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転生者殺しの第九騎士〈ナイトオブナイン〉  作者: アガラちゃん
十九章「それは過去。それは罰。」
235/237

19章-(2)

 メリキウス6世の処刑が執行(しっこう)される、当日。時刻は午前10時。


 ザルディメルの街近郊(きんこう)で、俺達は全速力で走っていた。


 理由は処刑の阻止だけじゃない。


 背後に迫る追手(おって)を振り切るためだ――


「……ソウジ」


 マーリカの声に俺は足を止める。


 振り返ると、息を切らさず俺の後ろについて来ていたマーリカと、息も絶え絶えで溶けかけのアイス並みに汗をドロドロにかいたウェンディ。ちなみにセイは俺が背中におぶっているので汗ひとつかいてはいない。


「やっぱり振り切るのは無理みたいね。敵を引きつけたまま街に入るわけにもいかない……どうする? ここいらで(かた)をつけようか?」


 マーリカの言葉に、俺は首を振る。


――ここで足止めくらう訳にはいかない。すぐに始末できれば問題ないが、手こずれば処刑の阻止に間に合わなくなる……もしも相手の目的が俺達の足止めだった場合は最悪だ。


「最優先は元教皇サマの処刑阻止だものねえ。それじゃあ二手に分かれる?」


 ――そうしよう。追手はおそらく転生者。俺1人で相手をする。


 俺がそう言うと、なぜかマーリカが複雑そうな、何か言いたげな顔をする。


 ――なんだよ? 何か問題あるのか?


「……別に、文句ないんだけどさ……アンタって、いっつも1人になりたがるわよね」


 ――そういう状況だったからだろ? 別に1人がいいとかそういうわけじゃない。


 そう答えたが、マーリカはまだ不服(ふふく)そうに口を(とが)らせた。


「あのさ、あたし達って一応チームでしょ? 確かにアンタに力つけてもらうために1人でやらせたりしたけどさ……だからって1人でなんでも片付けようとするのは違うでしょ?」


 ――説教なら後にしろよ……そろそろ客が来るころだ。


「……この話、処刑阻止が片付いたら改めてするからね。あたし達は先に行くから、怪我(けが)なんかしたら承知しないわよ」


 マーリカは「フン!」と鼻を鳴らして俺に背を向け、


「ひィひィ……わ、わたしも残ってよろしいでしょうか……もう少し休ませてお願いヘルプミィ……」


 とか言ってるウェンディの腕を(つか)んで力づくでズルズル引きずっていく。「痛い痛いわかりました! 立ちますから~!」とかウェンディがわめいてもお構いなしだ。


「…………」


 セイは相変わらずの無言。


 しかしその表情は心配そうな……いや、何か悲しげなような顔にも見える。


 もどかしそうに手を動かし、しかしそれだけでは伝わらないと思ったのか、口を開きかけた――その時。


「何してんのよセイ! アンタもこっち来なさい!」


 マーリカに呼ばれ、セイは驚いたように小さく飛び跳ね、そのままマーリカ達を追って走って行ってしまった。


 あの子が何を言わんとしていたのか……どうしてあんなに悲しげな顔をしていたのか。それは俺のこれまでの振る舞いが原因なのかもしれない。


 だが、今はそんなことも後回しだ……!


 俺が見据える森の奥。


 かすかに聞こえた。()んだ金属の音。


 ……来る!


 俺は素早く地面を蹴って数メートル高く跳ぶ。


 一瞬遅れ、足下に斬撃の軌跡(きせき)がきらめいた。


 瞬間――ドドォっ!!


 切断される木々。両断される地面。地中が空洞(くうどう)だったらしく、木の(みき)が落下する音と同時に地面が陥没(かんぼつ)轟音(ごうおん)が響き渡る。


 引力のままに陥没した地面に降り立つと、足下を土砂混じりの地下水が流れ出した。ぬかるみに足をとられないようにしなければ。


 戦闘に有利な足場を見繕(みつくろ)っている時――ようやく、攻撃を仕掛けた張本人が姿を現した。


「避けられた……でも自動回避スキルはちゃんとジャマーしてる。ってことは僕のミスってこと? やっぱり僕はまだまだだなあ」


 転生者特有のスワイプ操作のような手つきをしつつ、陥没を(まぬが)れた場所から男がこちらを見下ろした。


 銀の胸当てと両刃の西洋剣を携えた、10代後半くらいの黒髪の少年だった。


「あのー、君ってあの“ナインズ”の構成員(こうせいいん)の1人だよね?」


 ――確証も無しに攻撃したのか?


「まさか! アイシャがこの手配書に似てる人がいるっていうから来たんだよ。鑑定スキルで出た名前と手配書(てはいしょ)の名前も完全に一致してる。シダ・ソウジ……間違いないよね?」


 俺は目だけを動かし、少年から離れた場所に(たたず)む少女を見た。


 アイシャと呼ばれたあの女……十中八九、ジレド側が奴に()し向けた間者(スパイ)と見て間違いないだろう。間者を通じて俺達を追わせた転生者か。


「あれ? そういえば他に3人女の子がいましたよね? 先に行かせたんですか? よかったー。とりあえず君だけ倒して女の子には逃げられたって報告するよ。女の子に手を上げるようなマネしたくないからね」


 少年は両刃の剣を一度大きく振り、(かま)え直した。


 ――大した自信だな。


「じ、自信なんてないよ! さっきも攻撃外しちゃったし、他の転生者の人だったら上手くやれたんだろうなあって……」


 なんだこいつ? 自信なさげに振る舞っておいて、他の転生者なら()れただと? 


 ――それは、俺への挑発か?


「え? えっ?」


――他の転生者でも俺程度なら簡単に倒せるって意味合いか?


「違うよ! 他の転生者の人みたいに僕はたくさん魔法やスキルとか使えないんだよ。僕のクラスは他の人より下だし、レベルだって……」


 相変わらずレベルだのクラスだのゲーム用語を口走(くちばし)るな、転生者達は。


 そういえば、ここがゲームの世界だと本気で信じ込んでいる転生者もいると聞いた。転生者に信じ込ませているのは、召喚した太源理子(たいげんりし)始祖(しそ)


 奴ら、ゲーム的な情報を入れ込むことであえて非現実感を転生者に与えているのか? 何のためにだ? 転生者達にこの世界で好き勝手に暴れさせるためなのか……?


「シダ・ソウジ……レベルは、16? 凄い! これってかなり高度な隠蔽(いんぺい)スキルだよね!? 鑑定スキルでどれだけ検索してもぜんぜん本当のレベルが出てこない!」


 ――斬新な挑発方法だな。面白い奴だ。


「だから挑発なんてしてないよ! 僕は隠蔽スキルを持ってないから、こんな風に自分のレベルを隠せなくって……他の人にも僕のレベルを見られて驚かれたり呆れられたりして、恥ずかしいんだよね」


 目の前の少年は自信なさげな発言や謙遜(けんそん)を繰り返す。


 だがこいつの心の底は見えている。無自覚を(よそお)いながら力の差を見せつけたい。無自覚のまま俺を圧倒し己の力を強大さを見せつけたい――とぼけた表情の裏側にある卑小(ひしょう)尊大(そんだい)なる“自意識”が見て取れる。


 レベルを見られて驚かれる? 呆れられる? なんだ? そのレベルとやらを俺に教えたくて仕方がないのか?


 ……まずは調子に乗らせて出方(でかた)を見るか。


 ――俺はレベルとやらを確認することができない。お前のレベルはいくつあるんだ?


 少年の目が一瞬興奮するように見開かれ、すぐに困ったような表情を作る。


 レベルに自信がないという設定を忠実(ちゅうじつ)に守っているようだ。俺に問われ、嫌々ながら返答しそのレベルの高さでマウントを取る。こいつにとって実に理想的な流れだろう。


 それでレベルはいくつだ? 99か? 98か? 似たようなレベルの連中とは何度も戦ってきた。今さらどんな数字が出てきても驚きはしない。


 しかし、少年の口から出てきた数字には流石に驚かされた。


「僕のレベルは……9,660,000,000,071。ほかの転生者の人のように隠蔽できなくて、本当に恥ずかしいよ」

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