4章-(6)宣戦布告
「な……!?」
「ナイトオブ……その名は……!!」
六大国の王と魔人達が一斉に驚きの声を上げた。
「な、なにあの人……何を言っているの……?」
キョウコまでも驚きに目をみはる。
どうやらこの「ナイトオブナイン」という名は、彼らにとって恐ろしく不吉な名前のようだ。
「魔人達の保護? 国の承認? 馬鹿馬鹿しい。都合の良い話を勝手に進めるなよ。我々の主敵は異世界ではない。お前達だ」
「貴侯は……貴様は……!」
「敵である皆様にもご理解、ご認識いただくよう、この場を借りて宣言しよう。お前達の異世界征伐を頓挫させ、お前達の頭上に【死の太陽】のもたらす真の夜を降ろしてやる」
どよめきから一転、魔人達や王達が息を呑む。
だがその中で、1人の王が怒りを込めてラスティナを嘲る。
「異世界征伐を阻止するだと? どうやってだ? 貴様らレジスタンス崩れがどうするというのだ? ええ?」
「先ほどの異世界征伐の計略。実に見事だった」
「な、なに?」
「少人数で国の中枢を狙う電撃的作戦。そこから経済を掻き乱し、テロを煽り、国同士の内乱を誘発させる……」
ラスティナの発言の意味をどの王も理解できずにいた。
だが、一人が気づく。
「き……貴様! まさか!!」
「そうだよ? その通りだ。お前達が得意げに語った異世界征伐の計略。それをそのままこの世界で行ってやろう。
……この世に埋没している不満、覆い隠された矛盾をすべて吹き出させてやる」
ヅィークの言ったセリフをそのまま6王達に突き返すラスティナ。
当のヅィークは両手を組んだまま、静かにラスティナを見つめるのみ。
「なぜだ……なぜそんなことを……?」
束帝カルムがうめくように尋ねる。
「世界の破滅など、一体何が目的でそんなことを? 君は転生者ではないだろう? 何か、あちらの世界を侵略されてはならぬ理由でもあるのか?」
「言った通り、目的はこの世の破滅だ」
「な、なぜ……!?」
「なぜと言われても困る。目障りだから壊す。それだけだ」
「ただの感情だけで!? あ、ありえない……狂っているのか……?」
「狂っているだと? お前達の歪んだ尺度で私を測るなよ。私を理解できぬ己らの無理解を恥じるのだな」
ククク、とラスティナが嘲笑。やがて再び口を開く。
「全く笑わせてくれる。この後に及んで魔人達を引き入れようなどと。諸侯らの面の皮の厚さには驚かされるばかりだよ」
「何がおかしいというのか!? 私は魔人達の立場を変えるためにこうして――」
「そうやって100年前も、200年前も魔人達を騙してきたのか?」
「な――」
愕然とするカルムに、ラスティナがこれまでの話の最大の矛盾を突く。
「100年前も200年前も異世界征伐は行われた。今回のように魔人達も加えてな。だが結果はどうだ? 戦が終わればすぐに元通り。魔人達の立場は変わらず、差別と憎しみの連鎖は途切れることもなし」
「それは……いや! それは……!」
「普段は生け贄として使い、戦となれば尖兵として使い潰すわけか。お題目は世界平和だったな? ずいぶん小さい世界だ。まるでお前達の度量そのものだな」
「そんなことは……そんな、ことは……」
反論できず、うわごとのように呟きうなだれるカルム。
それに変わり、魔人達は一斉に6王達への非難を始めた。
「言われてみれば彼女の言う通りではないか!」
「何が世界平和だ!! 全て己らの都合だろうが!!」
「所詮は普通の人間共ってわけか……笑わせてくれる!」
「……大丈夫なの、これ……」
不安げにキョウコが俺を見る。
俺は「わからん」と首を振り、ラスティナの言動に集中する。
「おやおや。まだ異世界征伐にとりかかる前だというのに、すでに足並みが揃わなくなってしまったようだ。こんな調子で他世界への侵略などできるのか?」
「貴様……何を言っているのか分かっているのか!?」
6王のうちの一人が、ラスティナを糾弾する。
「どの道【死の太陽】が訪れれば、我々もそこの魔人達もただでは済まぬ! 互いに矛を収め、協力してあたらねばならぬ時なのだ! 今さら魔人達の扱いなどと言っている暇はない!!」
「冬眠すればよろしい。昔のように薬を煎じ穴を掘り、90日間をやり過ごせばよい」
「そのやり方では多くの者が犠牲となる! だから我々は――」
「犠牲になるのはお前達6大国の者だけだ」
愕然とする王の一人に、ラスティナは鼻を鳴らし言い放つ。
「魔人達の集落の一部にな、これまで侵略した異世界の物を保存している村がある」
「なに?」
「こちらよりも進んだ技術を持つ異世界の技術や知識、それに基づく機器類もな。その中には90日の夜を生き残れる技術も含まれているらしい」
「ふ、ふざけるな! 聞いたこともないぞ!! そんなものは戯言だ!」
「ああ、お前達は知らんだろう。お前達が袖の下を得ているスポンサー、『国際魔術協会』や『フォーレン商会』ら“編纂者”共が、既得権益を守るため異世界の技術や知識を潰して回っているからな」
「ぐ……!?」
王の一人がたじろいだ。痛い所を突かれたようだが、編纂者ってのは……?
「……かつて支配した他の世界や、わたし達転生者が持ち込んだ技術を隠蔽しているって噂されている企業や組織の総称だよ。『国際魔術協会』とかは本当に露骨で、農業や工業で魔法を使わずにできる技術ができれば即座にもみ消して、技術者まで暗殺してるっていわれてる。自分たちの利益を守るため、よその優れた技術を潰し回ってるみたい……」
キョウコの説明で、さらにうんざりとした気持ちになった。どこ切っても腐ってるな、この世界は。
「それは誠の話なのか……? 異世界を侵略せずに済むと……?」
束帝カルムが驚きとわずかな期待を込めた表情で尋ねる。
すると、それを察知した他の王達が一斉に声を上げる。
「騙されてはならぬカルム殿! 証拠がない以上その女の発言が真実とは限らぬ!」
「貴様の目的が読めた! 魔人共を煽り異世界征伐を頓挫させ、6大国を滅ぼそうという腹だな! そしてその後は6大国全てを手中に収めるつもりだ!!」
ラスティナが嘲笑。
「うぬぼれるなよ。お前達の腐った国など願い下げだ。目的は侵略ではない。大掃除だよ。醜い国家群をきれいさっぱり滅ぼす、な。」
「おのれ! どこまで我々を愚弄すれば――!?」
不意に、議場で一つ、拍手の音が鳴り響く。
ヅィーク。微笑を湛えながら優雅な様子で拍手をしている。
この異様な光景に王達を始め魔人達まで閉口し、議場が恐ろしいほどの静寂に包まれた。
「――お前の目的は私だろう? わが娘よ」




