3章-(14)来るべくして
「転生者風情が……!」
怒りに歯がみするイルフォンスへ、ラスティナが意地の悪い笑みを向ける。
「そんな顔もするのか。いつも魂の抜けたような顔で刀磨きをしていたのに、ずいぶん人間らしくなったじゃないか?」
「ナイト“1”……指示をくれ」
「何のだ?」
「あの転生者を粛正する命令をよこせ……!」
「ずいぶんなご執心だ。なんだか妬けてくるよ」
「ふざけるな!」
ラスティナのくだらない軽口にすら、イルフォンスは余裕なく怒りをむき出しにする。
だがラスティナはそんな彼の様子をまるで気に留めていないかのように、冷たく言い放った。
「ソウジの単独行動は私が許可を出している。粛正の対象とはならん」
「だが……奴は他の転生者と逃げたんだぞ……!?」
「くどいな。それは私の判断に疑義があると受け取っていいのか?」
「それは……いや、すまない……俺の個人的な感情、だった」
遠くの「うわダッサ!」というマーリカの声にいら立ちつつも、イルフォンスはラスティナに詫びを述べた。
「仲間思いなのは感心だが、そう心配することはない。ソウジはいずれ我々の元へ戻ってくる」
「それは……?」
ラスティナの言葉に、イルフォンスは顔を上げる。
「私は以前あの男の過去を見た。あの男はな、元の平和な世界では生きていけない奴だったのさ。だからこの世界へ召喚された……来るべくして来たんだよ。この世界へ」
「…………」
「なに、すぐだ。じきにここへ戻ってくる。この世界への憎悪を抱く我らの同志としてな」
ラスティナは背筋が凍るほどの邪悪な笑みを浮かべていた。




