに上がっているように感じた。
……第三支階。魔剣の力を引き出したことが理由だ。なぜか確信めいてそう思えた。
遠くを見る。列車の後方、雪で白く染まる銀砂漠の一角を埋める、100以上の肌色の馬。たるんだ皮膚を揺らし、いななきを上げながらこの列車を一心不乱に追いかけている。
手前の列車の側面を見る。
「ボスの弔いだ! 派手にやるぜ! ハッハー!」
列車の側面にぴったりと併走する、複数の馬車。
……いや、車を動かす馬がおらず、代わりに緑色をした魔法の炎に牽引される車体を馬車といってもよいものか。
馬のいない馬車に乗るのは例の強盗団たち。列車の車体にロープを括った鋲を打ち込み、ロープを伝って列車の屋根へと次々乗り移っている。
「よっと……うじゃうじゃザコが群がっちゃってまあ」
先ほどの天井の穴から、マーリカがひょいと身軽に屋根へ飛び乗った。
「前と後ろから強盗団の連中が来てるみたいだね。んじゃあたしは後ろの……ってありゃ、ソウジ?」
マーリカには応じず、俺は列車の屋根を疾走。
ロープを伝って登ってきた2人をまとめて斧で斬り飛ばした!
上半身が後方へ吹き飛び、遅れて下半身が血を吹きながら列車から振り落とされる。
亡骸は後方を走る馬たちに蹴られ、集団に踏みつぶされていた。奴らの貴重なタンパク源となり果てるのだろう。
右足に力を入れ、屋根の上でブレーキング。靴のソールが悲鳴を上げるが知ったことではない。
急ブレーキ後、逆側へ疾駆。
列車の走行する方向と同じ向きへ走る。
マーリカの側を駆け抜け――逆側へ降り立った強盗団の一人の胴を薙ぎ払った。
振り返る。俺が先ほどまでいた位置に、三人の男がロープを伝って屋根によじ登るところが見えた。
ウジャウジャと虫のごとく現れる盗賊団に怒りが沸き立ち、俺は感情のままに三人組に斧を投げつける。
ぐるぐると回転する斧は、余裕の表情で避けるマーリカの頭上を飛び、斧に気づき驚愕する3人の首を綺麗に刎ね飛ばしていった。
「――調子に乗りすぎだぜ、お前」
背後。強盗団の一人が、鉈を振り上げ俺へ向かって突進しているようだ。
俺は振り返らず――背後へ跳んだ。
「なっ!?」
背中で敵に体当たりした格好だ。鉈が振り下ろされる前に密着。完全なゼロ距離では、刃先の長い武器だと攻撃できない。
俺は間髪入れず、背後に回した手で男の胸ぐらを掴み、力任せに前方へ投げた。
「う、あ、あ……!」
逆さまの態勢で、驚愕の表情を浮かべて後方へ飛んで行く男。
そんな奴の背後に、俺が呼び寄せた斧が一直線に迫り――
男の首を斧はすっぱりと綺麗に切り落とし、従順に俺の元へ戻ってきた。
俺は刃先を除け、柄部分を左手で引っ掴む。
そして勢いを殺さず、回転で生かし、反時計回りに一回転。
斧の刃のロックを己の意思のみで外し、金切り音と共に回転する刃を列車の外へ放つ。
列車と併走する、魔法で動く馬車へと。
「おおっと!」
馬無き馬車に乗る男が、馬車を動かして斧の刃から逃れた。
「ハッハー! そこらのハエでも狙ってたのか? 馬鹿め……うおっ?!」
突如、馬無き馬車がぐらりとバランスを崩す。
それはそうだ。4つある車輪の1つを失ってしまったのだから。
……狙いは初めから車輪だった。列車側についていた前輪が失われ、馬車はヨロヨロとした動きで列車に接触。
その結果。
「ぎゃああああっっ!!」
速度を出すために軽く作られた馬車がそのもろさを露呈し、見事にバラバラに砕け散った。
馬車にいた数人の男が外へ投げ出され、さらに馬たちに蹴り飛ばされて無残な肉塊へと一瞬で成り果てた。
同じ要領で列車に併走する3台の馬車を砕き、強盗団の連中を残らず馬共にくれてやった。
……そこでようやく、俺は1つ、息を吐いた。
俺の胸の内に残ったのは……満足感だった。
斧が俺の精神を逆なでし、怒りの感情が胸の内からわき上がる。
だがその感情のまま体を動かすと、体全体に快感を伴う充足感で満たされるのだ。
殺すたびに怒りがさらに一層大きくわき上がり、怒りが俺の体を動かし、体がとてつもない怒りのエネルギーを血液一滴、細胞1つずつへとみなぎらせてゆく……
この快感。
感情のままに破壊する快楽。
怒りと快感がない交ぜになった強烈な衝動……血の滾り。
体が爆発しちまいそうだ。これも魔剣がもたらす感情なのか。
……それとも俺自身の……
誰かの笑い声が聞こえる。
違う。これは俺の笑い声だ。
例えようもなくたまらなく熱い滾りに、俺は無意識に狂ったように笑っていた。
「……ソウジーい。お楽しみの所申し訳ないけど、ちょっとマズいことになったわー」
背後からマーリカの困ったような声。
振り返ると――俺は唖然とした。
「そこまでだボウズ。これを見てもまだ笑っていられるか?」
生き残っていた3人の強盗団。そのうちの一人がマーリカの両脇を羽交い締めにするように持ち上げ、彼女を列車の外へ落とそうとしている。
「武器を捨てろ。でないと、お前の可愛い彼女を捨てることになる」
「そ、ソウジ……信じてるわよ? 絶対判断を間違えないでね?」
マーリカは顔面蒼白で冷や汗をかきながら、俺に向かって必死に命乞いをしている。
……なんだかな。
おかげで血の滾りが収まり、俺は瞬時に冷静さを取り戻した。
「おい。何迷ってやがる? 武器捨てるのか仲間見捨てるのか、簡単な二択だろうが?」
「武器を捨てれば二人揃って殺される……だから武器を捨てるのは下策。脅している間は女に危害を加えることはない……大方そんなことを考えているんだろうさ」
マーリカを持ち上げている男が、得意げに俺の心理を読み取ったようにほざいている。
奴には俺が動揺のあまり思考停止しているように見えるのだろう。呆れているだけなんだが。
「交渉は決裂。残念だな、お前は俺達を舐め過ぎた」
そう言い――男はマーリカの腕を放した。
「……え!? きゃああああっっ!!」
マーリカはとても可憐な悲鳴を上げて列車の外へ落下した。
……まさに茶番だな。全身が脱力しそうだ。
「ショックを感じているならご愁傷様だ。お前が判断を誤ったせいで、お前の彼女はスキンドッグ共のエサになっちまった。
意外だったか? お前が武器を捨てずとも、お仲間が減っただけで俺達のアドバンテージは上がるんだよ。そんな簡単なこともわからないとはな」
……調子に乗ってお説教までかましてやがる。これ以上は付き合いきれねえな。
俺はため息を吐き、馬鹿共へご丁寧にご忠告してやった。
――後ろだ。
「あん? 何を――!?」
3人組の一人が、突如列車の外から放たれたムチに細切れに切り裂かれた!
「――ひっっっどいわねーソウジ。ちょっとぐらい心配してくれてもよくない?」
マーリカだ。心配するだけ損をするしぶとさで、当然のように生きていた。
「な、何故だ!? 確かに外へ落としたはず……!?」
強盗団の2人が外を見て、驚愕する。
列車の外側、側面に、マーリカが氷で足場を作り列車に氷着していた。
「氷使い!? 油断を誘うためわざと落ちたってのか!?」
驚愕する2人の強盗団たち。
俺はため息を吐き、もう一度、こちらへ背中を向けるマヌケ共にご忠告してやった。
――後ろだ。
「へ」
一瞬で間合いを詰め、二人まとめて斧で胴を薙ぎ払ってやった。




