4章-(15)勝率0
決着がついたかに思えたが――マーリカは切迫した表情で、次なる魔法を唱えている。
まさか――
俺の予想は的中した。
「――『氷使いは氷をぶつけるだけ』最初にそう言ったのを撤回してやるよ。あんたはこれまで見てきた氷使い共とは格が違う」
リント。先ほどの爆発を受けてなお、余裕の笑みまで浮かべて立つ。
……あの爆発を受けても傷一つ負ってない。どんだけチートなんだよあいつ……
「今までの氷魔法は全部今のための伏線だったわけだ。考えたねえ。実力だけなら並の転生者レベルじゃねえの? ……ま、それでも俺の体には傷一つ与えられなかったけどな」
リントは両腕を広げ、勝ち誇ったように己の能力を語る。
「“光の聖衣”。全身に気を纏うことで物理・魔法攻撃を遮断できる完全防御スキルだ。
ぶっちゃけ俺鎧とか本当は要らねえんだよね? このスキルのおかげで今まで一度もダメージ受けた事ないからさ? ははは、黙ってて悪かったかな?」
ケラケラと笑うリント。
……ここまでくると理不尽さに怒りすら覚えてくる……なんなんだあの野郎は……!
だが、マーリカは理不尽を具現化したような男を前に、平然とした態度を崩さない。
「へー。すっごいじゃん。どんな攻撃も全方位ブロックできるってこと? 魔法使わずにそんな芸当できるなんて流石ねー」
「だろ? 元々あんたらが勝てる確率なんざ0%なんだよ。無駄なあがきせずに絶望しな」
「わざわざ解説ありがとう……ところで、息苦しくなあい?」
「はは、何言って……!?」
瞬間、リントの余裕の笑みが消えた。
「がぶッッ!! ごほっゴボッ……! こ、こんな……ぐぶっ!?」
咳と共に、おびただしい量の血の塊がリントの口からあふれ出る!
……一体何が起きたんだ? 先ほど唱えていたマーリカの魔法なのか……?
腰を丸め血を吐き続けるリントへ、マーリカがクスクスと笑う。
「あーらら。痛ったそ~う。流石の最強転生者サマも笑っていられないのかな~?」
「がふっ!! あんた、一体何を……ゴホッ!! こ、この俺があ……?!」
血まみれで這いつくばるリントへ、疾風の如く馳せる影ひとつ。
イルフォンスだ。今がチャンスとばかりに駆け、血霧と共に躍りかかる!
だが――ギイン!
イルフォンスの攻撃は跳ね返される。リントが持つ木の棒によって。
「クソっ!」
イルフォンスは怒濤の攻撃を繰り出すが、それでも奴には届かない。まるで木の棒自体が意思を持っているかのように、イルフォンスの攻撃を全て防いでみせた。
「……言ったろ? 俺のスキル“見えざる盾”はどんな攻撃も自動で防御するってよ」
リントはイルフォンスの攻撃を弾き、返す刀で胸部に強烈な一撃を加えた。
「ぐ、おっっ……!」
「ゴホっ……驚いたぜ。この世界は固有抵抗値のせいで内部に直接ダメージは与えられない……だが例外があったんだな。本人が自分の意思で魔法を取り込んだ場合は」
口元の血を拭いながら、リントが先ほどのマーリカの魔法の種明かしをしだす。
「目に見えないほど小さいの氷の針。それを大気中に拡散。敵が気づかずに呼吸ともに針を吸ったとき――氷の針が肺を内部からズタズタにしてしまう。どうやら今のはそういう魔法みたいだな?」
リントは携帯に目を落としながらそう語る。敵の魔法を解析する能力か何かだろうか?
ネタばらしをされたマーリカは、冷然と腕を組み奴をにらみつける。
「まったくとんでもないぜ。さっきの爆発、あれは氷の針を察知させないための目くらましだったってわけか? 見た目に反してとんだ策士だぜ……」
俺は愕然とした。つまり……先ほどの攻撃は全て氷の針を奴に飲ませることが目的。
息つく暇を与えない連擊で奴の呼吸を乱し、さらに水蒸気爆発で氷の針を隠蔽。そしてまんまと奴に大ダメージを与えられた。
全て計算ずく。今までの攻撃全てが囮だったというわけか……
マーリカの実力には驚かされたが、リントの力はそれをも上回っていた。
「あんたは本当に凄えぞ? 冗談抜きでマジにな。でも俺を倒すことはできない」
リントは自分の左手に木の枝を押しつけると――そのまま力尽くで貫通させた!
ボトボトと大量の血を流す左手。だが次の瞬間、左手は動画の逆再生のごとく急速に治癒される。
「“高速治癒”スキル。腕を吹っ飛ばされようが頭を砕かれようがすぐに再生しちまうんだ。“光の聖衣”を貫通しようと、ダメージはたちどころにゼロ。……言ったろ? あんたらが勝てる確率は0%ってな」
「これが……転生者なのか……勝てるわけがない……こんな奴にどうやって……」
イルフォンスは絶望の表情を浮かべ、戦意が完全に失われる。
「……これだからお坊ちゃんは……転生者相手なら、この程度は想定済みでしょうが……!」
マーリカはそう吐き捨て、それでもリントへ立ち向かう。
……だめだ。このままでは彼女は……!
俺は加勢するべく立ち上がろうとした。
が、その時――息が一瞬止まるほどの激痛が脇腹に走る!
これは……骨が折れている……!?
クソっ、だが、それでも……!
「――来るな!!」




