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転生者殺しの第九騎士〈ナイトオブナイン〉  作者: アガラちゃん
十八章「みんな平等なのだから」
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オリエンテーション:深夜の一室にて 2

『敵拠点(きょてん)打破(だは)した後、そのまま北東に進んでおります。明日には我々への協力を申し出た者達と合流できるでしょう』


 通信ピアスから届くシュルツさんの声に、マーリカがにやりと笑う。


「ああ、あの辺はジレドが追いやった魔人達やジレドの滅ぼしたビスティール王国の残党とかも隠れてるって話だしね。人と物資はある程度補充できそう?」


国統軍(こくとうぐん)との合戦を行わずに進軍できましたから。得られる兵の数と質は課題でしょうが、物資に関しては十分ですね。

 ああそれから、意外な者達から接触がありました。ラボール傭兵団(ようへいだん)です』


 マーリカが傭兵団の名に目を丸くする。


「うっそ。マジ? 例の“ボーイズ”が?」


 後に聞くところによると、ラボール傭兵団とは少数ながら参戦した戦ではいくつもの戦果(せんか)を上げている、有名な傭兵団のようだ。


 しかし彼らが有名なのはその武勇(ぶゆう)よりも、彼らが信頼する人物やその者からの紹介でしか動かないという点にあるという。


「腕は立つけど金額じゃなく信用や信頼で動く変人どもなのよねえ。てか、あたし達に接触したってことは……誰か、あたし達に紹介した奴がいるわけ?」


『ええ。あなた達も会ったことのある人物ですよ』


 腕利きの傭兵を(つか)わせるだけの財力と人脈のある人物……思い当たるのはひとり。


 ――ヴィン・カルバンス、ですか?


『ええ。彼の立場から表だって我々に協力はできませんから、こういった形でサポートをしていただけるようです』


 ……ヴィン・カルバンス。初めて見たときから直感的に信用できない奴と思っていたが、一応協力はしているようだ。どこまで信頼できるかは定かじゃあないが……


「ふ~ん。なるほど? 兵站(へいたん)を整えて参加した兵を教導(きょうどう)しつつ進軍。んで北西から北東へ移動しつつジレドの村や町を落としていく感じかしら? 

……旧港町のシパイドや伯爵の城は大丈夫? 背後から回り込むついでに町や城取られない? 特に城には封印してる7罰(しちばつ)もいるから取られるとヤバそうなんだけど」


『シパイドは現在無人です。残っていた街の住人は例の7罰の少女に奪われ、魔人達も我々ナインズに加入する者以外は元の集落に戻りました。

 拠点(きょてん)は欲しい所ですが、半端に守る場所を増やせば相手に付けいる隙を増やすだけ。町は放棄し、我々の支援する勢力やこれから落とす町や村から物資を得ていくことになります』


 ――あの伯爵の城は?


『海に沈めました。6大国の者達があの城に近づけぬよう細工も(ほどこ)したので、あそこが取られることはまずないでしょう』

 

 あんなデカい城をどうやって……と言いかけたが、パスコウ島でも小型タンカーレベルの大型船を沈めたり浮上させたりさせた組織だ。魔法が普通にあるこんな世界で常識を語ることこそナンセンスか……


 マーリカはここまでの話を聞き、あごに手をやり考え込む。


「なるほどねえ……拠点を作らず本隊だけで行動。完全に“攻”に振り切ってるけど、一度の敗北で組織が壊滅しかねない背水(はいすい)(じん)でもあるのよね……立て続けに攻められれば、こっちが疲弊(ひへい)してやられるかもだけど?」


 通信ピアスよりケインさんの反論。


『いやマーリカ。結局、拠点があっても同じことなのだ。我々は敵に対して兵が圧倒的に足りぬ。攻められ続ければ拠点はいずれ落とされ、補給線(ほきゅうせん)を立たれた隊はいずれすり潰されるだろう。

 ならばいっそ“攻”に振り切るしかあるまい。移動できぬ拠点を()て常に本隊を移動させ、進路上の町や村、あるいは支援者から物資・人員を都度(つど)補充(ほじゅう)し続ける……それが、今のナインズにとって最良だ』


「……うん、OK。そっちの考えは理解できたわ。で、これってさ、あたし達もそっちに合流するべきかしら?」


 マーリカの質問に、通信ピアスからの返答が一旦止まる。


 ……これは、ケインさんの返答次第では、厄介なことになるな。


 ナインズの進軍に参加するということは、セイの鍵集めも一旦やめることになる。もしジレドを滅ぼしたとしても、次は他の国との戦いとなるだろう。そうなればこの世界の動乱に決着がつくまで、鍵集め自体も難しくなる……


 元の世界に戻る道がまた遠のきそうだ。うんざりする俺の耳に、ケインさんの声が届いた。


『いや、今の所その必要はない。別行動を取るお前達の存在はジレドにとって牽制(けんせい)になる。ともすれば互いを陽動(ようどう)として行動することもできるだろう』


「……そっちの指示には従うけどさあ、大丈夫なの? ナインズが拠点焼いて進軍したってジレドの奴らが聞いたら、即転生者を大勢()し向けて来そうだけど?」


『その指摘はもっともだなマーリカ。転生者の力は強大だ。しかしだからこそ、その運用には神経を使うことになる』


「っていうと?」


『よそ者の転生者はどこまでいっても信用できぬということだ。連中を飼い慣らす間者(かんじゃ)を使えばある程度従わせることもできるが、複数人を1ヵ所に集めるとなれば話は別だ。転生者同士が結託(けったく)し奴らのコントロールから外れるかもしれぬ。連中はそれを最も怖れている』


 かつてジレドはパスコウ島には3人の転生者を差し向けたが、あれはジレド国内から離れているからできた事なのだそうだ。転生者が暴走したとしても、国内から離れた場所なら被害は最小限に(とど)められる。


 ……つくづく、俺達転生者は人として扱われていないってことがよくわかるな。


『転生者の存在は他国への示威(じい)にもなる。いたずらに動かせば近隣のミレンジア連合国に付けいる隙を与えかねん。転生者共はおおっぴらに動かせはしまい……無論、こちらへの刺客(しかく)として数人ずつ差し向けてくることは十分に考えられるがな』


「そっちにはラースやシュルツもいるし、頼れる参謀(さんぼう)サンもいることだし? 転生者の1人2人程度なら余裕で対処できるってこと?」


『あの転生者相手にゆとりを持ったことなど一度もないが。今の所は問題ないだろう。無論、もしものことがあればネロシスを経由(けいゆ)しお前達にも戻ってきてもらうがな』


 ――なるほど。


「ほいほい、りょうか~い」


 ナインズの今後の動きについてはよくわかった。だが、ジレドの村や町を陥落(かんらく)させるという事について、一応ケインさんに確認を取らなければならない


 ――以前も話したと思いますが、戦いとは無関係の人々を襲うような真似は……


『承知している。落とす前に降伏するよう勧告(かんこく)はしよう。

 ……だが、もしも相手がこちらの呼びかけに応じず街ぐるみで徹底抗戦(こうせん)を仕掛けるつもりなら、我々としても武力で応じることになるだろう……済まんがこれ以上の譲歩(じょうほ)はできぬ。これで良いか?』


 ――相手に戦う意思があるのなら、戦えない者を一方的に(しいた)げるマネをしないのであれば……スジは通っている。俺からの異論はありません……


 こちらの要望に応えてくれた事に感謝を述べると、ケインさんからの小さい安堵(あんど)の声が聞こえた。


 ナインズにとっては単なる俺のワガママだったのかもしれないし、負担も掛けているのだろう。しかし……それでも、どうしてもこれだけは(ゆず)れなかった。


『おっと! 忘れるとこだったぜ! 旗だよハタ! 旗どうすんだよ!』


 唐突(とうとつ)にネロシスからそんな発言がもたらされた。


 ――(はた)って……?


「ああ確かに。兵動かしてんなら必要よねえ、旗。いろんな部族の魔人やら傭兵やらも混ざる事だし、どうせなら目的や意思を統一できるようなシンボル的なやつ欲しいわね~」


 マーリカがケラケラと楽しげに笑う。


「そっちはさ、なんかアイディアの候補とかあるの?」


『そーだなあ。いや、俺達ゃ出自もバラバラだし意思を一つに出来そうなモンなんてなくてな』


「みんな仲良く伯爵に捕まってたし、伯爵とかあの廃城(はいじょう)モチーフにしたり?」


『んなテンション下がるモン旗印(はたじるし)にしたくねえよ。ああ、そうだな。一応候補ってのはあるんだぜ? ホレ、ソウジが戦う前たまに描く絵みたいなのあるだろ?』


 ――“残視(ざんし)の眼”のことか?


 あれは俺の個人的なスイッチだ。殺すべき相手を見つけた時に描く、菱形(ひしがた)と横線で構成された図形。そいつを必ず殺す覚悟と決心をするための、殺しのマインドセットというべきか……


『あれいいんじゃねえかな。アレ。そのまま取り入れるとシンプル過ぎっから多少デザイン加えてよ。転生者のソウジは俺達ナインズを象徴するものの一つでもある。お前にまつわるモンなら他の奴らも異論ねえだろうし?』


 ――ちょ、ちょっと待て! アレをナインズの(はた)に!? ほ、他にマトモなデザインとかあるだろ!?


「あたしは異論ないけど、否定するからには他にまともなデザイン案あるの? ソウジ?」


 ――マーリカ……いや、デザインとかそういうの俺得意じゃねえし……ていうか、そういうのはリーダーが決めるもんだろ普通!?


『おっと私のことか? お前の描く“残視(ざんし)の眼”を旗印(はたじるし)にというのは私の案なのだが』


 ――あんたが言い出しっぺかよラスティナ! いやだから、デザインならそういうの得意な奴に任せるべきだと、俺はそう言いたいわけで――


『“残視の眼”では不服(ふふく)か。ではそうだな、我々の象徴となりつつあるソウジの似顔絵を旗印にしてみよう』


 ――ウソだろおい! 史上最悪のアイディアだぞそれ!!


「あ、ソウジ。あんまり大声出すと後ろのセイとアホ女起きるから」


 ――ああ、すまん。けど冷静になれよ? 俺の顔がデカデカと描かれた(はた)に集まりたい奴いるか?


『おーいお前等! ナインズの旗にソウジの似顔絵描きたいと思うけどどうよ!?』


『何すかそれめっちゃ面白そう!』


『いいんじゃないでしょうか! 一発でナインズって分かりそうですし!?』


『めちゃくちゃ笑……じゃない、個性的で……その、唯一無二性、唯我独尊(ゆいがどくそん)性? すごく……ぷぷ、いいと思います……くく……』


 ――おい誰だ今笑った奴!? ネタとして受け入れてんじゃねえ! そもそも軍事行動してるんだから、そんなんダメでしょ絶対!?


『……いや、戦略的にはアリだな。ソウジ、お前の顔は手配書でも出回っているからな。(はた)を見せるだけで即座に我々だと分かるのは中々(なかなか)都合が良い』


 ――ケインさん!?


『私としても異論はございませんよ? ラスティナ様のご意向ですし』


 ――シュルツさんも!?


『ウハハハ! 小僧の旗の下でドンパチやるんか? それはそれで一興(いっきょう)かのう! うはははは……ヒック!』


 ――二度とダンウォードのジジイに酒飲ませるなよ!!


 つか、ウソだろ!? 俺の似顔絵でほぼ満場一致(まんじょういっち)とか? 冗談だろ? 頼むから誰か冗談だって言ってくれお願いマジで。


『さて……何か言いたいことはあるか、ソウジ?』


 そう告げるラスティナに、俺は心の底から、ワラにもすがる思いでこう言った。


 ――すみませんでした……似顔絵だけはマジで勘弁してください……


『……例の“残視(ざんし)の眼”を使わせてもらうが、それでいいか?』


 ――異論はございませんです似顔絵より遙かにマシですごめんなさい。


『確か、あの図形は死者への(とむら)いを意味するのだったな。我々の旗印(はたじるし)として申し分ない。ありがたく使わせていただこう』


 完全に丸め込まれた形だが。それでも俺は満足だ。どんな絵でも似顔絵でないだけ(はる)かにマシだ。つか、ほぼ脅しじゃねえかチクショウが。


 ――それで、今回のオリエンテーションは終わりですか?


 ため息まじりに俺は他のメンバーに確認する。


 馬鹿話も区切りがついたし、もう話すこともないだろうと思った。


 だがラスティナの声が、通信を切ろうとする俺の動きを止めた。


「待て。ソウジ、マーリカ。話は終わっていない。次はお前達についてだ」

 

 ――俺達の?


 確か俺達の次の任務は……ザルディメルと呼ばれる街に行くこと。そこの監獄(かんごく)(とら)われているフロイア聖教の前教皇、メリキウス6世を連れ出すこと……だったはずだ。


『ザルディメルの街だが、今あの街には数名の魔王軍の工作員が潜伏している』


 ――なに……?


 6大国の軍と対峙している魔人達の組織、魔王軍。ここから東にある左弦国(さげんこく)ヴェルハッドの、更に東の果てで戦っていると聞いていたが……ここ右弦国(うげんこく)ジレドにも工作員がいるというのか?


 ラスティナは俺の疑問にはあえて答えず、粛々(しゅくしゅく)と差し迫った問題について語ってみせた。


「あと2日だ。ジレド内でも伏せられていた情報だが、現教皇のメリキウス7世があの街に現れるそうだ」


「そうなの? じゃあ面倒そうだし、現教皇が帰ってから街に入ったほうが良さそうね」


 そんなマーリカの発言に対し、ラスティナは「駄目だ」ときっぱり否定した。


「それでは間に合わん。なぜ現教皇が秘密裏にザルディメルに現れると思う? 混乱と抵抗を避け(すみ)やかに事を成し()げるためだ」


 ――もったいぶるなよ。その現教皇は、何が目的でその街に現れるんだ?


 ラスティナは静かに、冷静に、しかし驚くべきことを口にした。


『前教皇、メリキウス6世を観衆(かんしゅう)の見守る中で処刑するためだ』


 ……な…………


「……何それ。そんなことしてどうするってわけ? 下手すりゃ市民から怒りや反発を招きかねないわよ、それ」


『詳しくは現地の魔王軍の者達から聞け。とにかく今は時間がない。2日以内だ。彼の身柄(みがら)は今後の我々の活動にも必要となる。くれぐれも急げよ』


 そう言い残し、ラスティナからの通信は一方的に切られてしまった。


 その後聞こえるのはパチパチと(はじ)ける暖炉の音のみ。俺とマーリカは唖然(あぜん)とした表情でお互いの顔を見合わせ、同時に肩を大きく落としたのだった。

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