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転生者殺しの第九騎士〈ナイトオブナイン〉  作者: アガラちゃん
二章「宴の後仕舞」
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2章-(4)異変の突端

 構わず回転し、斧を振り続けた。


 その時。


 するり、と。

 斧の動きに合わせて、イルフォンスが俺の間合いに入り込んだ。

 走るそぶりもなく、散歩するような軽い足取りで目と鼻の先まで近づいたのだ。

 ……実戦なら、俺の首はもう胴から離れていただろう。


「一つ、良いことを教えてやる」


 数センチほどの近さで俺を睨む、イルフォンスの暗い瞳。

 俺が気圧され固まっていると、奴は俺の斧の石突き部分を軽くつつく。


「リーチの長い武器をもっていると、体捌きに自信のある奴は必ず懐に潜り込もうとする……今みたいにな。

そんな奴は、ここで突け……斧を振り抜く瞬間に、柄を引き、石突きで突け。スピード野郎は、それで沈む……」


 言いたいことだけを言い、イルフォンスはスタスタと元いた場所に戻る。

 なんだ、あいつ。俺にアドバイスしてくれたのか……? 俺のことを嫌っているように見えたんだが……


「何をやっとる!? 回転を止めるなと言うたろうが! さっさとせい!」


 脳筋ジジイに怒鳴られ、しぶしぶ回転を続ける。

 もう一度イルフォンスに目を向けたが、奴は刀の手入れに没頭しているだけだった。




「――よう。なにやってんだ御三方?」


 俺が汗だくで斧を振り続けていると、ネロシスとかいう金髪リーゼントがご機嫌なテンションでやってきた。

「特訓じゃ!」


「……手入れを」


 ――新人イビリを受けてる。


「はは! 精が出るねえ!」


 楽しげに笑うネロシス。俺の心の底からの苦情もこいつにとってはギャグに聞こえるらしい。


「そんなガンバル皆様に朗報だ。楽しいパーティーの準備が整った。すぐに一階の広間まで集まってくれ」


 パーティー……? 

 いや、こんな真面目に世界の破壊とか企む昭和の悪の組織みたいな連中の言うパーティーだ。何か隠語みたいな――


「海の幸、山の幸も絢爛(けんらん)豪華に取り寄せた! 飾り付けも気合い入れてやらせてもらったぜ! 今夜はとことん楽しんでくれよな!」


 ガチもんのパーティーかよ!


「ほほう、そりゃ楽しみじゃのう! イル殿もどうじゃな?」


「腹は減ってる……うまい飯なら、ありがたくいただく……」


 うわ、あいつも普通に参加するのか。『なれ合いなどくだらん』とかほざいてどっかに行くような痛い奴のイメージだったんだが。


「おおい、ソウジも来んか! 今日はもう特訓はやらんでよい!」


「そうだぜソウジ。お前の歓迎も兼ねたパーティーだ! お前が来なきゃ寂しいぜ?」


 ネロシスの笑顔&ウインク。うわ、キモ。

 ……まあ、腹減ったのは俺も同じだ。参加しない理由もない。

 だが、一つ問題がある。


 ――この馬鹿デカい斧も持って行くのか?


「何をいっとる? 魔剣は持ち主の手から離れると何をしでかすかわからん。お前がその斧を手放す時はお前が死んで墓に入る時だ。寝食も風呂の間も常に近くにおいておけい」


 マジかよ……元の世界に戻る時は、全力でどっかにブン投げて捨てるわ。


「ま、帯刀してても気にする連中じゃあない。そいつも持ってきてOKさ!」


 いや、お前らが構わなくても俺が構うんだが。邪魔なんだよ、これ。デケえから。


「……貸せ」


 イルフォンスが斧の鎖を巻き取り装置から引き出し、石突き部分に引っかけた。


「これで、肩にかけろ」


 言われた通り、刃を下に向け、鎖をたすき掛けしてみた。すると、鎖は外れることなく、しっかりと斧が背中へ収まった。


「己の道具には敬意を払え……ぞんざいに扱うな。不愉快だ」


 そう言い、またイルフォンスはスタスタと先へ行く。

 意外と良いやつなのか? あいつ。


 あいつの考えはよくわからんが、わかった事が一つ。

 奴が斧に手を掛けた瞬間、俺の手に電流のような鋭い感覚が走った。

 あの感触。直感だが……この斧があいつに敵意を向けたのだろう。

 魔剣であるこの斧が警戒する相手。

 それは……あいつもまた、魔剣を所持している者だということ。


 あの刀か? 奴は終始うっとりした表情で刀を手入れしていた。

 あいつ、あの魔剣に魅入られているんじゃないか……?

 そんな事を考えながら、先を歩く三人の後に続いていると――


 ふいに、背後を誰かが通った気配。

 何だ? 誰だ? と後ろの通路を見て――俺はギョッとした。


 ラスティナ。後ろ姿は確かにあの女。

 だが――その姿は異常そのものだった。

 全裸だった。衣服を一切身につけず、素足で石の廊下をペタペタと歩いている。


 白く透き通った肌は薄暗い廊下で幽玄に浮かび上がり、思わず目を奪われるほどの艶めかしさがあった。

 だが、あのフラフラとした緩慢な動き。まるで……何かに操られているかのような。

 なんだあの女? ヤバい薬でもやってるんじゃないだろうな……?


「ソウジ! なにやっとるお前! 早く来んとお前の飯も食っちまうぞう!」


 ダンウォードに呼ばれ、俺は一瞬ラスティナから目を離した。

 もう一度振り返るが――ラスティナは、廊下の闇に完全に姿を消していた。


 前の三人にも伝えるべきだろうか?

 あんたらのリーダーが全裸で廊下をブラつていた……なんか、口に出すのもアホくせえ。

 やめとこう。そんな緊急性のある問題でもなさそうだし、あるいは本人の大切な趣味の一つかもしれないしな。黙っておくか。


 その時はそう思った。

 だが、この判断は後になって間違っていたと思い知る。


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