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転生者殺しの第九騎士〈ナイトオブナイン〉  作者: アガラちゃん
四章「伏魔会同」
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4章-(12)途方もなき実力差

 ――ラスティナ。

 俺はあの女へ呼びかけた。直通の紅いピアス。ラスティナ抜きで戦ってはならない。

 だが――応答はない。

 

「あいつがさっき張ったとかいう結界のせいかもね。さっきから通信ができない」


 マーリカがそう呟く。

 つまり……この3人だけで、この世界で最強クラスと言われてるような奴と戦わなけりゃいけないってことか……?


 結界とやらが張られている以上、逃げることもできないだろう……本当に俺達だけでやれるのか……?


「そうだ。ハンデやろうか?」

 リントが軽い調子でそう持ちかけた。

「このまま戦っても俺が秒殺しちまうのは目に見えてるからな。久々のバトルだ。縛りプレイで遊んでやるよ」

「わーお。やっさしーい。無抵抗で殺されてくれるのぉ?」

「そりゃハンデじゃなく試合放棄っつーんだよ。アンタ面白いなやっぱ」


 リントが身につけていた刀や指輪、鎧を次々に外していく。


「SSRの装備品は全て外す。技や魔法も“一つを除いて”全て使用不可。さて……俺が使える魔法はこの“無制限ガチャ”のみ……と」


 リントは懐からスマホを取り出し、スイスイとなにやら操作をしている。

 ……スマホ取り出してガチャなんていうからには、やっぱソシャゲに関する設定かなにかか?


 そう思っていると……スマホの画面から突如金色の光があふれ出す。


 四つの繊細な魔方陣が現れ、その間から……木の棒らしきものが現れた。


「装備品Nランクの「ひのきの棒」……よりにもよって一番低レベルの奴が出るとはな。ま、しゃーない」


 リントは木の棒を手に取り、余裕の表情で宣言する。


「ガチャから出た装備・魔法だけで戦ってやるよ。ギャンブル要素があって面白いだろ?」


 相手が臨戦態勢を取った。俺は背中の斧を握り、構える。

 だが――棒っきれ構える奴に斧向けるってのは気が引けるな……


 俺がそう思った、瞬間。


「ソウジっ!!」


 マーリカの叫び。リントが一瞬で俺の目の前に移動していた。


「よう。ザコ」


 ヒュン、と木の棒による横薙ぎ!


 かろうじて斧で受けたが――ぐっ!?

 衝撃で俺の体ごと宙に浮いた。ハンマーかなんかでブッ飛ばされた衝撃! これは本当に木の棒から出た一撃なのか……!?


 地面に手を突き、土をえぐりながら両足でブレーキング。だが。


「悪いな。木の棒でもD級ザコにはハンデにならなかったみたいだわ」


 残虐な笑みをたたえ、木の棒を俺の脳天へと振り下ろすリント。

 俺は即座に服の下の時計を掴み、竜頭を親指で弾く!

 魔法を発動! 


 ――止まれ!!


 足下に時計盤のような魔方陣が展開し、リントの木の棒が頭上の寸前で止まる!


 ……ぶっつけ本番でよく発動したもんだ。

 俺がホッと胸をなで下ろした――その時。


「……なんてな」


 ドゴッ!!


 という鈍い音と共に、俺の脇腹にリントの蹴りが入れられた。

 再び体が浮き上がるほどの強烈な衝撃。

 斧が手から離れ、俺は数メートル先の地面で無様に激痛にあえぐ。


「なに? 今俺に時間操作魔法かまそうとしたの? ……ブッ、バッッッッッッカじゃねえのお前?? “固有抵抗値(こゆうていこうち)”すら知らねえとかマジ笑える! E級以下の冒険者でも知ってる基礎中の基礎だぞ?!」


 固有抵抗値……?


「教えてやるよ。この世界の魔法はな、自分以外の人間に直接魔法を発動させることはできないんだよ」


 なに……?


「ま、簡単に言えば? 火を使う魔法を相手の体内で直接発動できりゃ、どんだけ低レベルでも最強クラスに強くなっちまうだろ? そういうズルができないようにする設定みたいなもんだ。

 ……魔法ってのは理子(まな)による“波”が物体に影響して初めて発動する。だが内部に理子が多く含まれる物質の場合、外部の理子の波を拡散させて、魔法は人の内部にまで影響を及ぼせなくなる。この魔法の波による抵抗値を“固有抵抗値”っつーわけだ。

 んで、理子の多い物質とは理子と関わりの深い生物。特に理子の含有率が高いのは人間だ……俺の言っている意味がわかるか?」


 つまり……それは……


「つまり、お前の使う時間操作は人に直接発動させられない。敵の時を止めたり早めたり遅らせたり、ってな事は一切できないってわけだ。

 ま、レベルが別次元に高い相手から低い相手への発動はこの限りじゃないけどな? 俺クラスならお前に直接時間停止魔法を食らわせられるぞ? 魔法封じてるから使わねえけどな?」


 こっちの魔法は一切効かないってのか……! クソ……!


「時間操作魔法って聞くといかにもチート能力っぽいけどな。こっちの世界じゃその能力はハズレもいいとこなんだよなあ。

 敵の時間は操作できねえ。自分の時間を操作すれば、肉体への反作用がえげつねえ。自分の時間を早めるってことは、超速で自分の体動かしてるのと変わらねえからな。発動後すぐにへばっちまう。

 あげく自分の時間を早めている間は敵に攻撃もできねえ。強烈な衝撃波で自分が大ダメージ受けちまうんだよ。

 わかるか? お前が自信満々で使った時間操作なんざゴミ能力なんだよ。転生者で使える奴は山のようにいるが誰も使わない。ゴミだからな」


 くっ……!


「残念だったな。ま、ザコにふさわしい無様さで笑えたぜ? じゃあな」


 リントはトドメといわんばかりに、木の棒を大きく振り上げる。

 俺は斧を手放し、さらに蹴りのダメージで未だに動けない!


 このまま……死ぬ……!?


 その瞬間――ガギンっ!


「はいストーップ。人を待たせといて勝手にクライマックス演出しないでくれる?」


 巨大な氷の盾が突然俺の足下から現れ、リントの攻撃を防いだ。

 この魔法を放ったのは――マーリカ。


「はは。すげえなこの氷魔法。今の完全に金属の音だったぜ? どんだけ冷やせばこんだけの硬度が出せんだよ?」


 ……水を冷やせば氷になるが、それをさらに極限に冷やすことで水分子がさらに強固に凝集される。


 最終的に鋼鉄に勝るレベルにまで硬化する――超過冷(ちょうかれい)結氷(けっぴょう)。灰色に濁った氷の盾は、人一人を軽々吹き飛ばすリントの力をやすやすと受け止めた。


「攻撃を防いで得意になってるようだが、俺はまだ実力の10%も出してないぞ? ご自慢の氷の盾がどれだけ耐えられるか、少しだけ力を――!?」


 リントが驚きに目をみはる。

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