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転生者殺しの第九騎士〈ナイトオブナイン〉  作者: アガラちゃん
四章「伏魔会同」
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4章-(3)六大国王の転生者

 元の世界にそれほど思い入れがあるわけじゃない。いい思い出は数えるほどしか存在しない。


 だが。

 あの世界には、そんな俺にも優しくしてくれた人がいた。

 かけがえのない人も、できた。

 彼女らがこのクソのような連中に蹂躙される……考えただけで、血が逆流するほどの怒りを覚えた。


 だが、俺の思いとは裏腹に、周辺の魔人達の6割近くが賛同するように大きな拍手。

 迫害されてきた彼らからすれば、異世界征伐は自分たちの立場が変わる希望のように思えたのだろう。

 攻め込まれる俺達のことなどお構いなし。所詮は異世界の人間。()()()()()()()()()()、と。


 魔人達にも怒りを覚えたが……冷静に考えれば、()()()()()なのかもしれない。

 現に俺もそうだった。この世界の連中がどうなろうと知ったことではない――そんな気持ちであのナインズに入ったのだ。


 どいつもこいつも自分のことで手一杯。それが現実なのだろう。

 だが、背中の斧はそんな俺の思いに反応し、落胆するようにかすかにうずいた……こいつ、さっきの俺の怒りを(あお)ってやがったのか……油断も隙もない。


「では、ここに列席する諸侯、異世界征伐に関して異論はないということでよろしいかな?」


 束帝が言葉を締めようとしたその時、6大国の席についた一人が手を挙げた。


「上弦国アルトライン王……未だ納得していただけぬか?」


 手を挙げた男を見る。カルムよりも若い――俺と同い年くらいの黒髪で童顔の男。

 いや待て……あいつ、まさか俺達と同じ……!?


「ふふん、アルトライン王はニホン出身の転生者。やはり故郷が恋しいとみえる」


 アルトライン王の傍らにいる、どこぞの国の王が皮肉たっぷりに笑う。


「理解に苦しむ。であればなぜこの場にあなたがおられるのか? アルトライン国の玉座に座っていては、ニホンへ遠征する我らが軍を止められぬぞ?」


 くくく、と6大国の席で小さく嘲笑が漏れる。束帝カルムは「せ、静粛に!」と笑い声への自制を呼びかけたが、彼らはまるで意に介さない。

 アルトライン王は、嘲笑に身を(あぶ)られながらも毅然(きぜん)と口を開く。


「僕はこの異世界征伐自体を疑問視している」


 嘲笑が止む。だが、ニヤニヤとした笑みを湛えたまま、他の王が尋ねる。


「これは異なこと。明瞭に具体的に理由を伺いたい」

「魔法だ。魔法を使えば“9回目の新月”の中でも生活ができるはず。わざわざ侵略をする必要は――」


 その瞬間

「ははは! はははははは!!」


 席につく2人の王が、大口を開けて笑った。


「アルトライン王……あなたは……」


 束帝カルムすら、唖然とするようにアルトライン王を見る。


「すでに実験も済んだ。3ヵ月前、凍土に我が国と同等の範囲の全気候シールドを張ったが、我が国の有志は今でも快適に生活を送っていると聞く。この世界にある魔法でなぜ解決しようとしないのか、僕は逆にその理由を知りたい!」


「……それは、貴侯(きこう)が転生者だからだ……アルトライン王」


 無念そうな表情で、カルムが静かに言った。


「貴侯ならば可能だろう。だが我々は貴侯のようにはいかぬ。大きな術を使えば反動もすさまじく、生け贄も必要となる……そこらの動植物ではきかぬ。90日もの間国土を覆う大魔法を使い続けるのだ。何万もの人命を犠牲にすることになる……」


「そ……それなら!他の転生者の人達と協力してシールドを張ればいい!皆さんの国の転生者に呼びかければ――」

「いずれにしても、無駄だな」


 カルムの隣の男が、静かに口を開いた。


 あご髭とモノクルが特徴的な、理知的な雰囲気を持つ初老の男。

 その男を見た瞬間――なぜか、俺は胸の奥で妙なざわめきを感じた。

 胸騒ぎ……なぜだろうか? あの男からは他の王とは違う、異質さがあったのだ。


「ヅィーク殿……」


 カルムへ右手で軽く応じ、ヅィークと呼ばれたモノクルの男がアルトライン王へ向き直る。


「転生者といっても千差万別だ。貴侯のようにどんな術も使いこなせる者もおれば、術は使えず剣のみを扱うものもいると聞いた。転生者を集めたとして、その中でどれだけ貴侯と同程度のシールドを張れるのか?」

「それは……確認しないことには……」

「さらに言えば、世界全土を覆うシールドを張れたとしても、()()()なくば運用はできぬ。いかに転生者とはいえ、90日間寝る暇もなくシールドを張れはしまい? であれば交代しながらシールドを張ることになるが、そうなればさらに大勢の転生者が必要となる。本当に集めることができるのかね? この世界に訪れる転生者はそれほど多くはないと思うのだが?」

「く…………」


「そもそもの話だが、この世界の転生者は我々の世界に協力的な者ばかりではない。貴侯が呼びかけたとして、どれだけの者が話を聞いてくれる?」

「……それは! あなたたちが……!」

「我々のせいだと?」


 わざとらしく驚いてみせるヅィーク。


「価値観の相違かね? そもそもだ。君達転生者は我々に断り無く、唐突にこの地に移り住んだよそ者ではないか? 君達の世界の流儀は知らぬが、我々の世界ではよそから来た者をわざわざ歓迎しもてなすことはそうそうしない。冷遇(れいぐう)されることもあれば、時に力尽くで排斥(はいせき)されることもあろう。

 ……勝手に来ておいて、勝手に失望されても、困る。君達にはすまないがそれが我々の総意だ」

「…………」

「貴侯の意見は理想にすぎん。ここは理想を語り合う場ではない。90日間全世界を覆うシールドを張れる、大勢の協力的な転生者を用意してから意見を述べるがよろしい」


 反論できず、アルトライン王は失意の表情で黙りこくった。


「……部族を代表する方々に不安の色が見えるな。ではここからは理想ではなく、現実的にニホンを侵略できるという根拠をお見せしよう」


ヅィークは懐からなにやら四角い板状のものを置いた

 よく見るとそれは――乾いた血糊(ちのり)が付着した、スマートフォンであった。

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