表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生者殺しの第九騎士〈ナイトオブナイン〉  作者: アガラちゃん
四章「伏魔会同」
60/237

4章-(16)彼女の覚悟

 マーリカの鋭い声に、俺は一瞬動きを止めた。


「……今のアンタが来ても足手まとい。そこでじっとしてなさい」


 ――だが……!


「あたしより弱い奴があたしを守ろうなんて片腹痛いのよ……!」


 ――マーリカ!!


「……お願いよソウジ。アンタはあたし達の切り札。こんな序盤で失うわけにはいかないの……!」


 ……俺を守るために奴に立ち向かうというのか?

 理由は組織のためなのだろう。

 だけど、彼女が命がけで俺を守ろうとしている事には変わらない……!


「お涙頂戴のクッセえ展開だな? んじゃ、盛り上げるためにいっちょガチャってみるか」


 リントの携帯が再び発光。

 光の中から現れたのは――1冊の本。


魔導書(インストラクション)「ファイアボール」か。またとんでもなく最下級の魔法が出やがった。とことん運がねえな俺」


 自嘲ぎみにそう言った後、リントはニヤリと危険な笑みを浮かべた。


「ま、最下級魔法だろうが結局使い手次第なんだけどな?」


 革張りの本を開くと、ページの間から火の玉が1つ浮かび上がる。


「俺の魔力を加えれば――この通りだ」


 瞬間、火の玉は直径2メートルほどの大きさに膨れ上がり――


「……バン」


 ビーム状に放たれた巨大な火箭(かせん)が、マーリカへと放たれた!


 ――マーリカっ!!


 腹へ強烈に響く爆音! 視界を赤く染め上げる爆炎! 

 花々を散らす爆風が収まり、俺はマーリカの姿を探す。


 すると――煙の中に、地面へ伏せる彼女の姿があった。


 両肩を抱くようにしゃがみ込むマーリカ。ワンピースの背中部分が完全に焼失し、彼女の素肌が露わとなる。


「びっくりしたか? E級の魔法も俺が使えばAA級の“イビルバーン”レベルの魔法に早変わりだ。実力の差、ちょっとはわかってくれたかな?」

「…………!」


 マーリカは歯がみしながら、それでもキッと奴をにらみつける。

 ずっと両腕を抱き続けるポーズを続けるのは、ワンピースが落ちるのを押さえているからか。


「……そんな目でみるなよ。ちょっと脅かしただけじゃねえか」


 やれやれ、とため息を吐き、リントはゆっくりとマーリカへ腕を伸ばす。

 まずい。このままでは彼女が……!

 緊迫の表情で身構えるマーリカ。だがその時、リントは思いがけない行動をした。


 ポンポン、とマーリカの髪をやさしく撫でたのだ。


「……ボロボロじゃないか。女の子なのに、可愛い顔が台無しだぜ?」


 …………は?


「君みたいな娘は戦場よりも、もっと似合う場所がある……俺の所に来いよ。もう君は戦わせない。俺がいつまでも君を守る」


 …………はあ?

 こいつ……冗談だろ?

 さっきまで戦ってた相手を……口説いてやがる。


 リントは優しい笑みを浮かべたまま、マーリカの髪をなで続ける。

 マーリカはうつむいたまま、小さく、口を開く。


「…………な……」

「ん? 何か言った?」


 さわやかな笑顔で聞き返すリント。

 マーリカはそんな彼に、最大の侮蔑を込めた笑みを浮かべた。


「――イカ臭え手で髪に触んな、腐れ童貞」

「……口の悪い女は嫌いだ」


 リントは先ほどの魔導書を使い、先ほどよりさらに巨大な火球を生み出した。


「さっきのはわざと外してやったんだぜ? ……もう手加減はしねえ」


 まずい。今度こそ本当にやられる……!

 脇腹に激痛。だが構っていられない! 

 早く! 早く彼女の元へ――!


 だが――遠くの彼女は俺へと振り返り――笑みを浮かべた。

 これからのことはお願い――そんな、切ない笑顔で。


 まるで。

 まるで瑞希のように。


 彼女の口が、動く。


“バイバイ”


 ――だめだ。


『俺は壊すことしかできない』


 ――やめろ。


『……ほんと、あたしがいなきゃ何もできないんだから……』


 あの城のパイプの上で、彼女が言った一言。

 その声には――まるでできの悪い弟や妹を見守る、暖かさがあった――


 ――やめろぉぉっ!!


 時間を。

 ()()()()()()()()()なら。

 あいつと戦う前まで戻せたなら――!!


 俺の必死の願いを、黒染めの懐中時計の中に潜む奴が――歪めて叶えて見せた。


 ガチリ。

 歯車の噛み合う音。

 見れば、足下に青白い時計盤のような魔方陣が展開。

 秒針が指し示す先――リントの背後にもう一つ、青い時計の魔方陣が現れた。


「なっ……!?」


 新たに現れた時計盤の魔方陣が、時計の針を()()()()戻す。

 すると――魔方陣から、先ほどリントが放った火球が出現!

 先ほどと同じ軌跡を完全に再現(リピート)し、今度はリント目掛けて放たれる!!


「馬鹿な! 俺の魔法g――」


 言い終える前に、自身の魔法の直撃を受けたリントは上半身が焼失。

 骨すら残さず、半円状の焦げ跡を残す下半身だけがそこにあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ