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転生者殺しの第九騎士〈ナイトオブナイン〉  作者: アガラちゃん
十六章「パスコウ島防衛戦」
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16章-(6)

 己が何者か。そんなことを突然尋ねられて即答できる奴は少ないだろう。


 ケインさんが言うには、俺が定められた未来とやらを歪めているようだが……そんな身に覚えのない事を指摘されても困る。


 俺にはどうすることも出来ないし、何か答えることもできない……俺はケインさんにそう答え、ついでに1つ、尋ねる。


 ――その事。未来予知の話は……他のナインズの連中は知ってるのか?


「全員には話していない。ラスティナ、シュルツ……それから、マーリカの三人だな」


 ――マーリカも……?


「ラスティナとシュルツへ話した時、盗み聞きしていたそうだ……あの女は心の底では何者をも信頼しないからな。我々3人で集っている事を不審に思い盗み聞きしたのだと言っていた」


 マーリカも予知について知っていた……つまり、それは――


「無論話した。お前は七罰(しちばつ)に破れて死ぬのだと」


 ――それで、あいつは……


「笑っていたよ。死に場所には丁度(ちょうど)良いと。それよりも、自分の命をきっかけにお前が魔剣(まけん)に取り込まれ、憎悪の怪物と成り果てることを嬉しがっていた……奴にどのような過去があったかは知らぬが、私と同じくロクな人生を送っていないようだな」


 マーリカ。


 いつも一緒にいるが、思えばあいつの過去や何を思ってナインズに入ったのか、といったことは何も知らない。


 文句を言いつつも何だかんだで俺に合わせてくれる所もあるが、元来彼女は血と殺戮(さつりく)を望む。さらに自分自身にも痛みを与えるべく、躊躇(ちゅうちょ)無く激痛を(ともな)う魔法を涼しい顔で使い続ける……


 ……知らないこと、知らなければならない事はまだまだ多いようだ。直接尋ねて素直に答えるわけないだろうが、知っていく必要があるだろう。マーリカのこと、ラスティナ達ナインズのことも……


 そんな事を考えていると、ケインさんの隣にいたヨルトさんが口を開く。


「ケイン様。来ました」


 背後から複数の足音。振り返ると――もはや見慣れた連中が俺に笑いかけていた。


「話は終ったかいソウジ! それじゃあ今度はあたし達がそっちの軍師さんと話す番だね」


 コスタ。そしてロブを含めたエルマノス一味が、夜風に船長服やバンダナをたなびかせて(たたず)んでいた。


 ――この戦いにあんたらも参戦するのか?


「曲がりなりにも同盟は結んでるからね。もちろん力を貸すさ」


「それに海軍共には恨みもある」


「こんなへんぴな村を大人数の兵寄越(よこ)して蹂躙(じゅうりん)する……胸くそ悪い話だ。参戦することに異議はねえ」


 コスタの他、海賊達から意気揚々(ようよう)とした声が次々に上がる。


 ケインさんは腕を組んだまま、ゆっくりと彼らへ頷く。


「うむ。良く来てくれた。お前達の協力に大いに感謝しよう」


「感謝とかいいよそんなのは。で? あたし達は具体的になにすりゃいいのさ?」


「そうだな。まずは――」

 

 続くケインさんの言葉に、海賊達は仰天する。


「手始めに、お前達の持つ船を全て沈めよう」


◆◆◆


 深夜3時。


 防衛のための準備はあらかた終わり、村人達と海賊、俺達ナインズは再び集会場へ集まった。


 仮眠する時間は与えられていたが、一睡もできなかったのだろう。村人達は疲労と不安からくるアドレナリンで、暗くぎらりと興奮しているような目を浮かべていた。


「ケインの予想では、あと2時間ほどで海軍と接触する」


 ラスティナがそう告げると、村人達と海賊達が一斉に息を()む。


朔夜隊(さくやたい)は先に配置についた。これから各々の持ち場についてもらおう。私は――この場で非戦闘員の村人達と共にいよう」


 ――高見の見物を決め込むつもりか?


 俺が尋ねると、ラスティナは一笑。


「ここが私の持ち場だ。もしも敵がここへ近づいた時は即座に打ち倒す。いわば私自身が最終防衛ラインといったところだ」


 ……なるほど。一応村人を守る気はあるようだ。俺は心の内でホッと安堵する。


「分かっているだろうが、防衛ラインというものは決して動いてはならない。私が動く事態となれば、必然的に守備範囲から漏れた村人が犠牲となる……ここに居る女子供を守りたくば、各々(おのおの)奮起(ふんき)することだな」


 うなだれる村人達。だが男達をよく見れば、何か強い決意を固めるように拳を握り締めていた。


 ノフト村長が言っていた。逃れられない時が必ず訪れると。きっと今がその時なのだろう。


 俺の相手は海軍本隊。そしてそこにいるであろう六大国側のチート転生者。これまで以上に厳しい戦いになるだろう。俺も覚悟を決めないとな……


「オッケー。んじゃラース、この子預けとくからよろしくね」


 マーリカはスペルソードを抱えて不安げにしていたセイの襟首(えりくび)を掴み、ラスティナにそう言った。


「無論だ。その子は我々にとっても重要だからな」


――心にもないことをよくスラスラ言えるな。そんなに大事なら俺達に預けず、最初からあんた達で守ってたらよかったじゃねえか。


 周囲に聞かれないよう、通信ピアスごしに小声でそう言った。


 セイはこの世界と俺達の住む世界をつなげることができる“開闢(かいびゃく)の巫女”。この世界の破滅を願うナインズとしては彼女には亡き者となってもらうのが一番のはずだ。


 だが、ラスティナからの返答は予想だにしないものだった。


(何を勘違いしている? お前達こそ彼女に守られていたようなものだろう?)


 ――なに? それはどういうことだ……?


 そう言い返し――すぐに俺はその言葉の意味を理解する。


(例の武闘会でジレド側にお前の存在が完全に知れ渡った。敵に転生者がいると分かっていながら、何故奴らは大規模な戦いを仕掛けなかったと思う? 奴らの国にも転生者は大勢いる。そいつらを総動員させ山でも森でも焼き払わせれば済む話だ。なぜそんな行動をしなかったと思う?)


 ――そういうことかよ。あの子は俺達にとって、体の良い人質ってことか……!


 そう。ジレドにとってもセイはかけがえのない存在だ。俺達を倒すため、転生者による強大な魔法で周囲一帯を焼き払うマネをすれば、セイにも危害が及ぶ可能性がある。


 だからジレドは俺達に対して慎重な動きを見せているのだ。一撃で小島を消し飛ばせるほどの力を持つチート転生者の力はあまりにも危険。だからウェンディのような刺客を放ったのだろう。


 この状況は俺達にとって非常に好都合だ。遠距離から矢継(やつ)ぎ早にチート転生者共からの爆撃を受け続ける心配はない……こちらにはセイという人質がいるのだから……


(そう気に病むな。お前達に付いてきているのはあの子の意思でもあるのだからな)


 ――あの子の心も利用してるってことだろうが……全て思惑通りってことか? この村を守ることに感心して損したぜ……


(悲しいことを言ってくれる。私はみんなの幸せを願い行動しているんだよ。あの子も、この村の者達のためにもな)


 ――ほざけ。この村の奴らを助けようとしてるのも何か企みがあってのことだろ?


(さてな。想像に任せよう)


 小馬鹿にするような笑い声が耳に届き、俺は返答代わりに舌打ちを漏らした。


 と、その時。


「あの~……わ、わたしはどうすればいいんでしょう?」


 尋ねてきたのはウェンディだ。これからの戦いに怯えているようで、頭のケモノ耳が完全に水平に寝ている。


「ぶっちゃけ、わたし精神への魔法以外はからっきしで、戦いとかそういうので役に立てないんですが……わたしの魔法、こういう合戦とかに向いてないですし……」


 ――いや、俺は指揮官とかじゃないから、どうするって聞かれてもなあ……


 すると、スペルソードを持ったセイがトコトコ俺達の側に来て、自信満々な様子で自分の胸を叩いて見せた。


“自分に任せろ”とでも言いたいのか? 確かにこの子には多少剣術を教えてはいるが、あまりにも危険すぎる。


 しかし……この子はいつもこうして自ら危険な場所へと(おもむ)こうとするな。剣を教わっている自身からではない……きっと、俺やマーリカが彼女を守っている状況にガマンできないのだろう。


 自分も同じ旅をする仲間だから。だから少しでも役に立ちたい。そんな思いがあるのかもしれない……それでも彼女には悪いが、その思いに答えてやるわけにはいかないな……


 そんな事を考えている俺とは裏腹に。


「えっ!? ウソ、守ってくれるの!? セイちゃんありがとう頼りにしちゃうーっ!!」


 ウェンディは彼女を守ると言ってきた9歳児に対し、全力で感謝のハグをしてみせた。恥を知れ恥を。


 そしてウェンディの胸に顔を押しつけられ苦しげにジタバタするセイ。力の加減も知れ。


「心配せずとも、二人とも傷1つ負わせはせんよ。安心するといい」


 苦笑するラスティナ。


 すると、ウェンディは小声で俺に尋ねる。


(えっと、ソウジさん、あのお方のお名前ってどんなんでしたっけ?)


 覚えてないのかよ。俺が仕方なく教えてやると、ウェンディは感謝のハグをラスティナへも仕掛けようとした。


嗚呼(ああ)! ラスティナ様――ホブシっ!?」


 しかしその手前で、冷酷そのものの表情をしたシュルツさんに顔面を(つか)まれ阻まれた。まあ元刺客にノコノコ近づかせるわけにはいかねえよな。つうかホブシて。


 ウェンディとシュルツさんのやりとりを見て、村人達や海賊達の緊張が若干ほぐれたようだ。わずかに口元を緩め、リラックスするように肩を落とす。


 そんな彼らの中で、俺は一人の人物の視線が気に掛かった。


 反戦を唱えた女性の娘。今でも惚けるような表情でラスティナを一心に見つめている。


 少女の名はメノウ。


 彼女から決して目を離してはならない――なぜだかそんな予感めいた感情が胸をかすめた。


 そして、その予感が的中することになるのは、この戦いからずっと後になってからだ……

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