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転生者殺しの第九騎士〈ナイトオブナイン〉  作者: アガラちゃん
十八章「みんな平等なのだから」
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オリエンテーション:深夜の一室にて 1

『聞こえますか、ソウジ君? マーリカ?』


 通信ピアスごしのシュルツさんからの声に、俺とマーリカは返答する。


 炭鉱の街バルデル。歓楽街から少し離れた小さな宿屋に俺達は泊まっていた。


 今は午前0時の深夜。起きているのは俺とマーリカの二人だけだろう。セイとウェンディも、暖炉の反対側にあるベッドの上でぐうぐう熟睡していた。


「んで? こんな宵っぱらにあたし達を呼んだ理由は?」


 暖炉の前に置かれた椅子の一つに腰掛けるマーリカが、億劫そうに遠くのシュルツさんに(たず)ねた。


『オリエンテーションですよ。現在の我々の状況と、今後の行動の指針(ししん)について共有を』


 ――行動? そちらにも何か動きが?


 俺が尋ねると、シュルツさんは冷静に淡々と、とんでもない事を口にした。


『先ほど兵を率いて出撃いたしました。旧港町シパイドを取り囲んでいた国統(こくとう)軍ですが、拠点を襲撃し包囲を突破しました」


 その報告に――対面に座るマーリカが笑みを()らす。温かな暖炉の光とは対照的に、彼女の笑顔は冷酷に歪む。


「そう……ようやく、ついに打って出たわけね……ふふ、これから楽しくなるわねえ」


 ――たしか兵糧(ひょうろう)攻めをするためあの港町を包囲していたんですよね。六大国から大勢の兵が集まっていると聞きましたが、ナインズの兵隊だけで突破できたんですか?


『そうですね。数も問題ですが、とりわけ厄介だったのが転生者も参加していたことです』


 ――なっ!?


 ナインズの兵である“朔夜隊(さくやたい)”は確か100人に満たない数と聞いた。そんな小規模の戦力で、転生者まで含めた大軍を突破したというのか?


「ふうん……そっちにはラースやあんた、ダンウォードのおじいちゃんもいるし負けることはないとは思うけど……転生者相手だとそれなりの被害が出たんじゃない?」


『いいえ。我々の死傷者はゼロ。一撃のもと拠点を打破いたしました』


 たった一撃であのチート能力を持つ転生者ごと……ラスティナの力だろうか? これがあの女の真の実力だというのか……


 俺がそう尋ねると、『そうではない』と否定。声は……ナインズの参謀(さんぼう)、ケインさんだ。


『ラスティナの力も驚異的だが、決め手となったのはお前だ。お前のもたらした情報だ』


 ――俺の、情報……?


『転生者が使う“スキル”や“アーツ”という能力。それらは全て“魔法”の一種であるとの情報だ。これは非常に有益だった。この奇襲を成功に導いてくれたのだからな』


 ――それは一体……?


 ケインさんは一呼吸置き、静かに口を開く。


『旧シパイドを包囲する国統(こくとう)軍。銀砂漠を迂回(うかい)する街道を(ふさ)ぐようにその拠点があった。森や砂漠は軍を率いて行動するにはリスクが大きい。もしもリスクを負って行動すれば後々の行軍(こうぐん)に響くだろう……(ゆえ)にあの拠点は是が非でも落とす必要があった。

 だがそれには大きな問題点がある。転生者の存在だ』


 俺とマーリカは沈黙する。チート能力を与えられた転生者の力はまざまざと思い知っているからだ。


『拠点にいた転生者は2人。奴らは交代しながら拠点全体に強大な魔法障壁(しょうへき)を張り続けていた。ラスティナの力を持ってしても、転生者の張る障壁を破るのは至難。そして無闇に仕掛けて増援の転生者を呼ばれるのはなんとしても避けねばならん』


 ――つまり、たった一撃で拠点を落とす必要があった、と? 一体どうやって……?


『そこでお前のもたらした情報が生きた。“スキル”とやらは魔法と同じ。つまりだ……スキルとやらを使った瞬間、やつらの使う魔法障壁は消失する』


 この世界では異なる魔法を2つ以上同時に発動させることはできない。スキルも魔法の一種であるため、魔法を発動させている間にスキルを使えば魔法はたちまちその効力を失う。


 俺は武闘会でその事実を知ったが、この情報を元に転生者の魔法を破ったというのか?


『連中の使う“スキル”については調査した。どの転生者も共通して使うのが、“自動防御”、“鑑定”、“亜空間生成・収納”、“素材錬成”の4つだ。この内の“鑑定”というスキルだが、これは相手のレベルとやらを調べるほか、初めて会った人間の素性や初めて見た物品の特性調査、初めて食べる食材の毒性の有無などを調べるため奴らは頻繁に使うようだ』


 ケインさんの言葉から、なんとなく(つか)めた。拠点に張られた転生者の障壁(しょうへき)を破る方法。それは……


『今夜10時。転生者の一人が監視役とおぼしき女と寝所(しんじょ)に入った後に決行した。魔方障壁を張る転生者は一人きり……そこに“客”を寄越(よこ)した。ナインズを名乗る大斧を持った黒髪黒服の男をな』


 ――それ、まさか……


「ソウジに化けた魔人を差し向けたってことね。そういうマネができるのは……ネルヴェル族の魔人かな?」


『その通りだマーリカ。ネロシスのおかげで、ソウジの名と姿は国統(こくとう)軍の者達にも伝わっているからな。案の(じょう)拠点の連中は騒然とし、対抗できそうな転生者を差し向ける。その時転生者はどう行動するか? まず相手が本当にナインズかを確かめるだろう。まず初めに“鑑定”スキルを使うだろう』


 ――その瞬間に、仕掛けた。


「ああ。その時、その瞬間。たった一撃。最大級の一撃を」


 通信ピアスに、小さい笑い声が届いた。恐らくラスティナのものだろう。


「ネルヴェルの戦士には我々と同じ通信ピアスを渡していた。鑑定スキルを使った刹那(せつな)、魔法障壁が消失したほんの一瞬。我々は見逃さずラスティナの一撃を見舞(みま)った。

 後は旧港町シパイドと同じだ。彼女の一撃は森を直線上に焼き払い、奴らの拠点をこの世から消滅させた。指揮をしていたジレドの准将(じゅんしょう)、二人の転生者も残らず灰に。

 周辺の森や砂漠の近辺(きんぺん)に展開していた連中は残っているが、これは無視してよい。司令官を無くした多国籍軍など愚連隊(ぐれんたい)と変わらん。おめおめ自国へ引き返すか、戦果無しで引き返す事のリスクに怯え士気(しき)が最低の状態で仕掛けるかのどちらかしかない。仕掛けられれば粛々と返り討ちにしてやればよいだけだ」


 ――そうですか……


 ケインさんの話を聞きながら、ひとつだけ、どうしても無視できない疑念が残り続けていた。


 それを口にする前に――マーリカがそれを悟ったように、うんざりする口調で言を発する。


「はぁー、まーた始まったわよ、いい人ゴッコ。どうせソウジのことだから、“ネルヴェルの戦士を犠牲にしたのか”とか言い出すんでしょきっと」


 そういう言い方をされるのは癪だが……まあ図星ではあった。


 すると通信ピアスの声が、ケインさんから軽薄(けいはく)な男の声に代わる。


『ああ、やっぱりなあ。まあそういうトコ気にするだろうなとは思ってたぜ?』


「あらネロシスじゃん。アンタもそっちに戻ってたの?」


『オイオイ、忘れたかいマーリカさん? 俺にとって距離は関係ない。お前等の知っている場所は全て俺の庭になるんだ』


「空間移動ね。便利な能力よねえホント。で、何? 口ぶりからしてネルヴェルの魔人は助けてやったってこと?」


『へへへ。ま、そんなトコさ。スキルを使ったとネルヴェルの奴が言った瞬間、俺が移動させてやった……まあ少しばかり遅れちまったから、頭頂部の髪の毛が逃げ遅れちまったけどよ』


「え~……それって、ソウジの姿のまま髪が?」


『おう。ソウジに化けたまま、斬新(ざんしん)なヘアスタイルで帰ってきたもんだからよ。朔夜隊(さくやたい)全員で爆笑しちまったぜ』


 オイコラ。


「え~マジ? それちょっと見たかったかも」


『カメラ? とかいう姿を紙みてえのに残す道具があったらよかったのになあ。記念に残したかったぜあれは』


 ふざけんなコラ。


 ……抗議したい気持ちはやまやまだが、それはこらえ、とりあえず誰かを使い捨てにするような最悪な手段を使っていない事には安堵(あんど)した。


『ああちなみにだが、転生者の方にも戦線離脱するよう勧告(かんこく)はしてたんだぜ? ミズリスの奴らがこっそり接触して説得してたんだけどよ……結果はごらんの通り。奴らの決意は揺らがなかった。この世界で愛した女と、女が愛する世界を守れればそれでいいんだとよ。へへへ、ロマンチックだねえ』


 ――そうか。


 俺と同じ転生者なら助けてやりたいという気持ちはあったが、愛する者を守るという明確な意思で敵対したというなら……俺から言うことはなにもない。


 通信ピアスの声が、ネロシスからラスティナに変わる。


「ソウジ。我々はできる限り手は()くしたぞ。だがあの転生者達は最後まで(こた)えることはなかった。元の世界に帰らずこの地で最後まで生きることを選んだ。ならば滅ぼしこの地に(かえ)してやる他はあるまい。奴らにその覚悟はあった。(ゆえ)に我々は応えた。わかるな?」


 ――わかってるさ……


 ああわかっている。スジは通っているさ。転生者達にも、それを迎え撃ったナインズにも……

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