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転生者殺しの第九騎士〈ナイトオブナイン〉  作者: アガラちゃん
十四章「Dive in to Abominable」
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14章-(4)

 ――なあ、訓練の前に、1つ賭けをしてみないか?


「?」


 可愛らしく首を傾げるセイ。俺は続けて提案を述べる。


 ――ちょっとしたゲームだ。お前が勝ったら今まで通り訓練をする。負けたら今日の訓練はパス。これでどうだ?


「……」


 なんでそんな提案に乗らなきゃいけないの? こっちにメリットないんだけど? そんなことを言いたげな顔だな。


 ……仕方ない。


 ――じゃあ、お前が勝ったら何でも1つ頼み事も聞いてやろう。これでどうだ?


「!!」


 言うや否や、セイはパッと瞳を輝かせ、嬉しそうに何度も(うなづ)いて見せる。


 正直、スキルの効果もよく分かっていない状況で安請け合いし過ぎだと思うが、大丈夫だろう。負けたとしてもそんな酷いお願いはされないだろうし。


 とか思っていたら、こちらに背を向けたセイは俺にやらせたい事をアレコレ考えているようで、何やら地面に様々なお願い事を書きながら真剣に思案(しあん)


 時折ニヤリと暗い笑みを浮かべているのが凄まじく不安だ……


 だが問題はない。例えスキルが不発したとしても、俺が負けることはない。


 ――それじゃあゲームについてだが……あっち向いてホイ、分かるか?


「??」


 やっぱわかんねえか。異世界だもんなここ。


 俺は彼女に大まかなルールを説明。単純な内容なので、すぐに理解してくれた。


 ――それじゃ始めるぞ。先行は俺。三回先取した方が勝ちだ。


「っ!!」


 どんと来い! と言わんばかりに眉を寄せて頷くセイ。


 ――あっち向いて――


 彼女の眉間を真っ直ぐ差しながら、次の瞬間スキルを発動。


 マーカー。左の木に発動。


 ――ホイっ!


 言った瞬間、セイはまんまと俺がマークした木へと振り向いた。


「……」


 唖然とした顔でこちらに向き直るセイ。どうやら彼女自身も自覚なく動いてしまったようだ。


 これがスキルによる力、だろうか? もう2、3回試して確認しておかないとな。


「……!」


 今度はセイが敵意むき出して俺に人差し指を向ける。後攻である彼女の番というわけだ。


「っ!!」


 言葉を発さずに真上を指さすセイ。


 俺は余裕で真逆の下を向いてやり過ごした。


 ……ここ最近は“機先(きざし)”の見切りが()えてきたようで、相手のわずかな予備動作から次の行動がある程度読めるようになってきた。


 そう。例えスキルがなくとも、この“機先”がある限り俺が負けることなどありえないのだ。


「……!」


 悔しそうにこちらを(にら)むセイ。俺は小さく肩を落とす。次は俺の番だな


 ……セイには本当に申し訳ないが、スキルの実験をさせてもらった後は早々に敗北してもらおう。



 ◆◆◆



「……で、何やってんのよアンタら?」


 呆れたようにこちらを見るマーリカ。俺は構わず、セイに語りかける。


 ――いいか? 離すぞ?


 「……ッ!!」


 俺がセイの両足を離すと――セイは両腕をプルプル震わせながら、見事な逆立ち姿勢をキープ。


 約1秒半の短い記録だったが、彼女は「やりきった!」と言わんばかりに笑顔でガッツポーズ。俺はおざなりに拍手をして迎えてやった。


「また訓練か何かをしてきたのかと思ったら……もう訓練は飽きちゃったの?」


「!!」


 セイはブンブンと首を振って否定。そして身振り手振りだけでどうにか状況を説明しようとしていた。


「うん。わかんない。アンタはもういい加減しゃべれっての」


 仕方がないので、俺がセイに代わって説明した。


 ……あの後、10回ほど勝負をしたが、俺が全戦全勝し、セイは一度も俺に勝つことができなかった。


 それでもセイは諦めず、泣きの一回として11回目の勝負を挑む。


 その際、「負けたら逆立ちして帰る」という文を地面に書き、自らペナルティーを申し入れてきたのだ。


 結果は当然のように俺が勝ち、彼女は言った通り逆立ちをしようとして――まるでできずに四苦八苦していた。


 なので、俺が手を貸してようやく逆立ちを成功させた――というのが今の寸劇(すんげき)顛末(てんまつ)である。


 ……俺に一勝もできず、むくれているセイには少し心が痛んだが、最終的には笑顔になってくれたので良しとしよう。


「ふーん……訓練休みたかったからってのはわかるけど、なんでいきなりそんなゲームを?」


 マーリカに言われ、俺は一瞬どう答えようか悩んだ。


 このスキルの事を伝えれば、“どうやって得たのか?”という話になり、リントの奴の事をバラさなければならなくなる。奴から口止めするように言われてるし、適当にはぐらかさねえとな。


 ――えーっと……俺の“機先(きざし)”のレベルも上がってきたみたいでな。それであのゲームを利用して試してみたってわけだ。


「……本当?」


 アホみたいに勘がいいなコイツ。俺は動揺を見せず、頷いてみせた。


「ふーん……ま、今の自分の力を知る事はいいことよ。慢心(まんしん)は死を招くし臆病すぎるのも逆に(しか)り。自分と相手の力量を冷静に把握してこそ正確な戦術が()れるわけだしね」

 

 自分自身の力量を知る、か……


 確かに知らなければならない。新しく手にいれたこのスキル、マーカーの力。


 セイ相手に使ったところ、俺がスキルを放った場所へ面白いように振り向いてくれた。


 かなり地味な能力だが、戦闘中に用いれば相手へ強制的に隙を作らせることができるだろう……セイ以外にもこのスキルが通用すればだが。


 あの妖精は現れなかったから、まだレベルは上がっていないってことだろうか? ……レベル上げも()ねて、他の奴にもこのスキルを使ってみなければ。


 ということで。


 ――お前もやってみるか? 今の俺なら誰にも負ける気がしない。


 マーリカの奴にも試すべく、俺は彼女に勝負を挑んでみた。


「……あたし相手でも“機先”が通じると思ってんの? それこそ慢心ね」


 ――自分の力量を把握する事は大事なんだろ? だったら俺を負けさせてみろ。今の俺が慢心しているってことを教えて欲しいもんだ。


「つまんない挑発だこと……まあいいわよ。一勝負くらいなら受けてあげる」


 ため息を吐きつつ、マーリカが勝負に乗ってきた。


 ありがたい。これでスキル効果の検証とレベル上げができる。


「で、勝負ってからにはセイみたいに報酬はあるのよね?」


 そう(たず)ねるマーリカ。嫌な予感しかしないが、了承しなければ勝負自体受けてはくれないだろう。


 嫌々ながら、俺は(うなづ)いてみせた。


「おっマジ!? へーそう、んじゃあたしが勝ったらねー……」


 ――ヤらせろってのは無しだぞ?


 俺がそう釘を刺すと、マーリカは猛然と反論。


「はあ!? セイの時は制限なしで何でも聞くっつったじゃん! なんであたしだけダメなのよ!?」


 ――仕方ねえだろキモいんだから。


「……あのさソウジ、できればその……もうちょっと汚いものを見るような、ゴミを見るような視線でさ、今のセリフを……」


 何やらマゾのスイッチが入ったらしい。キモい発言にドン引きしたり突っ込んだりしたらたまにマゾが覚醒してさらにキモくなるんだよな。疲れるわー……


 ――明らかにセイよりも手強いお前相手に“何でも言うこと聞く”とか言えるわけないだろ? 常識で考えろよコイツう☆


「キモッ!! (さわ)やかスマイルでツッ込むの止めろっつってるでしょ気持ち悪っ!!」


 鳥肌全開で拒否反応を示すマーリカ。こいつとも長い付き合いだし、あしらい方も分かってきたな。


「あー……まあいいわよ。ヤらせろとか言わないから」


 おっ? なんだ、意外と引き際が良いな。


 ……とか思ってたら。


「言わないけど、その代わりあたしが勝ったら1日全裸で過ごしてもらうから」


 良くねえ! 結局俺へセクハラは慣行(かんこう)されるんじゃねえか!!


「……大丈夫よ。セイもいるからね。流石(さすが)にモロ出しでいさせるわけないでしょ?」


 おっ? なんだ、意外と常識的――


「ほら、これで局部を隠していいわよ」


 そういってマーリカが渡したのは……一枚の皿、だった。


 ――おい。


「やっぱね? いきなり全裸とか冷めるじゃん? 見えるか見えないかギリギリのとこで魅せるチラリズム? それが最近のあたしのムーブメントっていうか」


 そう言うマーリカは、興奮するように鼻息を荒くしていた。


 いや、なんで俺がこんな異世界でア○ラ100%状態にならなきゃならねえんだよ! と言いかけた時、マーリカが肩を落として言った。


「嫌ならアンタが勝てばいいだけじゃん? 勝つ自信があるから勝負仕掛けてきたんでしょ? ほら、アンタが勝った場合は?」


 ――じゃあ、俺が勝ったら二度と金輪際(こんりんざい)セクハラ発言は禁止な。


「……オッケーそれでいいわよ。それじゃあ早速勝負を……と言いたいとこだけど」


 す、とマーリカの瞳が冷酷に細まる。


「その前に……()()()()()()()()()()()を片付けるのが先かな」


 何っ!?


 マーリカの発言と同時に、ガサガサと彼女の背後で枝葉(えだは)()れる音。マーリカに気づかれ(あわ)てて逃げた? ならば……!


「くれぐれも殺さずにね? 回り込んでとっ捕まえなさい」


 俺が敵を追うと、すれ違いざまにマーリカがそう(つぶや)いた。


 言われるまでもない……!


 たき火から離れると、暗い夜の森が周囲を闇で覆い方向感覚すら狂わせる。


 だが問題はない。斧の視界を借りたおかげで、今の俺の視界は昼間のようによく見える。


 複雑に生える木々を難なくかわし、迂回(うかい)しながら敵の進路へ回り込む――今だ!


「がふぁっ!?」


 俺は隣の木を蹴り、敵へと体当たり。同時に素早く腕の関節を(きわ)め、対角線にあった太い木の幹へ相手を叩きつけた。


「んぎゃっ!!」


 ……斧を遠隔操作し、派手な音を立てさせ、あたかも背後に迫っているかのように追い立てた。そうやって逃げる場所を誘導し、回り込んでとっ捕まえる。


 今日狩った獣相手にも使った手だ。この暗闇ならば人相手にも有効。


 ……さて、こいつが一体何者か。おそらくジレドの手の者だろうが、しっかりと吐かせないとな。


 しかし。


 押さえつけていた時、ようやく気づいた。


 長い黒髪、筋肉の少ない細い腕……


 ……女?


「いだだっ! いだい痛いだだだっ!!」


 俺が腕をひねり上げていたせいで、彼女は激痛にのたうち回っていた。


 ……彼女の名は、ウェンディ・ルー。


 ジレドを治める公爵、ギュスペルク公が直々(じきじき)下知(げち)を下した、(まぎ)れもない俺達への追手であった。

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