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転生者殺しの第九騎士〈ナイトオブナイン〉  作者: アガラちゃん
十三章「最強チート転生者統一トーナメント」
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13章-(5)チートテイマーの転生者

「クソ、クソっ!! 何なんだお前は!?」

 

 (あせ)りと驚愕(きょうがく)に感情に思わず後退する転生者。


 俺は構わず前進し、転生者が逃げ込んだオーク達の戦列(せんれつ)を斧で切り(くず)し、散乱する緑色の血肉をかき分けるようになおも前進。すぐさま距離を詰め、転生者へ横薙(よこなぎ)ぎの一撃を放つ。


 転生者は赤く輝く細身のサーベルで受け、激烈な衝撃波がコロシアム全体へ響き渡った。


『ヒジウラ・シュウ選手、ソウジ選手の猛攻に距離を取る! しかしなおも食らいつくソウジ選手! と、とんでもない事が起きています……魔獣の軍勢を前になす術無く蹂躙(じゅうりん)されるのかと思われたソウジ選手、逆に魔獣の軍を手玉に……というよりほぼ相手にならない状態で一人で駆逐しながらシュウ選手への攻撃も手を抜かない! も、もう何が何だかわたしもサッパリな状況です……!』


 武闘大会の2戦目。相手は予想通りの転生者だった。


 予想を外していたのは……敵が魔獣であったことだ。


 ヒジウラ・シュウ。奴の転生前の名前だ。この大会に登録するにあたり、転生者は元の世界の名前を伝える必要がある。


 奴は……魔獣としてこの世界に転生した。種族は“インキュバス”。男から精気を奪う妖魔サキュバスと対を成す、男版のサキュバスのような存在だ。


 青紫色の肌に二本の角、金色の髪と瞳を持ち、漆黒のスーツを身につける印象的な姿。奴の話では初めは魔獣としても最低ランクだったが、自分の能力の真の力に気づいてからは周辺の魔獣達を統べるほどに成り上がったのだとか。


 魔獣として生まれる転生者もいるとは聞いたが、こんな所で出会うとはな。


 生い立ちやここまでどうやって生活していたか興味はあるが――戦場で出会った以上、語ることなどない。倒すか倒されるか。ここにはその二つの結末しか用意されていない。


「行けえ!」


 シュウが命じると、粗末(そまつ)な槍と胸当てで装備した10近いオークの群れが、弾かれたように俺へ槍の穂先(ほさき)を向ける。


 だが――遅い!!

 

 俺は槍ごと目の前のオーク3匹の胴を斧で薙ぎ払い、残りのオーク共の攻撃を難なくかわし前進! 逃げるシュウへ距離を()め斧による連撃(れんげき)を放つ!


「しつこいんだよっ!!」


 シュウは赤光するサーベルで斧の攻撃を受ける。恐らく何か魔術による加護を受けた剣なのだろう。


 ならば。


 俺は斧の刀身に大量の血の霧を纏わせ、回転エネルギーを乗せた唐竹割(からたけわ)りを放った!


 ガギン!


 (にご)った金属音と共に斧を受け止めるサーベル。しかし……血の霧が徐々に赤いサーベルを黒く(けが)し、魔術による赤い輝きを失ったサーベルは徐々に歪み、ついには真っ二つに折れてしまった。


「……なんだと?」


 驚愕(きょうがく)に目を見開くシュウ。勝機か。


 俺は素早く右手首を回し、斧を逆手に持ち、地面に()い止められた斧を引き抜き――同時に斬り上げを放つ。


 だが――グワン!


 金属音。見ると、シュウは腕をウロコ状に硬質化させ防御。


 腕を十字に組んだ防御姿勢のまま両足でブレーキング。1、2メートル下がった所で止まった。


「……危ない危ない。この“支配者の血”の能力が無ければ殺られていたかもだ」


 支配者の血。

 

 それはあのシュウの能力、魔獣を意のままに支配する能力だ。


 奴は自らの体液……即ち汗・唾液・血液などを相手の体内に入れることで相手を意のままに操る能力を持つ。


 さらに相手を支配した後は、その相手の能力も自らのものとすることができる……それが奴の“支配者の血”の真の力なのだそうだ。


 大した能力だ。転移魔法で大量の魔獣達を召喚してけしかけるだけでなく、自らもその魔獣達の能力を使いこなす。とんでもないチート能力。とんでもない化物だ。


 ……が、中身がお粗末なら肉体のスペックも無駄になる。


「う……!?」


 愕然(がくぜん)とした表情で膝を折り、両手を地面に付くシュウ。

 

 奴の両足から、おびただしい血が流れていた。


「ぐぉぁ……! 何だ? なにが……!?」


 撒微止(まきびし)


 足下の細かい石つぶての時間を遅らせ、相手の足を(えぐ)る魔法だ。


 奴が斧の攻撃で吹っ飛ばされた瞬間、同時にブレーキングする奴の足下、巻き上がる闘技場の砂粒(すなつぶ)や石のリングの欠片を時間遅延。結果、シュウにしてみれば高速で射出された砂礫(されき)に足を(けず)られたようにダメージを負ったわけだ。


 ――両手だけを硬質化させるからそうなる。足下注意だ。

 

 そう奴に告げてやった。まあ、これで次から全身硬化させるようなマヌケならありがたい。一瞬でも動けなくなれば、即座に()()()()で勝てる。


 しかし奴は俺の挑発には乗らず、周囲に転移魔法を展開。


 約60もの魔方陣が一度に顕現(けんげん)し、大量の魔獣達が姿を現す。


 先ほどの槍を構えるオーク達に加え、騎兵として首無し騎士(デュラハン)、さらにその背後には全長12メートル近い一ツ目巨人(サイクロプス)、上空にはワイバーンが10体俺の上空を旋回(せんかい)している。

背後にいるのは弓を構えたゴブリン達だ。(やじり)がうっすらと()れているのは……毒か。


『で、出ました! シュウ選手の指揮する魔獣達の軍団、“真夜中(ミッドナイト)の行軍(カーニバル)”……! 彼らを見た者はもれなく死の運命を辿(たど)るというウワサ! な、なにとぞわたしだけは見逃していただきたいっ!!』


 ふん、と俺は鼻を鳴らす。軍隊、というよりはまるで百鬼夜行だな。

 

「圧倒的な数の暴力の前に(おび)えろ……! 前進!」


 ザッ! と魔獣達は規律正しく動き、綺麗に戦列(せんれつ)を保ちながら前進。


 俺は斧を構えながら、鋭く、刃物のごとく精神を研ぎ澄ます。


 敵陣の規則正しい動き、整然とした波……(とら)えた。


 量を超える質、“機先(きざし)”の流れを!


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