2章-(8)レクリエーション
「他の階は我々が見回る。が……ナインズの部屋はさすがに立ち入ることができない。申し訳ないが、ナインズの面々で見て回っていただきたい」
レイザさんら魔人、それに普通の人間達がそう言いそれぞれ城の各所へと散っていった。
……それぞれ自分の部屋に戻って探せばいいのか。そう思ったが――どうやら他の連中はもっと非効率的な方法が好みらしい。
「ここがソウジ君の部屋、ですか……清掃が行き届いておりませんね。早急に大掃除するように指示しておきましょう」
「ウハハハ! 相変わらずクッッソ狭いのうこの部屋は! ウサギ小屋のほうがもっとマシではないか!? ウハハハハハ!」
「真のミニマリストは部屋の広さをも捨て去る……収入や精神的な余裕さもミニマムに思われそうだけどな? はははっ」
「……カビ臭い。ホコリ臭い。俺は外で待機させてもらう……」
「ベッドの中もチェックしないとね~……ふふ、いい匂い……」
シュルツさん、ダンウォード、ネロシス、イルフォンス、マーリカら五人が一同に俺の部屋に集まり、思い思いの事を口走る。
だがその中でもマーリカはひときわ気色が悪かったので、俺はこの女を全力でベッドから引きずりおろした。
「なによお! ちょろっとベッドの中を確認しただけなのにぃ!!」
――ベッドには誰もいねえよ。よかったな結果がわかって。二度と俺のベッドに、てか部屋に近づくな。
マーリカは不満げにぷう、と頬を膨らませた。そいつはフグのマネか? 威嚇してるのか? 受けて立つぞ?
「ここにはいないようですね。では次の部屋を探しましょうか」
いや、もういい加減各々で探したほうが良くないか?
俺がシュルツさんにそう言う前に、五人はさっさと他の部屋へと移動していった。あー、もう面倒くせえ……
「おう、ここはワシの部屋じゃ。まあ入れ入れ!!」
ダンウォードのジイさんを含む5人が入り、俺もしぶしぶ室内に足を踏み入れた。
すると――目の前に現れたのは無数の金属製の器具。
これは、もしかして体を鍛えるための器具か? 形状こそ違うがベンチプレスのような器具など、ジムにありそうな器具が部屋のところどころに設置されていた。
「うわー……部屋の中まで脳筋なんだ……」
マーリカが、俺がまさに思っていたことを口にした。
「ああん!? ワシらは体が資本ぞ!? ぬわんか文句とかあ、あるんかのう!?」
酔っ払いが怪しいろれつで抗議してきた。このへべれけジジイが参加するパーティーには二度と行きたくないな。
「……ラスティナ様はおられないようですね。さっさと次の部屋を探しましょうか」
シュルツさんがそう言うと、
「おおう! 次は誰の部屋かのう!?」
酔っ払いジジイがノリノリでついてこようとする。
シュルツさんの視線が俺に向く。
俺は彼の意図を瞬時に読み取り、ゆっくりとうなずいた。
「ぬ? なんじゃ貴様ら――!?」
「いきますよソウジ君!」
シュルツさんがダンウォードの右腕を抱える。
あいよ! と俺はジイサンの左腕を抱えた。
そして俺達は、ダンウォードを中心に猛烈な勢いで右回転し続けた。
「ま、待たんか! 貴様ら悪ふざけを――おええっ!!」
酔っ払いのジジイはふらふら倒れ込み、そのまま動かなくなった。いいぞ。そのまま部屋に引きこもってろ。
「――酒癖の悪いジジイよ。お前が欲しいのはこの金属製のバケツか? それともケイン特製の胃薬か?」
「あー……女神さまあ。ワシは普通の斧を池に落としたんじゃよお……」
「なるほど。寝てろ。馬鹿に付ける薬はねえんだジイサン」
ネロシスがそっと置いたバケツを大事そうに抱えるダンウォード。
背後でスプラッシュ音が聞こえる前に、俺を含めた5人が別の部屋へ移動する。
「ここは私の使っている寝室です……まあ、取り立てて紹介するものもありませんが」
シュルツさんの部屋は、本人のイメージ通り綺麗に整頓された部屋だった。
というか、物がない。ベッドと執務を行うのであろう机、本棚、衣類のケース。これだけだ。
「うっわーつまんねー部屋ー」
「まあまあ、一目見てナイト“1”がいないのがわかるっていう利便性は評価しようぜ?」
マーリカとネロシスが本人を前に無遠慮な感想をほざく。ナイト“1”ってのはラスティナの事だろうか?
ふと、イルフォンスの方を見ると机にある何かを手に取っていた。
よく見ると、小さい人形だ。
黒一色で金色のボタンの服を着た、二頭身の人形……まさかあれ、俺か?
他にも、白いワンピース姿の人形や、鎧をまとうヒゲの生えた人形、リーゼント姿の人形、刀を持った人形がある。どうやら、ここにいる連中をかたどった人形らしい。
さらに、翼の生えた人形や、タコ足の生えた人形、オオカミのような顔をした人形など、あのパーティー会場で見た面々の人形まであった。
なんだこれ……まさか、シュルツさんの手作りか……?
「ああ、それですか。私は人の姿と名前を覚えるのが少々苦手でして……忘れないように、一人ひとりの特徴を表した人形を作っているんです」
いかにも記憶力には自信ありそうな顔してるのに、意外だな。
というか、人を覚えるために人形こしらえるとか……それほどまでに忘れやすいのか?それとも絶対に忘れまいとする執念なのか……
「うひゃ~夜な夜なこんなカワイイお人形作ってはニヤニヤひとり遊びしてんの? この人超ヤバくな~い?」
「そうですねマーリカ。可愛いらしいのは重要です。心が洗われる思いがします」
「カワイイのがいいって……はっ! もしかしてあたし狙われてる!?」
「はて? 可愛いものと君との接点が見えませんが? よろしければご高説たまわりたいものです」
なるほど。人形作りは趣味か。
……まあ、人の趣味にケチつけるのは無粋だ。本人が楽しそうだしまあいいのかな。
「ああ、ソウジ君ちょっとお待ちを……その斧も制作しておきたいので、軽くスケッチを」
シュルツさんはいそいそとペンと手帳を持ち出し、素早く背中の斧をスケッチしだした。
……なんか嫌だな。実害はないんだが……うん。
「おい……いつまで大勢でゾロゾロ部屋を見て回るつもりだ?」
イルフォンスが、さっきから俺が言いたかったことを口にした。
「ん? 一応ソウジにもあたしらの部屋を覚えてもらったほうがいいっしょ? それをかねて探してるんだけど?」
「……そんなお遊びをしてる場合か? ナイト“1”が言ったことを忘れたのか? ……もしも、あの鉄扉から勝手に出てきたら、その時は――」
殺気をはらんだイルフォンスの瞳。
シュルツさんは、それを制するように片手を挙げる。
「『もしも24時間以内に扉から出てきた時は迷わず殺せ』……あの方はそうおっしゃられましたが……そうですね。どうやら私はその決断を先延ばしにするため、時間を無駄にしていたのかもしれません。
……では、ここからは各々に別れて捜索しましょう。しかし彼女を見つけてもけっして手はださずに願います! 必ずナインズ全員に連絡を!」
そして、シュルツさんの部屋の前で俺達5人は散開した。
途中でマーリカに尋ねる――ラスティナが姿を消したことの何が問題なんだ?
「ソウジもよく知ってることだよ?」
マーリカがニヤリと笑う。
「『伯爵』の呪い、ってやつ?」
……どういうことだ?
呪いを受けていたのは、たしかあのオグン。
そのあと俺の時計にまでくっついてきたが……しかし俺の方にはなんの異変もない。
『伯爵』とあの女に、なんの関係があるんだ……?
疑問を抱きつつ、俺はラスティナを探すため、目の前にあった扉を開いた。
すると――目の前の光景に愕然とした。




