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転生者殺しの第九騎士〈ナイトオブナイン〉  作者: アガラちゃん
四章「伏魔会同」
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4章-(17)一応の決着

 倒せたのか? あのリントを……?

 そう思った刹那。


「……て、めえ…………」


 リントの声。

 ジュウジュウと肉の焼けるような音と共に、リントの下半身から急速にリントの頭部が再生してゆく。


「D級のザコがあ……何か隠してやがるな? 一体どんなチート能力使いやがった……!?」


 皮の再生が追いつかず、リントの頭部は筋繊維を剥き出しにしたままだ。

 しだいに首、胴、と順番に奴の体が急速再生されていく……!


「気が変わったぜ……まずテメエから消してやる……」


 マーリカに放たれようとしていた火球が、こちらを見定めるように、わずかに動いた。

 あれを放つ気か……! 俺は痛みを押し殺しながら立ち上がり、できるだけ早くその場を離れる。


 だが――くっ! 


 体に力が入らない。さっきの魔法の影響なのか……!?


 「どこ逃げようが無駄なんだよ……ファイアボール!!」


 ゴウ! と獣の咆哮のごとき音と共に、火球が真っ直ぐ俺へと放たれた!

 くそ、避けきれない……! こんな状態で使えるかわからんが、一か八か魔法を――!?


 その時。


 俺をかばい立てるように、人影がひとつ、目の前に現れる。

 イルフォンス。

 膨大な密度の血霧を纏い、刀を一閃。


 あの強大な威力の火球を――真っ二つに斬り裂いた!

 裂かれた火球が俺達の左右で弾け、轟音と爆風と土砂が容赦なく浴びせられる。


 ――イルフォンス、お前……


 風と音が止み、俺が奴に声を掛けると。


 パキン。


 澄んだ金属の音が鳴った。

 イルフォンスから。

 ……イルフォンスの持つ刀が、真っ二つにへし折れていた。


「…………宝刀キーディーン…………」

 驚愕と絶望……震える声でイルフォンスは呟いた。

 だが、リントはそんな彼の様子など全く意に介しなかった。


「防いだか。低級魔法とはいえ俺の全力を防いだのは褒めてやるぜ」


 リントが再生しかけの右腕で魔導書を手に取り、またあの火球を生み出そうとしている。


「次は3発同時に放ってやる! どこまで持つか試して――!?」


 リントは未だ皮の再生しきれていない顔を、ぎくりとこわばらせる。

 辺りの気温が徐々に下がる――マーリカが、急激に魔力を収束させている……!


「〈白劫柩(はくごうきゅう)〉! 熱を食らいし白き(いばら)! “血管”に根を張り滅封(めっぷう)せよ!!」


 マーリカは右手人差し指、中指に凍てつく魔力を収束。唇をあてがうと――フッ、と一本の氷の矢が放たれた!

 矢は再生しかけのリントの左腕へ命中。すると――左腕から徐々に、奴の肉体が凍っていく……


「く、くそっ!! どうなってんだ!? 俺は!! 全能力カンストの……こ、こんなの……!?」


 両腕を、胴を、両足を凍らせ、氷の茨はついに首から上までを浸食し始める。


「こんなの……クソゲーじゃねえか……!!」


 最後にそう言い残し、リントは決して溶けぬ氷の彫刻に成り果てた。





「もしもーし。ラース? 聞こえてる? あたし」


 マーリカ左手を耳にあて、ピアス型の通信機器でラスティナを呼ぶ。

 するとすぐに聞き慣れた女の声が俺の耳にも届いた。


『マーリカか……』

「“生きてるのが意外”ってな声ね? 傷つくなあ……ちょっと2人で話したいんだけど?」

『いいだろう』


 ラスティナが言い終えると、俺のピアスから二人の声が完全に聞き取れなくなった。

 俺は地面に座ったまま周囲を見渡し、ため息を吐く。


 美しい花畑はさっきの戦闘で無残にえぐられ、面影をほとんど残さない。

 そして辺りには生皮のはがれた状態で氷漬けになるリントに、首無し死体3つ。メイドの死体にいたっては戦闘の巻き添えで粉々だ。


 リントが倒されたからか、あの少女達の生首は完全に沈黙し動かない。

マーリカは首無し少女達の一人、一人称が“ボク”だった一番背の低い女の死体から服をはぎ取り、焼かれたワンピースの代わりに着用していた。


「……うん。そう……確かにあの時の七罰は全力だったとはいえないけど……ソウジの力は間違いなく七罰に届いた……あはは、うん。七罰相手に全員生きてるなんてすごくない?」


 ところどころ聞こえるマーリカの声。

 俺はゆっくりと視線を移動させる。

 地面に突き立ったままの、イルフォンスの刀の破片。


 戦闘が終わった後、イルフォンスは一言も発さず、一人でこの場を立ち去ってしまった。

 俺の声にも全く反応を示さず、折れた刀を握りフラフラとした足取りでどこかへ行くイルフォンス。

 魔剣を失った反動なのだろうか……マーリカの言う通り俺達は全員生き残った。だがあいつの心はもう……


「オッケー。ここにいる七罰の回収はよろしく。それじゃ、あたしとソウジはそっちに帰還するから」


 マーリカが通信を終え、俺へにっこりと笑顔を向ける。


「んじゃ、帰ろっか?」


 ――イルフォンスは……?


「んー……あいつにとっての心の支えだった魔剣、死んじゃったみたいなんだよね。たぶん、あたしらが連れ戻しても二度と前みたいに戦えないかもね。んで、そんな奴を連れ戻す必要なんてないじゃん?」


 ――仲間だろ?


「連れ戻すってことはイコールでまた戦わせるってことよ? 戦いのない場所で生きていく方があいつのためじゃない?」


 ――そうか……


 俺が納得すると、マーリカは再びクスリと笑い、座り込む俺へ右手を差し出してきた。


「今ならあたしの自慢のパートナー、って言えるかも。助かったわ、ソウジ」


 パートナー。あの城での一幕を思い出し、無意識に笑みがこぼれた。

 彼女の手を取り、痛みをこらえつつ立ち上がる。


(――ちょっと余計だったけどね)


 ぼそり、と背中を向けた彼女が呟く。

 え? と俺が聞き返すより先に、彼女は移動用の魔法を詠唱。

 俺の疑問が解消される間もなく、地面に現れた魔方陣が発動。強制的にラスティナのいる場所へと転送された……

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